level4 初めてのダンジョン

 キーランたちはヴァンデル村の南にあるという祈りの洞窟へグレディン村長を助けに行くため、村で準備をしていた。


「買うかね?」


 村の武器屋の主人に聞かれ、手に取った兵士のつるぎを目の前でかざしていたシャムスが、


「ちょっと装備したときの予想を確かめさせてくれ」


 確認するように目を閉じた。



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 攻撃力

 シャムス 28⇒32

 キーラン 18⇒26

 ビエラ 装備できない

 タイサイ 装備できない

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「どうする、買うの?」


 シャムスに合わせるように閉じていたビエラが、目を開けると聞いた。シャムスたちもすでに目を開けている。


「うーん、兵士のつるぎって王国の兵士が普段腰から下げている鉄の剣だろ?確かに今までよりは攻撃力上がるけど・・・・オヤジさん、はがねつるぎは無いのか?」


はがねつるぎだなんて強力な武器は、あいにくうちには無いよ。弱い魔物しかいないこの辺じゃ、高くて誰も買わないからな」


 尋ねたシャムスにお手上げの武器屋の主人。


「無理言わないの、シャムス。無いよりはマシでしょ、あんたみたいに」


 ビエラのツッコミに肩を落とすシャムス。


「何で王都にはその武器売ってない?売っていれば、この村までたどり着くの楽だったのに・・・・」


 タイサイがぼやく。続けてキーランが遠慮ぎみに呟いた。


「いやいや、一般の武器屋で王国の兵士の武器売ってるのはまずいんじゃない?横 ピーッし?!」


 キーランの一言で武器屋に居合わせた一同がしんと黙るのだった。


「これっ、買います」


 何ごともなかったかのようにシャムスは武器屋の主人に300オーロを支払い店を後にしたのだった。




「道具屋も覗いておくか?」


 武器屋を出て村の外へ向かおうとすると、シャムスは道具屋が目についた。


「えーと、何々・・・・毒消し草特売中!安い、よ?!」


 道具屋の前に出ていた立看板に書かれている文字を目を凝らすようにビエラが見ている。

 タイサイが真顔で言葉を付け足す。


「・・・・つまり、この先は毒攻撃する魔物がいるってこと、だな」


「毒消し草と薬草も買っておこう」


 キーランはシャムスが不要になったので譲り受けた青銅の剣の柄に片手を当てながら、この先行く初めての洞窟ダンジョンに備えをするのであった。



 ~~祈りの洞窟へ移動─途中、戦闘2回経験─経験値15獲得─キーランlevel3へアップ~~



「着いたね」


「ああ、村からはすぐだったな。てか、村がここからでも見えるから」


 珍しくキーランが先に言葉を発して、先頭のシャムスが振り返りながら背伸びをしている。


「そんなことより、松明たいまつとか灯りってあるの?」


 岩肌に空いた洞窟の入口を目の前にしてビエラが誰にでもなく尋ねたあと、


「あっ、タイサイの炎魔法はいいから」


 片手を突き出しながら言って、キーランたちに早く進むようにせっつく。

 顔を背けたタイサイは舌打ちをすると、渋々後ろをついて来る。


 先頭のシャムスが洞窟の入口に足を踏み入れた。


「今一瞬、真っ暗にならなかった?」


「錯覚よ。明るい外から暗がりの洞窟に入ったからよ」


 まだ背後から日の光が差し込む入口で、驚くように声を上げたキーランにビエラが冷静に反応する。


「でもこの感覚は王都やヴァンデル村に入ったときや出たときの空気が変わる、みたいな感じで似ているぜ」


 パンパン、と頬を叩くシャムス。最後尾のタイサイが待ちきれない様子で言う。


「入ったのなら先へ進もう。立ち止まっていても魔物はけど、村長も助けられない」


 キーランたちは洞窟の奥を見やった。入口からまっすぐ伸びる先は暗闇が多く詰まっている、ように見える。

 かすかに揺らめく炎のような明かりが宙に浮かんでいる。


「よし、シャムス行こう」


 天井が一気に高くなる。ここでも1列で歩き出すキーランたち。4人が横に並んで歩いても十分な広さがあるが。


「あら、もっと暗闇かなって覚悟したんだけど」


 まだ入口の明かりが小さく確認できる位置でビエラが止まってとシャムスに言ってから、あとに続けた言葉だ。

 明かりも持たずに洞窟を進むキーランたち。先ほど見えた揺らめく炎は何故か洞窟を照らそうと壁ぎわに留まって燃えている。それは自然の炎ではなく、魔力の作用を感じさせた。


