SAVE1 そろそろこの辺で

 唐突な申し出に縦1列に並んだままのキーランたち4人。長い髪の娘がさらに一歩前へ出て、お願いです、と頼んでくる。

 その言葉を合図スイッチのように、キーランたちは動き滑らかに横列へと立ち位置を移したのだった。


「剣士見習いのキーランです。娘さん、何か事情がありそうですね、聞かせてください」


「グレーテと申します、この村の村長の娘です。うちの父を、グレディンをどうかお救い下さい」


 名乗った女性が深く頭を下げる。長い髪を一つに束ねた色鮮やかな髪飾りが妙に目立つ。




「つまり村長のグレディンさんはこの村の南にある洞窟に行ったまま帰ってこない、と?」


 村の奥にある祠から見える光輝く扉の前まで、移動しながら案内してくれたグレーテに確認したキーラン。


「村の祠の管理人である父がいないと、祠には立ち入れず、大陸に渡る光の扉が使えません」


 なんとも必死に訴えるグレーテがキーランの手を握る。


「ん、うっうん。とにかく、そこのグレーテさん?が言うようにグレディン村長がいないと大陸と繋がるこの祠の光の扉が使えない、のよね」


 キーランとグレーテの間に無理やり入ってきたビエラが改めて確認する。


「光の扉・・・・確か、矛の女神が各町を移動するための人々の助けに、網のような路として設けた祠にある光輝く扉で、通る者を光に変えて瞬時に繋がる扉の先へと運ぶ、といわれる」


