美少女Dosアタック

女の子を2人もお持ち帰りしといて、こんな事言うのもなんだが。


「女性は苦手だ……」


突然泣き出した葵さんと、それを見て僕を非難するローラさん。

店内のお客さん達も僕を冷たい視線で眺めてるし。


――僕に対する攻撃が止まらない。

なんだかそれが、順番に切れ間なく続いてく。


「まるでDosアタックを受けてるみたい」

「なにそれ?」


ローラさんが、現実逃避してる僕にツリツリの瞳で突っ込む。


「連続して攻めて、ダウンを狙う方法」

「ああ、波状攻撃の事ね」

「波状攻撃?」


なんだか聞いたことがあるような? でも具体的にはどんな方法だったっけ。


「押しては引く波のように次から次への攻撃を繰り返して……

相手を疲弊させてスキを突くの。

戦術としては、同時に圧倒する『一斉攻撃』と対になる考え方ね」


「ローラさんは軍にいたんだっけ」

「そうよ…… でも、今はそんな事じゃなくて!」


2人で葵さんを見たらどうやら落ち着いたようで……

運ばれてきた料理をパクパク食べてました。


「ルビー、もう大丈夫?」

「うん」


「じゃあ、とりあえず食事を美味しくいただいて。その後、作戦会議をしよう!」

僕がそう言ったら、葵さんはてれたように笑って……


「うん」

――もう1度頷いた。


いつかシンイチが言ってたな。

「温かい食事と笑顔が心の傷の特効薬だ!」って。


僕はまた会話を始めた美少女2人を眺めながら……

――苦笑いをひとつこぼした。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



食事が終わって、部屋に戻る。

作戦会議は、人に聞かれない場所が良いだろう。

ローラさんはほろ酔いでご機嫌だし、葵さんも満腹でご機嫌な様子だ。


「ねえ、葵さん。

この部屋から会話が漏れないように魔法かける事ってできる?」


リビングの備え付けのソファにドンと腰を落として、ローラさんが脚を組む。

少し酔ってるせいかアクションが大きくて、ちょっと色っぽい。

フレアスカートみたいな鎧から艶めかしい太ももと、その奥の白い下着がチラリと見えた。


「できる」


その横に、僕の視線を遮るように葵さんが腰かけた。

なぜかベストを脱ぎ、胸元のボタンを2つはずして、呪文のようなものを唱える。

大きな胸の谷間に目が行っちゃったら…… 葵さんは、ニヤリと笑った。


「これで大丈夫」


部屋の隅々に淡い文字が浮かんで、吸い込まれて行く。


「――遮断魔法? 外の音も全然聞こえなくなっちゃった。

軍でも同じような魔法を見たけど、こんなに凄くなかったわ」


あっけに取られてるローラさんに、葵さんが……

「今のは精霊術。結界を作るなら、こっちの方が有効だから」


――そう呟いて、脚を組んだ。

ホットパンツから延びる美しい太ももに目が行っちゃったら。


「どう」

と、葵さんが確認してきた。


「素晴らしいです」

前世からそうだったけど、あの躍動感のある太ももは芸術品だと思う。

僕の言葉に、葵さんも嬉しそうな顔をした。


「それで作戦会議って、何をするの?

ルビーとあんたが前世で知り合いだったのは分かったけど。

あたし、いまいち状況が把握できてないのよ」


「順を追って、説明するよ。

先ずは3人での情報共有が必要だから。

けどその前に、これを確認したいんだけど」


僕がポケットから、森でもらった石を出す。

2人がのぞき込むように前かがみになったから…… 2人の胸の谷間がアレでソレです。


「青い魔力石は、赤い精霊石と共鳴する。

たぶんまったく同じ形にカットされた精霊石が存在する」


葵さんが両腕で胸を寄せるような仕草で、グイッと前に出た。


「あーそれ、聞いたことあるわ!

軍の作戦でも、位置確認なんかで使うって。

でもどっちも高価な代物で、数が少ないのよ」


ローラさんも、さらに石をのぞき込むように近付いてきて……

胸元が、アレすぎます。


赤い髪と青い髪の、胸の膨らみ? うん、実に神秘的だ!

なんか良い匂いまで漂って来るし。


「そ、それじゃ……

森から刺客がくるって考えて、まず間違いないね」


胸の圧力? に負けて、距離をとる。

葵さんは、微妙な笑み。ローラさんは不思議そうな顔つきで。


「なんか、この石から情報が発信されてるから」

僕を見詰めてきた。


石の方は…… たぶんGPSみたいなもんだから、逆探知可能だろう。


「で、どうすんの?」ローラさんの質問に。


「葵さん、また魔力を貸してくれない?