「この明るさなら魔物が出ても戦えるぜ」


 洞窟内をぐるりと見回したシャムスが、再び歩き始める。

 青い地肌の洞窟に淡く重なる炎の赤が、神聖とされた場所の神秘さを感じさせる。


「ほんとに魔物が出るのかな?」


 不安がるキーランが、さらに奥を目指し進んで叫ぶ。


「やっぱ、出たー!」


 毒突どくづきキノコA・B、大ムカデが現れた。


「初めての洞窟ダンジョン戦闘か!ビエラ、どうする?」


 革の盾を前面に出してシャムスが聞いてきた。ビエラは落ち着いた様子で顎に手を当てている。

 やはりここでも魔物たちはキーランたちが行動する意思を示さないと襲いかかろうとはしない。


毒突どくづきキノコは毒攻撃しそうね。大むかでは堅そうで速さもありそうね」


 まだ魔物を見る余裕があるようでブツブツ悩むビエラ。


「キノコなら焼くに限る、真っ黒クロに」


「タイサイ!ふざけないでよ。ああぁ、もう!」


 邪魔されて叫ぶビエラがタイサイを睨むと、シャムスにまでその目つきのまま振り返り口を開く。


「シャムス!毒突どくづきキノコAに攻撃。キーランも、毒突どくづきキノコAに攻撃!わたしも毒突どくづきキノコAに攻撃。タイサイ、毒突どくづきキノコBに魔法攻撃よ!」


 キーランまでとばっちりを受けたかのように、持っていた武器をさらに強く握りしめビエラに頷いた。次の瞬間、


 カタカタカタッ!


 無数に岩を叩く軽い音と共に、大ムカデがシャムスに突進してきた。

 必死に大ムカデの牙をかわすシャムスだが、勢い強い大ムカデに触れられてしまった。


「うぐっ、は、速いな、この大ムカデ」


 踏んばるシャムスを追い越すようにキーランが前に出る。


「level3の俺の素早さが、大ムカデに負けている!?」


 自分に言い聞かせがら毒突どくづきキノコAとの距離を縮める。

 得意の左から両腕をたたんだ反動で右に青銅の剣を振り抜く。


 ドスッ!


