第12話(仮)
「被害者は、柿崎っていうフリーのルポライターだ。どうやら旧校舎に誘い出されて、拳銃で撃たれたらしい。衝撃で窓破って転落した。で、ヤツは何やら特ダネを掴んだってな話を他のライター連中にも話してて、気の早いトコがさっそく記事を打ってきたところだ。」
今日発売の週刊誌にはすでに殺人事件の記事が掲載されているという。耕助たちは知らなかったが、旧校舎の側に実は報道陣が詰め寄せていたらしい。生徒の動揺を懸念した学校側が警察に要請し、新校舎からは見えない位置にまで規制線を下げていたという。
「道理で、ニュースで流れたわけだ。なんで映ってんのか不思議だったんだよな。」
「生徒に緘口令も敷きたくなるわよね、あんなデカデカと学校が映ってるんだもん。」
ド田舎具合もついでに流され、生徒募集の観点でいえば大ダメージだ、コメンテーターの中には、死角だらけで環境が悪すぎると非難する声まで上がっていた。
今度はそっちが情報をくれる番だ、という児島に対し、二人は当たり障りのない部分だけを掻い摘んで話した。十六年前には恐らくどこぞが記事にしたであろう範囲内だけだ。
「十六年前のアレは駆け落ち未遂だったのか……。」
児島は驚いたようだったが、それではないはずだと否定もした。殺害の動機とするには弱すぎる話だ、と。
「今さらだな。微妙過ぎる案件だ。ヤツはスクープだと確かに言ってたんだ、記事にするよりよほど金になるみたいな言い草だったからな、強請りに使ったんだと思う。駆け落ちの話はちょっとした話題にはなるだろうが、今となっては単なる美談だ。」
「その通りね、人を一人殺そうという動機だとは思えないわ。」
紅緒が結論を述べる。児島は頷いて、そちらの調べもついでに引き受けようと答えた。互いに連絡先を交換し、児島はまた例の無煙煙草のカートリッジを取り出した。
「ヤツが会っていたと思われる人物の中に、この学園の関係者がもう一人居たんだが、そっちも探ってみてもらえないか? 元教頭の渚という爺さんだ。学園内に確か、孫が居るはずなんだ。当たってみてくれ。」
耕助と紅緒が顔を見合わせると、児島もまた、不思議そうな顔で二人を見た。
「……おいおい、まさかまた、あんたらの知り合いってんじゃないだろうな?」
「そのまさかだわね。こっちのオタク少年の友達よ、そいつ。」
「お前に言われたかないな、重度のゲーマーのくせに。けど、確かに友達の事だと思う。渚なんて苗字は珍しいから、たぶん間違いない。そいつ、バスケ部だろ。」
指先と顎で示す紅緒に、耕助も負けじと返した。エロゲだとバラさないだけの良識は残している。児島は何やら面白いものでも見たような表情で、にやにやと二人を交互に見返した。
「仲良さげで結構なことだ。それじゃソイツは君らで裏取り頼むわ、俺は十六年前の事件が現在でどう動いてるか、経緯を追ってみる。また連絡するよ。」
あらかたの取材を終えたのか、児島は伝票を持って先に席を立った。耕助は遠慮して珈琲だけだが、紅緒はちゃっかりとプリンアラモードなど頼んだものだから、まだ食べている途中だ。話に興が乗って、食の方は疎かになっていたものだ。
来た時と同じにカウベルを鳴らして児島が退場すると、その間、黙々とプリンを口に運んでいた紅緒がごくんと喉を鳴らして、耕助を見た。
「学園内部の協力者が欲しいってところだわね、」
体のいい助手だわ、とそう言った。耕助はカラのカップを確認してから、纏めるように交換したばかりの情報をなぞった。
「さっきの記者の話からしても、被害者は誰かを強請っていた事は間違いなさそうだよな。問題はそれが誰なのか、だけど。それと、渚先生って確か、先月だったかに亡くなってなかったか?」
「そう。道路歩いてて突然倒れて、そのまんま。心臓発作だって事になってたけど、こうなるとなんか怪しいわよね。」
「渚、呼び出すか。」
「うん。」
さっそくと、耕助はスマフォを取り出し、紅緒は中断していたプリンの始末に戻った。
「じいちゃんが殺されたかも知れないだって!?」
「しーっ、声がデカい、」
さっそくと呼び出された渚大輔は、激昂気味にテーブルを立った。諌めるついでに席に無理やり座らせて、耕助は周囲を窺った。多少の注目は浴びたようだが、それも長くはなかったらしい、誰もこちらを見ている様子はなかった。
「さっき、雑誌の記者と話してたんだけどさ。例の転落事件、殺された被害者がどうやらお前のとこのじいさんと生前に会ってたらしいんだわ。なんか聞いてないか?」
「そんな事いきなり言われたってなぁ。じいちゃん死んだの先月だし、もとから付き合い広かったから、いつ頃に誰と会ってるとか、そんなの把握しきれないぞ。」
「市議会とか国会とかの関連で知り合いとかは居なかったか?」
「それって、もしかして小林修一郎? そっちの関係で殺されたとか言うのか? けど、議員は議員でも、じいちゃんが付き合いのあった後援会って確か、鬼九嶋豪三郎のとこだったぞ? 同じ自権党だけどさ。」
「鬼九嶋豪三郎……」
また新たな人物が登場した。耕助は、うーんと唸って黙り込む。確かに、クリーンなイメージの小林修一郎に対して、こちらはまさに今回の黒幕に相応しい真っ黒なイメージではあるが。
「鬼九嶋って、うちの学校の有力者よね。小林親子もそうだけど。」
「地元だもん、そりゃそうだろ。小林議員の方で遠慮して他の区から立候補したんだ。」
難しい顔で黙り込んだ二人を、呼び出されたばかりの渚は怪訝な顔で見つめていた。
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