ちょっと細工して、それからお客さんを迎えようと思うんだ」

僕が答えると、葵さんはコクリと頷いて。


また、シャツのボタンを外し出した……


「えっ、ルビー何してんの……」

「ここでする? 場所を変える?」


「えーっと、だから…… 胸は揉みません!」


――ちょっと、その。興味はあるんだけどね。

うん。知的好奇心てヤツだよ、もちろん。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



部屋をノックする音と同時に。

「夜分遅く申し訳ありません、昼間お世話になった森人のエメラルダと言います」


知らない女性の声が聞こえてきた。

ドアを開けると、フードを深々とかぶった2人組が佇んでる。


「よくこの場所が分かりましたね」

「はい。失礼とは存じましたが、この石でキド様の居場所を探しました」


背が高い方の女性が、赤い石を取り出して僕に見せる。


「どのようなご用件で?」


「大したお礼もできず、キド様をかえしてしまいましたし。

出来れば、今後も森とお付き合いいただければと思い…… お願いに伺ったのです」


後ろにいるのがフィーアさんだろうか。

キョロキョロと伺うように、フードの隙間から部屋をのぞき込んでいる。


「立ち話もなんですから、お入りください」


リビングに案内すると、2人はフードの付いたコートを脱いだ。

背の高い方の女性は、流れるような腰までの青い髪で……

整った顔と、スラリと伸びた美しい手足が妖艶だった。


――あれが、エメラルダさんか。


「座ってもよろしいですか?」


ソファの前で微笑む姿は、タレ目と相まって……

どこか子供っぽく、美しさの中に可愛らしさも混じってる。

――確かに、葵さんが言う「男好きする容姿」かもしれない。


「ルビーは?」

フィーアさんは相変わらず落ち着かない感じだ。


「奥の部屋にいますよ、呼びましょうか?」

「いえ、今は結構です。さきにお願いを聞いていただければ……」


遮るようなエメラルダさんの言葉に、フィーアさんはムッとしてたけど。

特に何も言わない所を見ると、主導権はエメラルダさんが握ってるようだ。


「申し遅れました。私はエメラルダ・ポルタ―と申します。

今、サディの下で森の神官をしております。

――どうぞお見知りおきを」


神官と言うだけあって、葵さんやフィーアさんみたいな『狩人』ぽい格好じゃなくて。

レースのカーテンみたいな生地を体に巻き付けた……

古代ギリシャの服。 ――キトンだっけ? そんなデザインのモノを着ていた。


「キドです。ご丁寧にありがとう」


対面のソファに僕が座ると、テーブルの下に隠してある青い魔力石が5回点滅した。

――って事は、あと3人か。


続いて、ながい光と短い光の点滅で「トン、ツー、ツー、トン、トン」の連絡が入る。

逆ハッキングを嫌って、モールス信号でいくつかの連絡パターンを決めたけど。


これは、「カコマレタ」だから、のんびりお話はできないな。

僕はテーブルの下の石を拾い上げ。


「これなんですが、そちらの赤い石と」

エメラルダさんが自分の持つ赤い石を確認する。


フィーアさんもそれをのぞき込んだところで、青い石から、ブラクラを改良したウイルスを稼働させた。


これなら一時的な行動停止ですむし、侵入タイプじゃないから……

ワクチンの散布も必要ないし、後遺症の心配もない。


――赤い石がチカチカと点滅を始めると。

「アン」「イヤッ」

なぜか色っぽい吐息をもらして、フィーアさんとエメラルダさんが倒れ込んだ。


「もう大丈夫です」


僕の声に、別の部屋に隠れてたローラさんと葵さんが出てくる。

ソファの上で顔を赤らめ時折ビミョーなケイレンをする2人を見て、ローラさんが……


「あんたの能力って…… なんか、こう。凄いんだけど、ほら」

――言いにくそうにしてると。


「エロい?」

葵さんが、その部分をフォローした。


うーん、なんででしょ? そんなの狙ってないのに。

「その事はおいといて…… と、とにかく! 残りの3人は?」


「同じ」

葵さんが簡潔に答えた。


「へっ?」

「同じ状況で伸びてる」


ローラさんが、眉間の中央に指をよせて。

「なーんか、このパターンは見覚えがあるような……」



とりあえず部屋を出て、3人で部屋を囲んでいたと思われる賊を回収した。

全員が同じ形の赤い石を持ってたし、似たような戦闘服を着ていたし。


「賊であってるよね」

不安になってローラさんに聞くと。


「これは魔人の突撃部隊が好んで使う装備よ。それにこの徽章は……

――レコンキャスタね」


胸元には、痩せたカエルの絵が刻まれたバッジが付いてる。


「むいて縛っとく?」

葵さんのビミョーなセリフに……


「ねえ、魔人も女性ばかりってわけじゃないよね」

一応確認してみる。


「それは違う。だったらあたしは生まれないから。

たぶん、こいつらは『森人』の交渉役。

森人は男が森に入るのを嫌うから」


恍惚の表情で、気を失ってる美少女『魔人』3人を見て。


なんだかドンドンと……

僕の周りの美少女人口密度が上がってくことに、不安がつのる。



もしやこれは、美少女Dosアタック? だったらすぐに……

――フリーズする自信がありますが。

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