早速だけど、触ってもいいかな?

さらわれた? 2人は、気を失っていたところを見張りに立っていたフィーアさんが、手当のために森に連れ帰っただけだという。


争いごとを嫌い、人前に出たがらない『森人』としては、当然の行為らしい。


ちなみに、もうひとりの名前はルビーさん。

3人の中で一番幼く見えるけど、彼女だけ巨乳だった。


ドレス姿のサディさん以外は、2人とも狩人のような軽装で、シャツの上に革のベストの様なモノを着てるけど。


ルビーさんのそれは、明らかにサイズがあってない。

もう、ベストがはちきれんばかりだ。



この森の長、3人の中央に座るサディさんの話では…… そもそも。


山岳地帯に生息し、大地に流れる龍脈を糧とする「竜人」

森林を住みかとして、精霊の力をつかさどる「森人」


それ以外の平地に生き、空気中に存在する魔力を利用する「魔人」

その、3つの種族が世を制していた。


「人族は弱くはかなく、取るに足らない生き物でした」

ところが長い歴史の中で人族が「文明」を身に着けると、急激に発展し。


「もともと好戦的だった魔族と抗争が起き、徐々にそれを駆逐してゆきました」

そして生活圏を広げると、更に侵略が進み。


「森の資源を奪い、木々を伐採して田畑に変えてゆき、人族は我々の生活圏を脅かし始めました」


人族と争う事も検討されたらしいが、各森の族長が集まる『賢人会議』で、人族が唯一勝つことができず強大な力を誇る「竜人」に助けを求める事に決まった。


「竜人は常に『契約』を重んじます。

何かを求めればその対価を欲し、また何かを受け取れば必ず対価を授けます」


そこで人族から森を守る対価として。

竜人は森の恵みの一部を対価として要求した。


「それは我々森人としても納得のできる求めでしたし、決して森や森人の負担になるような多大なモノではありませんでした」


しかし、最近その契約に問題が発生し始めた。


「ここ数年、森の恵みが極端に減ってきたのです。

木々や精霊の力に異常は感じられないのに……

実りが減り、その影響から動物たちの数も減り……」


そして『レコンキャスタ』と名乗る魔人の一派から、提案を受ける。


「彼らは竜人との盟約を切れば、森を人族から守ると言うのです。

見返りはただひとつ。

今後魔人と竜人が争いを始めるような事があっても、『竜人』の側に立つな」


――だったそうだ。


そもそも森人は竜人がいかなる種族と争うことになっても、手助けをする気はなかったし、竜人もそれを求めていなかった。


また、減った森の恵みを守るために負担となり始めている竜人との契約の『対価』を払わずに済むのは、現状では大きな利点だった。


「後は、本当に魔人が人族から森を守れるかどうかだけでしたが……」


それはレコンキャスタが所有する「新魔法」の前では。

――なんの問題も無いと思われた。



「新魔法! そ、それはいったい…… 」


長々とサディさんが説明してくれたので。

とりあえず驚愕の突っ込みを入れてみる。


……ついでに。

隣で体操座りしながらコックリコックリ寝始めてるミキさんを肘で突く。


「な、なんだ? あたしは寝てないぞ!」

「声が大きいよ」

「うむ…… しかしキドは新魔法とやらに興味があるのか?」

「えっ? 新魔法も普通の魔法も、何も知らないよ。なんか盛り上がってそうだから、礼儀として聞いてみただけ」

「……」


僕たちのヒソヒソ話に。

身振り手振りで説明をしてたサディさんが、ジト目で睨んできた。


「――何か問題でも?」

「いえ、話を続けて下さい! そう、新魔法です、新魔法!」


お付きの2人も睨んでくる。特にフィーアさんなんて鬼の形相だ!


「ああ言う『族長』とか『王族』とかは、自分がヒロインだと勘違いして勝手に盛り上がるヤツが多いんだ。

――あれも、そのタイプだな」


ポツリと呟いたミキさんのセリフに、更に視線が厳しくなった。


うーん、ミキさんを起こさない方が良かったかな?



