level5 ボス登場

 HPとMPを回復するためヴァンデル村に戻り宿泊したキーランたち。

 夜が明け、宿屋を去ると念のため、と道具屋に寄ってから村から出ようと出口を目指している。その間、キーランは口を尖らせ喋っている。


「グレディン村長が助けを待ってるっていうのに、のんきに泊まらないと回復できないなんて・・・・ 」


「もうっ、そんなに不満の割りには、いびきかきながらよく寝ていたわよ、キーラン」


 ビエラのツッコミに慌てて顔を手探るキーラン。


「触ったって落書きは分からないわよ」


 笑いながら肩を叩くビエラに緊急性まで忘れそうなキーランだが、


「今回でグレディン村長を助けるよ」


 覚悟を決めたようにシャムスの背中を押す。キーラン一行は再び祈りの洞窟に向かった。




「ここが宝箱に曲がった場所か」


 戻ってきたキーランたちが立ち止まった。



 ~~途中、戦闘6回経験─経験値48獲得─キーランlevel4へアップ~~



 4人が見つめる先はまさに祈っているみたいな静かな洞窟がまっすぐ続いていた。

 進んでいくと、珍しく魔物に出会わないで広がる空間にたどり着いた。


「祭壇が見える」


 指差したシャムスに一番後ろのタイサイが、


「この流れは・・・・」


 目の前に横たわるグレディン村長には触れずに、何かを気にしているように顔を右に左に振る。


「グレディン村長!」


「意識はあるわ!」


 祭壇に上がることなく固まるように立つシャムスの背後から顔をだすようにキーランとビエラが叫んだ。


「キサマラモカエサン」


 強弱の無い声がどこからか聞こえてきた、と思っていると、目の前の地面から黒い炎とともに巨大な物体が上がってくる。


「気をつけて!魔物よ」


 お化けキノコが現れた!


「これがいわゆる強制戦闘ボス戦ってやつか!」


 気合いがかったシャムスが、無駄にでかいキノコに剣先を向ける。キーランはいつものように、


「どうする?」


 ビエラを振り返った。


「ああー、もう!わたしはあんたたちのお守りじゃないだからね!」


 そう言うと、


「シャムス、たたっ斬りなさい、キーランもね。わたしは強化魔法、タイサイは攻撃魔法ね!」


 相変わらずお化けキノコはキーランたちが行動するまで丁寧に待っていた。

 まして、倒れているグレディン村長を人質取ることもなく。

 キーランが飛び出す前にさらにビエラが言う。


「お化けキノコ、見た目はトロそうだけど攻撃は強力そうだわ。あと毒も持っていそうね!」


 了解、と言いながらでかい目標にありったけのジャンプで飛びかかったキーラン。


 ズババババンッ!


 聞いたことの無い斬撃音が響いた。


「なんだ今の当たりは?」


 戸惑うキーランに、


「それは、急所に当たった一撃、圧巻の一撃だ」


 タイサイが教えてくれた。続いてビエラがそのタイサイに向けて手を伸ばす。


加速魔法アクセラ!」


 黄色く光る魔法円が現れタイサイを黄色い光で包み込んだ。

 すると腕を折り曲げる動きを繰り返すタイサイ。気持ち振りが早くなったようだ。


火矢魔法ファイヤーアロー


 見事にお化けキノコに突き刺さった火の矢が勢い弱く消えていく。それを眺めながらタイサイは後列へ下がったのだった。


「ぐぇ、ぐぇ」


 苦しそうに声を出したお化けキノコが続いて口を大きく開いた。緑色のもやのような気体が這うようにキーランたちに襲いかかる。


「気をつけて!毒ガス、げほっ」


 ビエラが叫んでも避けようがなく毒ガスを吸い込むキーランたち。咳き込んで苦しそうだ。やがて晴れるようにガスは消えた。

 キーラン、ビエラが毒を受けた!


「毒ガスで全体攻撃かよ、さすがボス戦だ。大丈夫か?ビエラ」


 肩で息をしているシャムスがビエラを見た。


「そうね、シャムスは攻撃でキーランは毒消し草を自分に使って。わたしも自分に使うから。タイサイはまた魔法よ」



 ~~攻撃に回復に5度戦闘を経過~~



「やっぱでかいだけあって体力あるな、この魔物」


 度重なる毒ガス攻撃を受けたキーランはすっかり毒消し草を使いきっていた。


「やけにキーランだけ毒を受けたわね。そういう体質なの?」


「いや、運だろうね」


「確かに運の無い男だよ、キーランは」


 皆が勝手なことを言っている。まだ叫ぶ元気があるようなキーランが、


「いいから、次の攻撃誰っ!」


 青銅の剣をお化けキノコに向けてぐるぐると振った。


「もう全員攻撃でいいんじゃない?」


 ビエラのあっさりとした対応に、


「うぉー」


 怒りをぶつけるようにキーランが袈裟斬りで飛び込んだ。

 見事に斬り込みが入った瞬間、


「バカナニンゲンニマケルト・・・・ハ」


 と怪しげな言葉を吐き残し動きが固まったお化けキノコから、ピッカーとまばゆい光が幾筋も放たれ消滅していった。


「やった!」


 キーランたちが喜ぶなか、見ろ、と叫ぶシャムスの指差す先には、お化けキノコの経験値がゆっくり天へと登っていくのであった。


「すごい、100経験値だ」


 カッカカンカカンカカンッカ♪



 ~~シャムスlevel5へアップ、キーランlevel5へアップ、ビエラlevel5へアップ、タイサイlevel5へアップ~~



 キーランたち4人が一斉にlevelが上がり、落ちている150オーロを拾おうとしていた。


「た、助かりました」


 弱った声に顔を上げるとグレディン村長が立ち上がろうとしていた。


「無事ですか!」


「今支えるから無理せず」


 キーランとシャムスが駆け寄る。遅れてビエラが近寄るが、なぜか誰もビエラに回復魔法をグレディン村長に使おうなんて気づかない。

 タイサイは懐からカエルのお守りを出して、ダンジョンを脱出しようと準備して、グレディン村長を見ている。


「でもお化けキノコもグレディン村長を人質に取ることなく戦うなんて、ズルくないよな」


 タイサイの感想には触れずビエラが言う。


「そう・・・・いえば、お化けキノコって喋ってなかった?」


 シャムスとグレディン村長を支えいるキーランが独り言のように呟いた。


「ならお化けキノコに聞けばよかったね。以外と正々堂々と戦うんですね、って」


 キーランたちはカエルのお守りを使って、洞窟ダンジョンを脱出したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る