へへっ! バレちゃった

昨日戦闘があった街道沿いの森に近づいたら。

例の腹ペコ美少女が行き倒れていた。


「ああ、お兄さん! ここで出会えたのはきっと神の思し召し。

お腹が空きました…… な、何か食べ物を!」


仕方ないから、お弁当代わりに持ってきたお饅頭を差し出すと。


「うおっ、うむ。  ――んん。んーんー」

いきなりがっついて、のどに詰まらせた。


「はいお茶、そんなに慌てなくても取り返したりしないから安心して」

その後無言で僕が持っていた3つの饅頭を全てたいらげ、お茶も全部飲み干した。


「ぷはー、生き返る。お兄さんはやはり命の恩人だな!」

喜ぶ笑顔は最高にキュートだが、行動が残念でならない。


「どうして、こんな場所で倒れてたの?」


「うむ、良い質問だな! 実はお兄さんにお礼をしようと思ってな。

バザールで聞いたら、サイクロン領へ向かう旅の一座と同行したと。

それで後を追ったんだが…… ここで力尽きてしまった!」


自慢げに大きな胸を張った。

ボイーンと揺れるその2つのふくらみは破壊力抜群で、目のやり場に困る。

――栄養が全部おっぱいに吸収されてるんだろうか?


「前も言ったけど、お礼はいいよ」

苦笑いしてたら……


「それでお兄さんこそ、こんなところで何を?」

――逆に質問された。


「昨日いろいろあって、確認したいことがあったんだ」

「ほう、それではここで起きた戦闘に…… お兄さんも一枚かんでるの?」

「戦闘? なんの話?」


取りあえずボケてみる。


「お兄さんは、人が良いから嘘が下手なのか?」


頬に付いたお饅頭のカスや、天真爛漫に笑う姿は実に可愛らしく。

おバカそのもので……


――どうやら一筋縄ではいきそうにない感じだ。



相手を上手くだますには、「こいつならだませるだろう」と、思わせる事が理想なんだとか。


そうすればスキも多くなり、だましやすい。

さらに『おいしい餌』をぶら下げれば、だませる確率がぐんと跳ね上がる。


ボケた『金持ち』を演じる老獪な詐欺師。

か弱いふりをする『美しい女性』の殺し屋。


リアルで僕のコミュ力では、知ってても使えない情報のひとつだったけど。

ハッキングの手口も実はコレが重要だった。


まあ相手はコンピュータでも、プログラムやセキュリティを組むのは人間だから、当たり前といえば当たり前なんだけど。


例えば詐欺サイトなんかをだます場合、一度ダミーのパソコンをわざと感染させて、そこから逆ハッキングをかけてやるのが一番簡単で確率が高い。


その時のコツは、感染パソコンの中に『おいしい餌』を仕込んでやることだ。

限度額の高い偽のクレジットカード・データとか。

高額な偽電子マネーの残高とか。


それを盗み取ろうとした瞬間が最大のチャンスだった。


確か「ハスラーアタック」って、呼んでたっけ。

語源は、わざと弱いふりをして賭博で金を巻き上げる『勝負師』のことらしい。


クラスにも「天然」のふりをして男に近づく「計算」高い女の子がいたけど……

今思えば、彼女たちもハスラーだったんだろう。



僕は、目の前の美少女に対して、セキュリティレベルを2つほど上げた。


初めて出会った時の言動を、もう一度脳内でチェック。

彼女の現在の状況を、再度多方面から検証し直す。


彼女が、なにかを隠してることは間違いない。

――そう考えて行動しなくちゃダメだろう。


「どうしたのだ、突然怖い顔をして」


「うーん、何でもないよ。

別に僕のお昼ご飯を全部食べちゃったことを怒ってるんじゃないから」


「お、おう! それは申し訳ない……

借りを返すつもりが、さらに借りを作ってしまった。

い、いったいどうすれば良いんだ……」


「じゃあ、こうしよう。これから僕が調べたいことを手伝ってくれない?

まだこの辺のことあまり知らないから、そうしてもらえると嬉しい」


そして……

だまされてるふりをして、少しでも彼女から情報を得るのが最善だろう。

問題は、僕のコミュ力がそれに耐えきれるかどうかだけど……


――パソコンもインターネットも無い世界じゃ、割り切って頑張るしかない。

とにかく、やれるとこまでやってみるか。


僕は大きく深呼吸してから……

昨日の出来事を包み隠さず、目の前の美少女に話した。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



「ほう、それなら大船に乗ったつもりで任せてくれ!