 タイサイにしては長い呟きがようやく終わった。


「話はわかったが、なんかその扉、光ってる、っていうわりには、輝き弱くね」


 弱々しく輝く片開きの扉を前にシャムスが言った。


「 わたしも聞いた話ですが、扉がかつて眩しく輝いていたときは黄昏アーベント大陸の繋がる扉、どこへでも行けた、といいます」


 グレーテの言葉にキーランたち男3人は耳を傾けているが、ビエラはキーランから顔を背けた格好で腕を組んでいる。


「ですが魔王ルキフグスが現れた30年前から徐々に扉は輝きを失っていき、それに比例するように移動できる祠の数が減っていったと」


 さらにグレーテが付け加える。


「そして、輝きを失ってきたこの村の光の扉は、最近は黄昏アーベント大陸の南西端のオクワ王国の祠1ヶ所だけには移動できた・・・・のですが」


「誰かグレディン村長を迎えには行かなかったの?」


 強めな話し方で聞き返したビエラが詰め寄るようにグレーテに近づく。


「それがどういう訳か、本来聖なる神像を祀る洞窟なので魔物は発生しないはずなのに、急に湧いたように魔物が発生しだしまして」


「それで村人は近づけないっていうの?戦える人はいないの!」


 さらに熱く語るビエラは、見渡すかわりに後方へ横に振った手でヴァンデル村を示し、グレーテの答えを待った。

 村にはいくら出現する魔物が弱い地域だといっても、何故か見渡す限り守備兵らしき姿は無かった。


「残念ながら村の人々は、そういうではないので」


『設定?』


 仲良くキーランたちが聞き返した。グレーテが慌てたそぶりを見せる。


「わ、わたし何言ってるのかしら。違うんです、みなさんと違って私たち村人は魔物と戦う訓練を受けていないっていうことで・・・・」


 割り込む格好で、頭の後ろで手を組んでいるシャムスがキーランに話かける。


「いいんじゃね?俺らで村長助けに洞窟に行こうぜ。このままここに居ても、こわーいビエラさんがグレーテさんに襲いかかりそうだし」


「わたしは魔物かっ!」


 逃げるシャムスをビエラは追い回す。

 くすくす、と笑うグレーテを見ていたキーランが頷くと、


「よし、グレディン村長を助けに洞窟へ行こう」


 力強く宣言した。まだシャムスをビエラが追いかけいている。

 グレーテはキーランへ何度もお礼のお辞儀をしていた。


「キーラン、洞窟へ行く前に装備見直そう」


「あら、タイサイにしては良いこと言うわね」


 シャムスを追っていながらも聞こえたのか、ビエラが足を止めタイサイに感心する。


「わかった」


 キーランの一言をきっかけに、ようやくグレーテとの会話イベントが終了し、キーランたちは再び縦1列に並んだのであった。


 村の中へ戻ろうとグレーテへ話しかけると、


「わたしはこの場所で待っています。他に知りたいことがあれば村人に聞いてください」


 何故か義務的に語りかけてきたのだった。そんな彼女に、


「いや、あんたが教えてよ。知っていること」


 不満をたれるビエラをキーランとタイサイで挟んで祠を後にした。




 キーランたちは村の中心に戻ってきた。

 ヴァンデル村は光の扉の祠から臨む湖が有名な景勝地である。かつては多くの人が訪れ賑わっていた。


「なんか、王都アファグでも感じたけど、目につく人少なくねっ?建物もまばらだし・・・・」


「シャムス、きっとみんな働きに出て居ないのよ。そんなことより、あっ、ほら、前を横切ったおじいさんに話聞いて!」


「うーっ、話聞け、って緊張するー」


 ビエラのつっつきで先頭のシャムスが吠えるように上を見た。


「いや、そこは、みんな働きに出てる、のとこおかしいでしょ。魔物に襲われる外でなんか誰も仕事は・・・・しない」


 タイサイの誰かに説明するような呟きが最後尾からこぼれていく。


「シャムス!話しかけは挨拶便利操作よ。相手に接したら、さらに押し出すように進もうとすればこの世界ヴァーラムでは挨拶便利操作したことになり、いちいち細かい前置きを省いて相手が一方的に喋ってくれるじゃない」


