逆ナンパ?
話しかけて来た女性をマジマジと見る。
――やっぱりおかしい。
漆黒のロングヘアに切れ長の黒い瞳、パンクな感じの鎧姿、腰に巻いてるのは鎖だろうか? ワイルドな出で立ちと、ポンキューポンなダイナマイト・ボディがエロカッコいいい。
さっきの腹ペコ美少女とタイプは違うけど、かなりの美女なのは間違いない。
……うーん。ハーレムな能力はないはずだし、沼で自分の姿を確認したけど、ブサメンのままだったし。
見た感じお腹も減ってなさそうだし、イロイロと怪しさも満載だ。
なんかの勧誘や詐欺っぽい。美人局とかだろうか?
「ええ、はい。そうですが」
「それならあたし達のテントまでこない…… どう? 一緒に茶でも」
逆ナンパ? を、お断りして逃げようとすると、強引に肩を組まれた。
そして小声で。
「ぼーや、さっきからあそこの人買いに目を付けられてるわよ? さらわれたくなきゃ、黙ってついて来て」
そうささやかれ、僕はあっさり拉致された。
■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■
「アンナ! あんたがやったら、どっちが人買いかわかんないさね」
「姉御! そりゃいくらなんでも、あたいに失礼でしょ」
姉御と呼ばれたのはこの団の座長、鳥族の血が入っているドーバーさん。
髪が羽なところがとってもキュートだ。
「確かにあんたみたいのがフラフラしてたら危険さね。
見た感じアンナと同じリザードの血が混じってそうだが……
なんだか違うねぇ、その服も見たことがない。いったいどこからきたのさね」
ここはアンナさんが所属する旅の芸一座「ドーバー団」のテントの中。
――彼女の話を要約すると、いかにもお上りな僕が人買いに狙われてるのを知って、同族? のよしみで助けてくれたらしい。
宿は決まっているのかとか、どこに行く予定だとか、ねほりはほり聞かれて返答に困ってると、「ああ、わかったわ」と、座長に紹介された。
しかしリザードの血って…… 黒髪だとそうなるのかな? アンナさんは肌の色も僕と同じだし。
「詮索しないのがうちらのルールだろ。ぼーやにもイロイロあんだよ! きっと」
アンナさんがかばってくれた。
――良い人だ! アンナさん。
「まあ、かまやしないさね。ぼーや、行くところが無いんなら好きなだけいるといいさ」
ドーバー座長は、そう言って「くっくっくっ」と、鳥っぽく笑った。
期せずして今夜の宿をゲット! なんだかとても幸先が良い。
■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■
「働かざる者食うべからず」は真理の一つで、どの世界にも通用するありがたい言葉だと思う。
アンナさんは、
「ぼーやは黙って待ってな」
と言ってくれたが。
中学で施設を出てから、養父と暮らして2年ちょい。
炊事洗濯なんかの家事は僕の仕事だったし。
料理はどちらかと言うと好きな部類だった。
だから、自分から進んで手伝いに行った。
炊事は2人で行っていた。アンナさんと、十代半ばの赤髪ツリ目の美少女。
どうもこの世界は、美男美女率が高い。
一緒に手伝ってる美少女も、フレアのミニスカートから延びるスラリとした美しい素足と、胸の開いたシャツが実にセクシー。
「ありがとう、助かるわ」
アンナさんが笑顔をくれる。
野菜をむいたり、ゴミを捨てたり。見よう見まねで、なんとか手伝う。
対して赤髪ツリ目の美少女は、僕から微妙に距離を取ってる。
「これ、この後どうするの?」
「……」
うん、まあこんな感じ。
この世界に来てから、美少女、美女と立て続けに会話をしたから忘れかけてたけど……
「ブサメンは女に嫌われる」
も心理の一つで、どうやら異世界でも通用するようだ。
ツリ目美少女が野菜の束を持ち上げようとしゃがんだ際に、胸元に目がいったら、襟元を手で押さえてジト目で睨まれた。
そして、無言でさらに距離を取る。
――うん、間違いなく前世と同じ通常運航だ。
■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■
夕食は僕の歓迎会もかねてたようで、酒がふるまわれた。
僕は遠慮して食事だけにしたけど。温かでアットホームな雰囲気は、何故か僕の心を絞めつける。
アンナさんいわく……
「座長はあたいらみたいなヤツを見捨てなくてね。
ここにいる連中はみんなぼーやと似たり寄ったりのひろいもんなんだよ。
だから今日から皆のことを家族だと思って!」
――そういうことらしい。
団員も気さくな人が多くて、楽しい宴会だった。
まだこの世界のルールとかよく分からないし。ちょっと好意に甘えようかな……
そう考えながらこの恩はいつか返そうと、心に誓った。
■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■
夕食後、片付けを手伝ってたらガシャンと音がした。
ツリ目美少女が、カラフルなマッチ棒のようなモノが入った箱をひっくり返したようだ。
確か名前はローラさん。
アンナさんの話では、前の町で行倒れていたところを拾われたらしい。
彼女がそれを集めるのを手伝う。これは、手品かなんかに使う道具だろうか?
見たことのないモノだった。
ひととおり集め終わると、ツリ目美少女が箱の蓋を閉じようとしたので。
「落ちたのは128本だったから、まだ1本足りないよ。
8色で16本のセットだから、黄色い棒を探さなきゃ」
僕がそう言うと、不思議な顔をして。
「数えたの?」
僕に向かって、初めて言葉を発した。
「さっき落ちた時に見たんだ、だから間違いないと思う」
僕がそう言ったら、彼女は更に表情を歪めた。
ああ、この顔も前世と一緒のリアクション……
――やっぱり、人と話すのは苦手だ。
ここでも目立たないように、そっと控えめに生きて行った方が良いのだろう。
僕が脳内メモに注意書をしてたら。
「あら、ぼーやもスティク・マジックができるの?」
アンナさんの声がした。
「ステック・マジック?」
「なんだ、知らないの? どうせ1本探さなきゃなんないなら、見せてあげるよ」
そう言うと、箱から棒を取り出し、呪文のようなものを唱えだす。
見てるとスティクが順番に組まれ始めて、色とりどりの小動物を模した形になり。
生きてるみたいに動き出した。
そして、それを指揮するようにアンナさんも踊り始める。
「凄い!」
始めて見るけど、これが魔法なんだ!
よく見ると動物達の下に映画の字幕みたいなモノが現れて、プカプカ浮んでいる。
やがて黄色いネズミが1本の棒をくわえて、アンナさんの手のひらに飛び乗のると……
――アンナさんはニコリと笑って、パチンと指を鳴らす。
それを合図に、全てが棒に戻って順番に箱の中に入って行った。
「どう、面白かった?」
「ええ、とっても! 動物たちも可愛かったし、その下の文字も不思議な感じで面白かったです」
幻想的な動物達のダンスと、その下のプログラム・コードみたいな文字の配列がとてもキレイだった。
しかも、アンナさんがステップを踏んだり腕を振るうたびに揺れた2つの膨らみは、美しさの極みで……
――もうなんか、異世界サイコーですね。
「文字? ふーん、そんなもんが見えたの……」
アンナさんはそう言って妖艶な笑みを深め、獲物を狙う獣のようにペロリと自分の唇を舐めた。
ああ、とてもセクシーでグーです。
そしてツリ目美少女は僕の顔をもう一度確認してから。
……更に一歩遠ざかった。
――うん。こっちは前世と同じ、通常運航ですね。
異世界でもやっぱり控えめに生きて行こうと……
僕はもう一度脳内のメモに、注意書きを施した。
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