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



「それで竜人との契約を解除した森に、魔導士を名乗る人族と竜人が現れて『呪い』をかけるのか? あたしが知ってる話と随分違うが…… だいたい契約を破棄されても怒るようなヤツは竜人にはおらんだろうし、森に『呪い』をかけても、我らにはなんの利もないしなあ」


サディさんとミキさんの間で認識の食い違いがあるようだ。


「しかし、いくつかの森が同じような被害にあっています」


ミキさんの言葉に反論するサディさん。

このままじゃ険悪な口論になりかねないし、聞いてていくつか謎がある。


「サディさん、まず被害にあった森は同じように恵みが減ってたの?」

「ええ、不思議な事に多くの森が同じ状況に……」

「その『新魔法』は僕の使ったものと似てるの?」


「はい。我らが使う『精霊術』とも、竜人が使う『竜術』とも違う。

もちろん魔族が使う今までの『魔法』とも異なる、見たことが無い技でした。

だからキド様も『新魔法』の使い手かと思ったんですが……」


ちょっと状況が怪しい。

コレじゃ、パソコンを感染させた後に……

偽セキュリティ・ソフトを仕掛ける「フィッシング詐欺」と同じだ。


「うーん、まず僕が迷惑をかけた『呪い?』を解除しましょう」

これは、ワクチン・ソフトを投与すれば解決するはず。


「それから、新魔法を見る事ってできませんか?」

僕と同系統の仕組みなら、なんとかできるかもしれないし。単純な興味もある。


「それでしたらレコンキャスタが置いていった『安全石』までご案内しましょう」


ふくれっ面のミキさんに、

「もしかしたら、竜人の汚名返上ができるかもしれない」

小声で話しかけたら。


「ほう? それは面白そうだ!」


やっと笑顔に戻ってくれた。あとは僕の勘が当たってることを祈るだけだな。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



安全石とやらに近付いて分かったことがある。


まずやたらと女性が多い。って言うか、森人の男性を見かけない。

次に、人間離れした美しさを誇る彼女たちは皆貧乳だ。

ルビーさん以外、巨乳を見かけない。


「なんか、ルビーさんだけ雰囲気違うね」

ミキさんに聞いてみると。


「あやつは多分魔人とのハーフじゃないか? 微量だが『魔力』を感じる」


そう言われて初めて気付いた。耳の長さも肌の色も、他の森人と微妙に違う。

……僕としたことが、胸に捕らわれて見過ごしていたようだ。


「何人か森人さん達が集まってきたけど、男の人がいないね」


「なにをボケたことを言ってる! 森人に男がいる訳が無いだろう。

やつ等は『精霊』の仲間だ。確か『母なる大樹』と呼ばれる木から生まれとか。

最も、子を成す事もできるようで…… その証拠にあのようなハーフがおる。

男なら秩序を乱すからと森を追われるそうだが、女の場合は本人の意思に任せるそうだ」


僕が「物知りだね!」って相槌を打ったら。ミキさんが、その大きな胸を張って、嬉しそうに威張る。

そんな話をしてたらルビーさん以外の森人さんから、冷たい視線が集中した。

どうやら森人さん達にも、いろいろと事情があるようだ。


――胸のコンプレックスとか。

だってその嫉妬の視線は、どう見てもミキさんの胸に集中してたからね。


僕がその石を眺めてたら、サディさんとルビーさんの2人が近付いてきた。


「ルビーはその生い立ちから、多少の魔術の心得があります。

何かございましたら、ルビーに言って下さい。我らではその石に触れる事さえ叶いませんから」


サディさんの言葉にルビーさんが頷き、僕に向かってペコリと頭を下げた。


「宜しくお願いします」

「こちらこそ」


ルビーさんはちょっと無表情な子だけど、他の森人さんと違って、変に睨んできたりしないから話が進めやすいかもしれない。


「早速だけど、触ってもいいかな?」


それは見る限り、ただの石だ。

どうやら僕の能力は、触れないと発動しないみたいだし。


「ここで?」


「えーっと…… キケンは無いと思うから、移動しなくても大丈夫だと思う」

まずは情報を確認するだけだし、触れても分からない可能性もある。


「わかった」

ルビーさんは少し顔を赤らめ…… ベストを脱ぎ、胸元のボタンを外しはじめた。


「なんで?」

僕がだんだん露わになる、その大きなふくらみに戸惑ってると。


「話はフィーアから聞いた。

あなたは女性の胸を揉みながら、魔術を使うと」

ルビーさんは、不思議そうに僕の顔を見た。


そしてミキさんが面白そうに。

「キド、そんな話は聞いてないぞ! いったいどんな仕組みなんだ?」


そう言って、ケラケラ笑いだす。



うん、石の情報云々より……

――僕はまずこの誤解から、解かなきゃいけないようだ。

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