「そっか、うっかり忘れてた」


 思い出したかなのようなシャムスがビエラに調子よく手を振って礼を伝える。


 そうこうしているうちに、シャムスは村の入口まで戻ってきたので、入口の脇に立っている若そうな男に早速勢いよく進んでいった。


「ようこそヴァンデル村へ。ここはすぐ隣の湖が有名な村です」


 村のことを教えてくれた村の若者。何故か彼は村の入口から離れようとない。

 シャムスは近くのもう一人の若い婦人に向かっていく。最初に村に入ったとき集まっていた人だ。


「困ったわ。いつになったら光の扉で大陸に行けるのかしら」


 話終えると若い婦人は離れていった。何故かどこに行くわけでもなく、右に左にと歩き回っている。


「ねぇ、あっち見て。武器屋って看板あるわ」


 ビエラが前方の並んだ建物のうち、1階から煙突が突き出た建物を指差した。


「よし行ってみよう」


 キーランが答え、シャムスは目の前の建物の扉へ躊躇せず突き進んでいく。


「そっちじゃない!隣の建物だ、武器屋は。シャムス!」


 キーランの制止もむなしく、勢いよく2階建ての建物の扉を開けたシャムスが中へ入っていった。


「あっ!間違えた」


 勢いが止まったシャムスだが、つられて入った形のキーランたちで外へ戻れない。


「ここは村人のお家よ、間違えないでよ」


「す、すみません。入る建物間違えました。隣の武器屋行くんで、すぐ出ます」


 建物には夫婦らしき口ひげの男性とお茶を飲んでいる女性がいたが、ビエラとキーランの言葉には反応しない。


 シャムスが謝ろうと夫婦に近寄ろうとしたとき、壁際に置かれている壺にぶつかり、倒れるようにその壺に手をかけたのだった。すると、中には薬草が入っていて、掴みとる。


 ♪♪薬草を手に入れた♪♪


『何!?』


 キーランたちは驚きの声を上げ、お互い顔を見ている。


「聞こえた?」


 ビエラが確認するとキーランたちは頷いた。どうやらキーランたちだけに聞こえているようだ。

 シャムスは薬草を掴んだまま口ひげの男性まで歩み前に立つ。


「あの、すみません。これ触るつもりじゃなかったんですが・・・・」


「先ほど外が騒がしかったが。昔はいつも観光客で賑やかだったのを思い出したわい」


 口ひげの男性が話終わったので、次は女性に話かけた。


「この薬草どうすればいいでしょうか?」


「あら、旅人さんかしら。ゆっくりしていってね」


 戸惑っているシャムスをよそに、夫婦は何故か自分たちの家を調べられる様子を見ながらも気にすることもなく、淡々と噛み合わない話を切り出す。

 ビエラが小声で言ってくる。


「忘れたの?矛の女神への信仰を示すのに必要なのは、寛容、なんだってこと」


「じゃあ、薬草はこのままもらっとくか」


 シャムスが薬草をいつの間にか取り出した道具袋に仕舞いこんだ。


「そういうことなら2階にも上がってみよう」


 タイサイの勧めにあっさり乗ったキーランたちは2階へと上がって、くまなく部屋を歩き回ったのだった。

 1階へ降りて出口に向かう。


「収穫はなし。武器屋に行きますか」


 シャムスが残念そうに外へ出ようとする。無反応の態度の夫婦にキーランは、


「お邪魔しました」


 挨拶をしたが、返事もかえってこなかった。

 今度は間違いなく隣の武器屋に入ろうとするシャムス。そこへタイサイが悔しそうに呟く。


「ああ、王都アファグでもいろんな建物に入って調べておけばよかった」


「いいさ、タイサイ。魔王ルキフグス討伐にはあまりはない、って思うから。何となく」


 最後に首を傾けるキーラン。そこへビエラがシャムスを呼び止め言う。


「ねぇ、武器買う前にわたしたち記録セーブしておかない?」


記録セーブ?」


 ビエラの言葉にキーランが聞き返した。


「おいおいキーラン寝ぼけてんのか!?」


 シャムスも呆れながら続けて言う。


「広場の矛の女神像の隣にあったろ、王都にもこの村の広場にも。自分の姿を鏡で写したような絵を紙にえがいてくれる箱形の小さな建物が」


「ふっ、そこの中の手のひらくらいの大きさの紙が置かれた鏡の前で仲良く祈ると、シャムスが言った写し絵がその紙に浮かび上がってくる」


 タイサイらしく得意気に語った。


「そして、自分たちを写しえがいた絵を半分切って、片方を隣の矛の女神像に貼りつけて、もう片方を持って、お・け・ば」


「おけば?」


 じらすビエラにキーランが堪らず食いついた。


「旅の途中なんかで、持っている片方の絵をと、貼りつけた片方の絵の場所の矛の女神像に戻るの。全ての状態が絵を写しえがいた瞬間に、ね」


 言いきったように左目をまばたきさせたビエラに、


「へぇー・・・・。なんか、物凄く有り難い話だね。それも全て矛の女神が与えてくれた恩恵なんだね」


 キーランは口を開けながら感心していた。


「そうよ、凄いでしょ」


 褒めてもいないビエラが誇らしげにピンと背筋を伸ばしている。


「キーラン、しっかりしろ!じゃあ、先に記録セーブに行きますか」


 シャムスが引っ張るようにキーランたちに声をかけ、一路、村の矛の女神像を目指したのだった。




「あれだ!」


 大げさにシャムスが広場に立つ矛の女神像の隣の小さな建物を指差した。

 入口には鏡の反射を防ぐためか、膝下まで垂れ下がった緑色の幕が目につく箱形の建物である。

 キーランたちは仲良くその箱形の建物に入っていった。


「で、どうすんの?」


 鏡の前に横1列に並んで、キーランが聞いてきた。


「みんなで言うんだよ。いにしえの時代に使われていた古代言語の言葉を」


 タイサイがもっともらしく教え、続けてビエラが大きく吸った息を吐くように言う。


「いい?みんな、いくわよ、せーのっ」


『ハイ、チーズ!』


 パシャリ♪


 謎の音がキーランたちの掛け声の後に鳴り、しばらく鏡の手前に置かれた紙を眺めているとキーランたち4人の姿が浮かび上がってきたのだった。

 早速キーランは手に取ってみた。


「おっ?これ、俺たちの状態まで写している」


 シャムスたちもその写し絵を覗きこんだ。



(ステータス*体力/素早さ/腕力/魔力)


 シャムスlevel3騎士見習い

(15/7/16/9)


 キーランlevel2剣士見習い

(9/12/10/3)


 ビエラlevel3神官見習い

(11/11/12/13)


 タイサイlevel3魔術師見習い

(10/6/9/35)



「じゃあ、破くよ」


 キーランが写し絵の紙を半分に破き裂いて、隣に立つ矛の女神像に貼りつけたのであった。

 そして、キーランがもう半分の写し絵を懐にしまったところで、タイサイが自信ありげに呟く。


「キーラン、いざとなったら俺の炎魔法でその写し絵焼くから任せておいてくれ」


「・・・・俺まで焼かないでね」


 こうして、キーランたちはその場を去っていったのだった。

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