 鈍い音を残し、振り切れなかった青銅の剣が毒突どくづきキノコAの顔なのか?胴なのか?微妙に一体になった部位で刃が止まっている。


「まだまだ踏み込みが浅いな!」


 引くように下がったキーランが悔しがる。


「次はわたしみたいねっ」


 ヴァンデル村で堅木の棒から買い換えた、衝撃部が金具で補強された護身 スタッフをビエラは毒突どくづきキノコAに叩きつけた。

 間髪いれず、シャムスが盾で空を裂きながら切っ先を向けた兵士の剣を毒突どくづきキノコAに突き刺す。


 突き刺さった瞬間、弾けるような音と共に毒突どくづきキノコAは頭の先から消滅していった。

 毒突どくづきキノコAを倒した。


火矢魔法ファイヤーアロー!」


 タイサイがかかげた杖の先の魔法円からすぐに放たれた火の矢は、毒突どくづきキノコBを貫き消滅した。

 残った大ムカデとキーランたちが向かい合う。


「タイサイ、魔法唱える詠唱したっけ」


 戦闘中にも関わらず、斜め後ろのタイサイにキーランが振り返って聞いた。


『確かに!』


 ビエラとシャムスまでが振り返った。一人タイサイだけが前を見据え言う。


「詠唱、無くても魔法は使える。ビエラだってそう」


 それでも一匹残った大ムカデは動こうとはしない。


「なら、なんで詠唱して魔法使ってた?」


「そうよ、低levelで使える魔法じゃないから、てっきり魔法発動に詠唱が必要だと思うじゃない?」


 ビエラとシャムスに責められるタイサイ。洞窟の壁に目を逸らして呟く。


「だって・・・・詠唱して魔法使えば格好いいから」


『・・・・』


 ビエラが顔を覆えば、キーランにシャムスは苦笑う。タイサイは再び大ムカデに視線を戻すと言う。


「ビエラ、まだ魔物は残っている。次の指示を」


「そうね、気持ちを切替2ターン目して戦闘、終わらせるわよ」


 そして、動かず待っていてくれた大ムカデへ次なる指示を出すビエラであった。



 ~~戦闘終了─経験値10獲得~~



 冷たい岩の地面に残った13オーロ拾いながらキーランは話す。


「ふぅー、さすがに洞窟ダンジョンの魔物は強いな」


「そうね、でも経験値やオーロが多いから助かるわ」


 埃を払うビエラに、汗をぬぐうシャムスが続く。


「それに草原で戦った曲芸ペンギンは現れないみたいだな」


 曲芸ペンギンとはヴァンデル村周辺に出る魔物で、2匹以上で現れると曲芸のような協力技で攻撃を仕掛けてくる厄介な魔物である。

 タイサイが上を見上げながら、


「多分、ここの広さでは曲芸できないから」


 呟いた。この言葉を境に、キーランたちは洞窟を進み出した。

 一本道ながら、右に左に曲がる奥行きのある洞窟である。



 ~~曲がり角に差しかかる─途中、戦闘5回経験─経験値52獲得─シャムス・ビエラ・タイサイlevel4へアップ~~



「どうする?左に曲がる?」


 シャムスが確認で振り返る。


「グレディン村長が助けを待っていそうなのは、多分、まっすぐに行くほうだと思うけど・・・・」


 シャムスの足元に目を落としてキーランは考え込む。


「みんな・・・・伝えたいことが・・・・」


 タイサイが全部喋りきらないうちに、ビエラが割り込んでくる。


「わかったわよ。曲がってみましょう。行き止まりなら戻ればいいし」


「よし、きた」


 すかさずシャムスは分かれ道を左へと曲がり進み出す。曲がって進む先はさらに左へと折れ曲がるようで、奥の様子はわからない。


「聞いて、くれ・・・・みんな」


 置いて行かれたように後を追いかけるタイサイが言った、が聞こえていないようだ。

 シャムスが左へ沿うように曲がって突き進んだ。


「こっ、これはっ」


 その先は行き止まりであったが、シャムスが驚きの声を落とした足元には、何故か金属で縁取られた赤い色の宝箱が置かれていた。


「この宝箱開けられていない?蓋は閉じているけど」


「開けていいのかな?」


 不思議がるビエラに、キーランがシャムスの背中を押すように言ってくる。

 キーランの言葉が通じたのか、シャムスは倒れるように崩れ、宝箱に手をついた勢いで蓋が開いたのだった。



 ♪♪カエルのお守りを手に入れた♪♪



 シャムスはそのお告げを聞きながら、知らずうちにカエルのお守りを手に取っていた。


「どうやら、貰ってもいいみたいね。さっ、シャムス行って」


 割りきりが早いビエラが、来た道を戻るように、先頭だからか?何故かシャムスから帰るように腕を宙で空振りしながら合図した。


 シャムスが来た道を戻ろうとしたときである。

 そういえば、とキーランが言い出す。


「カエルのお守りって洞窟ダンジョンから脱出できる道具アイテムだよね?ちょうどヴァンデル村では買わなかったから、持っていると助かるね」


 ビエラとシャムスも賛成するように喜んでいる。ただ、タイサイだけ、


「・・・・キーラン、今すぐ使って脱出しよ。俺、もうMP尽きた」


 またまた、以前と似たような体調ステータスで困り顔のタイサイに、


「グレディン村長、助けを待っているのに、もうっ!また戻るのかっ!!」


 キーランのこだまが洞窟を響き渡ったのであった。

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