level3 次の村へ
かろうじて視界に入る王都アファグに戻ろうとするキーランたち。
開けた平野を何故か一直線に戻らず、北を地図の上とするならば、一度、
遠回りのような道のりで城門に行き着いたキーランたちである。
「あっ!た、隊長。城門守護の任務ご苦労様です。今朝から大変ですね」
キーランが城門で見つけた城門守護隊隊長ネネギルに話しかける。
「うむ、城門守護隊隊長のネネギルである。国王グーテン17世陛下より貴公たちの話は承っている。モルゲニア王国周辺の魔物は
「へっ?」
呆気にとられたキーランたち。何故かキーランたちが出発するときと一言一句同じセリフを言うネネギル隊長。何かにとり憑かれたようなその目は、ただ真正面を見ていた。
「ネ、ネネギル隊長?」
「うむ、城門守護た・・・ううん、これは失礼。考え事をしていて。おや、キーランたちではないか?」
顔を横に振ったかと思えば、正気に戻ったようにキーランたちに気付いたネネギル隊長。
「次の町に行ったのではなかったのか?」
その質問に一斉に下を向くキーランたち。
「ちょ、ちょっと早めの晩飯でも食べようかなぁって、次の町まで我慢できなくて戻っちゃいました。ははは」
笑って誤魔化すキーランにシャムスが続く。
「そ、そうそう。ビエラがどうしても腹減って暴れられないって」
「シャムス!」
魔物と戦うとき以上の力で攻撃しそうなビエラの振りかぶる腕から逃れようとシャムスの体は大きく捻る。
「ビエラはまだ戦えそうだ」
タイサイの呟きが聞こえたのか、ビエラは腕を上げたままタイサイを睨んでいる。
「と、とにかくここを通らせてもらいます」
戦闘よりも疲れる3人のやりとりから逃れるようにキーランはシャムスを引っ張りながら城門をくぐった。
シャムスが連れていかれ、振るう腕の相手が遠ざかるビエラも追いかけるように後に続いた。
「シャムス、ボス戦の戦闘は逃れられないのよ!あら、わたし何を言っているのかしら?」
何故か自然と口から出た自分の言葉に戸惑うビエラ。
「確かに、ビエラなら最強のラスボス」
「タイサイ、あんたって人は・・・・」
すぐに元の調子でビエラは、後ろを付いてきたタイサイに震えた声で笑い返したのだった。
城門を通りすぎたキーランは立ち止まる。
「HPとMP回復するのってどうするの?」
「キーラン、しっかりして!宿屋に泊まるのよ。泊まって次の朝には回復しているの」
胸の辺りでポンと手を叩いたキーラン。シャムスが上を向いて、
「確か・・・・騎士団本部に行く途中に宿屋があったけな。あれ、名前なんだっけ」
そう言うと、今度は下を向いて腕を組む。右足のつま先で地面を叩き始めた。
「キーラン、宿屋じゃなくて家に泊まれば済む。近くだし」
タイサイが珍しくまともなことを言った。うつむいたキーランが答える。
「・・・・ならここで一旦解散するか?」
「何言ってるのキーラン!私たちは4人パーティーなのよ。行動はつねに一緒にするって決まってるの。行くならさっさと行くわよ」
そうしてビエラがキーランの前に出た。
♪♪キーランたちは並び替わった♪♪
『何々!?』
ビエラたちが一斉に驚いた。矛の女神が授けた機能、『行動を選択』したときの結果の通知だ。その対象の頭の中に直接響いてくる声である。
「これが矛の女神さまの囁き、ね。さあ、キーランの家に向かうわよ!」
先頭をきって威勢よくビエラが歩き出す。うなだれるキーランと上を見上げたままで歩くシャムスが続く。
「こっちの女神は囁きじゃなく叫び、だな」
少し遅れてついてくるタイサイが、それこそ誰にも聞こえないつもりで囁いた。次の瞬間、
「聞こえているわよ、タイサイ!」
ビエラの鋭い眼光がタイサイに向けられるのであった。
「あっ!思い出した!宿屋の名前、『
「もういいよ、シャムス」
まだうなだれて歩いているキーランが今にも倒れそうだった。
「あら、キーラン。心配してたのよ、無事で何より」
今朝旅立ったはずのキーランたちが戻ってきたにもかかわらず、何故か普通に接するキーランの母親。
「お母さん、実は魔物との戦闘で疲れていて。休みたいんだけど、みんなも泊まっていいかな?」
押し寄せた格好で気まずいキーランの不安など、どこ吹く風のように、
「大歓迎よ。さあさあ、みなさんお入りなさい。キーランも早くみなさんを迎え入れなさい」
母親は優しく受け入れ、早速ご飯の用意をしてキーランたちは初めての冒険の一日が終わったのだった・・・・。何故か誰もごく普通の2階建てであるキーランの家へ全員が泊まることに、狭さとか細かいことを気にする者はいなかったのである。
~~次の朝~~
「それではお母さん、行ってきます」
一晩休んでHPMPを回復したキーランたち。再び旅立ちの出発をしようと見送りするキーランの母親と家の入口に集まっていた。歩きの旅ではあるが、何故かこの
「キーランや、いつでも家に休みにきなさい。ここなら宿屋代もかからないから。みなさんも気をつけて」
