ちょっとだけなら触ってもいいから

もう一度意識が覚醒すると、そこは森の中だった。

立ち上がってみると、数メートル離れた場所に沼がある。


近付いて覗き込むとそこには十代半ばのブサメンがいた。


僕そっくり。 ――ってゆうか、僕だなコレ。


さっきの話を思い返すに、異世界とやらに飛ばされたんだろうか?

服装は学生服のまま。あちこち焦げてるのは、爆発の影響だろうか?


困り果ててると、近くにズタ袋があった。

あの男が言ってた、個人的プレゼントってコレの事かな?


袋をひっくり返すと、硬貨が出てきた。数えると金色が3枚、銀色が5枚、銅色が7枚。

他には、どこにでもありそうな石ころがひとつ。


とりあえず硬貨を袋に戻して、ポケットにしまい込む。

剣もナイフも何の装備も無く、能力も無し。


でもまあ、贅沢言ったらキリ無いか。僕がブサメンのままって事は、あの願いがかなったってことだろう。


それに、無一文より随分ましだ。

――よしよし、前向きに。

なにごとも前向きに一歩ずつ。それが僕の信念だからな。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



脳内時計で…… 森の中をさ迷うこと1時間。街道らしきあぜ道をさらに進むこと2時間。


たどり着いたのは、街というより行商人が集まるバザールのような場所だった。

直径300メートルぐらいの沼を囲んで、馬車やテントが所狭しと並んでいる。


人々の顔はヨーロッパ系の人種に近い。


彫の深い白肌が多かったが、中には褐色や、猫耳、犬耳なんて人もいた。

馬車は馬に近い動物が引いていたり、でかいトカゲや亀が引いているものまである。


ああ、ホントに剣と魔法のファンタジー世界だ!


耳に聞こえるのはなぜだか日本語だ。きっとコレはあの男からのプレゼントのひとつなんだろう。でも、文字が全く読めない…… これは、学習が必要だな。


――とにかくいろいろトライしてみよう!


試しに、さっきから気になるリンゴのような果物を売っている店のおばさんに話しかけてみる。


「これいくら?」

「1個、10ポレアだ。5個なら40ポレアにまけたげるよ」


「これ使える?」

袋から銅貨を出すと、おばさんはそれを光にかざして確認する。


「帝国銅貨かい。で、いくつ欲しいんだ」

試しに指を2本出すと、果物2個と大きな鉄色の硬貨を9枚と小さな同じ色の硬貨を8枚くれた。


言葉は通じる。しかもお金もちゃんと使えた。

あとは試行錯誤を繰り返せば、なんとかなるかもしれない。


通貨は単純計算すると…… 銅貨1枚、千ポレア。

大きい硬貨が100ポレア、小さいのが10ポレアだろうか。


――果物は、リンゴと桃の中間のような味がして美味しかった。


こいつが仮に1個100円だとして、1ポレア10円相当と考えると、銅貨1枚が1万円となる。


銀貨、金貨は桁が変わるのが通常だから、1桁上がりで銀貨が10万円、金貨が100万円…… 


だとしたら袋の中はちょっとした財産だ。


物価水準がわからないからなんとも言えないが、しばらくの間は、問題なく生活していけそうだ。


念のため袋の紐をベルトに巻き付け、ポケットに入れる。

そして、反対側のポケットに釣銭を入れた。


なんか、こんな大金を持って歩くのは不安だけど。 ――預ける場所も無いし。

とりあえずこの状態でバザールをまわる事にしよう。


目標は減った腹を満たすことと、当面の情報収集。

できれば今夜の宿もゲットしたい。

いきなり野宿は、インドア高校生にはハードルが高からな……


串焼きの不思議肉食べたり、蒸かした饅頭のようなもの食べたり。

腹がふくれて落ち着いてくると、自然と目が女性の姿に。


おお、これぞファンタジー!


露出度の多い鎧姿の女性や、露出度の多い狩人ぽい皮服の少女や、露出度は少ないものの、やけに薄い布地のシスターっぽい人とか。


もう体のラインスケスケ! シスターさん胸がタフンタフンしてますが、ブラジャーはこの世界にあるんでしょうか? ――知的好奇心が尽きない。


「ああ、お兄さん! ステキな串肉をお持ちで」


話しかけてきたのは、ボロボロの服を着た女の子だった。

浮浪者かなんかだろうか? フードの隙間からランランと輝いた瞳が、僕の手元をロックオンしてる。


おまけに……


「ぎゅるぎゅるぎゅる~」と、壮絶な音をお腹から響かせた。


「お腹空いてるの? 良かったらどうぞ、僕はもう満腹だから」


「ほ、ほんとに!? 恵んでくれるのか?」


言うが早いか僕の手から串肉を奪い取ると、一気にガツガツと食べ始めた。

白い素肌にはススのようなモノが付いてて汚れてるけど。


――間違いなく、移転後見た女の子の中で1番キレイだ。


同い年ぐらいだろうか? ブラウンの髪に少し垂れ気味のブルーアイ。

痩せた体型だけど、乳神様に匹敵するほどの大きなブツをぶら下げていらっしゃる。


串肉を食べ終えると、また「ぎゅるぎゅる~」っと、腹を鳴らした。


「まだお腹空いてるの?」


僕がそう聞いたら、コクコクと頷く。


「だが…… その、路銀を落としてしまって。今は支払える対価が無い。

――そ、そうだ! 先ほどからエロエロと女性を見詰めてたし、あたしの胸もジロジロ見てたな! どうだ? 腹いっぱい食わしてくれるのなら…… 触るのはダメだが、見せるぐらいなら良いぞ!

うむ、もちろん生乳状態でだ!」


なんか凄い良い事を思いついたみたいに、嬉しそうに話し出す。

――キレイな娘なのに、頭が残念なんだろうか?


「いいよ、それは別に」


「そうか…… じゃあ、ちょっとだけなら触ってもいいから、飯を食わせてはくれんか?

色艶、形、大きさ共に、結構自信があるんだが……

な、なんなら…… す、吸ってもいいぞ」


そう言って恥ずかしそうに、両腕で包み込むように胸を持ち上げた。

ボロの服の上からでも、その形がはっきり分かって。 ――僕は思わず顔を背ける。


「あ、いや、そ、そうじゃなくて…… 食べ物はちゃんとあげるよ。

む、胸の件が、いいよって、事だから」


きっと今、僕の顔は真っ赤だ。

その女の子は回り込むようにして、僕の顔を覗き見て……


「そーか! それは助かる。

良い考えだと思ったんだが、ちょっと怖くて…… 実は今までそんなことは、したことが無くてな。

うむ。では早速飯だ!」


僕の手を引っ張り、強引に屋台の並びへ向かった。


――そして肉や饅頭をたらふく食べると。


「必ず礼は返そう、ありがとう!」


嬉しそうに手を振って、何処かへ行ってしまった。


うーん、たかられたのかな?

まあ、美少女とデートできたと思えば安いモノか。


17年、前の世界で生きてたけど…… 彼女はいなかったし。もちろん女の子とデートしたことも無い。

だいたい普通に話しかけてくれる女の子自体少なかったしね。


そう考えると、これは良い経験だったんだろう。

おっぱいは触らなかったけど、手を繋いだだけでも嬉しかったし。


僕が自分の手を見詰めて佇んでると。



「あらあら、ぼーや。ひとり旅?」

今度は20歳半ばぐらいの妖艶な美女に話しかけられた。




――異世界って、やっぱりファンタジー!

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