そう言うのは昔から得意でな」

少女の名前は、ミキというらしい。


「キドフィヤーマ…… キドファラマ? とやら」


僕の翻訳魔法は固有名詞をスルーしてるみたいで、この世界の人は「やま」が発音できないようだ。

ドーバー団の人たちも、みな上手く発音できなかった。


「キドでいいよ、ミキさん」


「おー、ではキド! 先ほどの話と、この場所の状況を総合すると。

その2人……

操姫パティと剣王キースは、森の中だな」


「どーして?」


「戦闘は2回あった。1度目が話の通りだとすると、2度目は複数の重騎士との戦いだろう」


ミキさんは、足跡や森の木々に残る切り傷を指さす。

「教会の重騎士が好んで使うバスターソードの傷跡に、鉄製ブーツの足跡」


違う敵と問題が起きたのは、僕もなんとなく予想がつく。

「森へ逃げた根拠は?」

――そこがわからない。


「違う違う、逃げたのではない」

ミキさんは辺りの草木の匂いを嗅いで。


「魔物か何かに連れ込まれたんだろう。

血の匂いがしないから、まだ生きているかもしれんが」

草むらの向こう側にある、何か引きずった跡を指さす。


「追ってみるか?」

「原因のひとつは僕にありそうだから…… 行くしかないでしょ」


「ここはな、古い言い伝えでは森人が住む森だそうだ。

やつ等は排他的でプライドが高い。

めったに人族の前には出てこんが…… 関われば厄介だぞ!」


ミキさんはそう言って、楽しそうにニヤリと笑った。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



引きずった形跡を追って森の中を進むこと、数十分。

ミキさんは調子ハズレの鼻歌を口ずさみながら、おっぱいを揺らして楽しそうに歩いてるから、緊張感がないけど……


時折木々が不自然に揺れたり、何かの視線を感じたりした。


「ひょっとしてつけられてる?」


「そうだなー、4~5人ぐらいかな!

警戒して近づいてこないから、手の打ちようがないし…… 困ったもんだ」


「全然困ってるように見えないんだけど」

「そんなことはないぞ! もう、だいぶん飽きてきた」


やがて、開けた草原のような場所に出ると…… ひとりの女性と、それを警護するように2人の女性が立っていた。

3人は僕たちを見ると、片膝を付き深々と頭を下げる。


「あれは?」

「あれが森人だ! ほら」


ミキさんが自分の耳を引っ張る。見ると頭を下げている3人は耳がとがっていた。

ゲームや漫画に出てくる「エルフ」と同じだ。


3人とも、現実離れした美しい姿で。

特に中央の人は、あふれ出るような気品があった。


きっと族長とかなんとか、偉い人なんだろう。


「恐れ多くも、申し上げます。

大魔導士様…… どうかこの森にかけられた呪いを解かれ、お怒りを鎮めてはいただけないでしょうか。

誓いし『約束』を破ったのは、我ら氏族のみ。

私で許していただけるのであれば、この身、命が尽きようとも、罰はなんなりと受けます。

どうか…… どうかお願いします。

このままでは、森の全てが滅びてしまいます」


代表? の女性が声を震わせながら、そう言った。


「大魔導士? えーっと……」


僕が困惑してると。


「お隠しになっても無駄です。

今はお力を抑えているようですが。

昨日の大魔法と同じ波長が微力ながら感じ取れます。

それに、こちらのフィーアが……

大魔導士様が呪いをおかけになる瞬間を見ておりました」


ひょっとして、あの時の『乗っ取り型ウイルス』のことだろうか。

多少の影響があるんじゃないかって、気にしてきてみたけど…… 話が大きくなりすぎてね?


「まず僕は大魔導士とかじゃないですし。

昨日のことでしたら、呪いではありません。

問題が出てるようなら、急いで何とかしますから……

どうか、顔を上げてください」


「しかし…… お伴をされているのは、竜族でございましょう。

我らが『盟約』を破った罰として、お越しになったのではないのですか?」


慌ててミキさんを見ると。


「へへっ! バレちゃった」

ペロッと舌を出して笑った。



うーん…… 隠してたのソレですか。

いろいろと予想外で、もうどうしたら良いか分かりませんが。

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