手を振る母親を背にキーランたちは、魔王ルキフグス討伐の旅2日目、の一歩を踏み出したのだった。
「ところでキーラン。次の町へ行く前に道具屋でアイテム買っておかない?」
城門にさしかかる手前、まだ先頭を行くビエラが提案する。そこへシャムスが思い出すように話す。
「確か・・・・騎士団本部に行く途中に道具屋があったけな。あれ、名前なんだっけ」
「そうだね、備えあれば次の町、港町バーフェンに確実にたどり着けるね」
シャムスに構わずにキーランたちは騎士団本部を目指すのであった。
「騎士団本部は魔術協会の向かい側、すなわちこの大通りを王宮へ向かえば、王宮門の脇にある」
タイサイの親切な説明を聞き、まばらに行き交う人々とすれ違いながら大通りを進んでいく。
そんな中、ビエラが急に進行方向を変えた商人風の男とぶつかりそうになった。
「きゃっ、ご、ごめんなさい」
思わずビエラは話しかけた。すると男が、
「西の港町バーフェンは魔物の出現で船の航行を制限している」
聞いてもいない情報を話してきた。
「どういうことですか?船では
聞き返したキーランに、その男は何故かとり憑かれたように同じ言葉を繰り返すだけだった。
「別の人に聞いてみましょう」
そう言うとビエラは何故か船とは係わり無さそうな買い物途中の婦人風の女に話しかけた。
「今大陸と往き来できるのは軍の船団のみですわ。私たち庶民は東南に位置するヴァンデル村にある祠から移動するしかないのよ」
まさに的を得る情報を思いがけず教えてくれた婦人にお礼を言って別れたキーランたち。
「どうすんだよ、キーラン。俺たち知らずに港町バーフェンに行くつもりだったんだぞ。反対の方向に進んでいたんだぞ!」
「うーん、でもlevel上がったから結果よかったんじゃない?」
照れを隠すように頭を掻くキーラン。ビエラが切り出す。
「ここは道具屋を目指しながら人々に話を聞いて情報を集めましょう」
こうしてキーランたちは王都アファグで情報を聞き回り、道具屋でアイテムを買ったのであった。
~~王都アファグを東南に進んでいる─途中、戦闘8回経験─経験値35獲得~~
いつの間にかパーティーの並び替えをしていたキーランたち。
先頭を行くのはシャムスでありキーランとビエラの順に続き、タイサイがやはり最後を歩いていた。
「やっぱり先頭は攻撃の受け止めキツかったわね」
「ビエラは戦闘の他に回復も担うから前に出るのは負担が大きいよ」
「確かに、防御の高い俺が前で攻撃受けていれば、俺の後ろに下がったキーランでも圧倒している素早さで、まだ戦闘に優位に立てる」
「魔力だけではなく俺に、素早さと防御力がもっとあれば・・・・」
それぞれ、たわい無い会話をしているうちに彼らの視界の先にはようやく村らしき建物の形が見えてきている、はずである。
「あれか!ヴァンデル村は。キーラン日も暮れそうだ、村に入るだろ?」
「うー、でも俺だけ、まだlevel上がってない・・・・」
よっぽどキーランの頭は重いのだろう。キーランはまたうなだれていた。
「村に入るでしょ、キーラン。休めるうちに休まないと、全滅だけは避けましょ」
「魔法使えるMP残量はもう一回。戦うなら、村に一歩で入れる距離で」
ビエラの心配に、微妙な進言をするタイサイであった。
風光明媚な山々と湖を背景にヴァンデル村が近づいてきている。
「ヴァンデル村に・・・・入ろう」
そう言って決断をしたキーランに操作されるように、先頭のシャムスは迷わずヴァンデル村に入った。
入った瞬間、何故か見えない境界を越えたような空間の切り替えを意識するキーランたちである。王都アファグでも感じた、はずである。
村の入口で中心へと続く通りを進もうと立っていると、目の前に人だかりができていた。
何やら、聞いてもいないのに勝手に
若い婦人らしき女が通りの真ん中に、ちょくちょく、と歩み出て言う。
「あーっ、どうしよう!早く大陸へ渡って危篤のお父さんに会いに行かなくては!」
「オイラも困った。大陸へ薬の買いつけに行かないといけないのに・・・・」
若いモルゲニアの商人の男も、一歩一歩、進んでは止まるように動いた後、誰に訴える訳でもなく嘆いていたのだった。
そんな中、あきらかに『!?』の様子がわかる態度で、キーランたちに気付いた髪の長い娘が尋ねてくる。
「あなたたちは冒険者でしょうか?」
シャムスが金色の髪をかきあげながら喋ろうとするのより先にビエラが答えた。
「いいえ、私たちは魔王ルキフグスを倒すために旅に出た者たちよ」
「まあ!それは頼もしい」
そう言った髪の長い娘が続ける。
「是非ともこの村をお救い下さい!!」
「へっ?!」
キーランの間抜けな一言につられるようにシャムスたちも固まってしまったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます