level2 効果音が鳴ります

 初めての魔物であるスライムを倒したキーランたちは、何故か行列に並ぶように1列の隊列に戻る。


「6経験値獲得って、4人で分けるのか?」


 平野を進み出したキーランに向かってシャムスが呼びかけた。

 キーランは、解らないよ、と困った顔でビエラを振り返る。


「キーラン、教わったでしょ。矛の女神さまから与えられたlevelの力は、心のウィンドウを開いて確認できるって」


「ああ、そうだった。ちょっと止まるよ」


 進み出したキーランたちだったが、何故かすぐに足を止めて目を閉じてあおむく。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 キーラン

 剣士見習い

 level1

 体力:8

 素早さ:10

 腕力:9

 魔力:3

 Ex:6

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「俺、経験値6、獲得しているよ、ってことは」


「そうみたいね。わたしも6増えているから、わざわざ4人で割り切った数値のようね」


「そんなー、魔物仕留めた奴に多く振り分けしないなんて。1体仕留めたこのシャムス様は納得しないぜ」


 シャムスは空手のまま交差するように斜め斬りの仕草をキーランにして見せた。


「それ言うなら、2体倒したタイサイが一番納得しないでしょ」


 呆れたようにビエラが手を上げた。


「4人で戦って割るんなら、1人で戦えば・・・・4倍」


 タイサイがまた独り言のように呟いた。


「確かに、そうだけど、国王からわたしたちは4人で旅立つ仲間って認められたから、絶対に4人パーティーなの!」


 力強く語るビエラに何故か仲間はこれ以上増えないのか?などと疑問に思うことなく、納得するキーランたちであった。


「よし!経験値増やすためどんどん魔物と戦おう」


 再びキーランが進み出した。シャムスたちも跡を追うようにつづく。

 目の前の森を目指していたキーランだったが、何故かL字形に左へ右へとジグザグに進んで行くのであった。



 ~~戦闘3回経験─獲得経験値12~~



 魔王討伐の旅だったはずだが、初めての魔物との戦闘で興奮したのだろう。いまだ森にも入らずキーランたちは平野をさ迷うよっている。

 地平線の向こうにかろうじて王都アファグの城の塔の先端だけが見える。


「いやっポー、順調♪順調♪」


 リズミカルに合わせた歩幅を刻むシャムスは手の振りもご機嫌だ。


「ちょっと、いい加減に落ち着きなさいよ 。いつ魔物が襲ってくるのか?」


「だって、こうもあっさりlevelが上がるなんて。もうlevel2だぞ、俺たち」


 ニコニコ顔でビエラを振り返ったシャムスが言う。


「でも」


 相変わらず、呟く口調の割りによく聞こえる声でタイサイが続ける。


「キーランだけまだlevel2になってない」


「タイサイ!」


 ビエラがすぐ後ろの最後尾のタイサイに向かって目をつり上げた。

 そういうのは本人が一番気にするんだからはっきり言わないで、と言っているだろうビエラだったが、何故か遠くから、例えば天から下界を眺めるように見れば、ただ4人が仲良く連なって歩いているだけなのだろう。


「敵だ」


 それまで無言だったキーランが前方を指差す。


「よーし、今度こそ俺もlevel上げるぞ」


 やっぱり気にしていたキーランが短剣を抜き、発生した黒い炎を数えながらビエラに問いかける。


「魔物は4体、正体は・・・・かみつき奇花プラントだ!さあ、どうする」


 キーランの腰ぐらいの草丈で花の中心に口がある魔物が立ち塞がる。

 かみつき奇花プラントA・B・C・Dが現れた。 


 すっかり戦闘の指示を出す格好が似合ってきたビエラは次の行動を決めるため、考え込む。

 それでも、かみつき奇花プラントは攻撃をしてこない。


「さっきの魔物かよ、また。こいつらスライムよりHP有るのに、経験値1だったんだよな」


「シャムス、油断しないで。魔物は4体もいるのよ」


「level2になった俺なら一撃だっ」


 シャムスはかみつき奇花プラントを威嚇するように、構えた青銅の剣を突き出す。

 それでも仕掛けないシャムスを横目にビエラは指示を出す。


「キーラン、シャムスとわたしは直接攻撃ね。タイサイはさっき覚えた新魔法使ってみて」


「いやーっ!」


 シャムスとタイサイが頷く前にキーランが紛らわしい言葉を叫んだ。

 気合いの言葉だったキーランは、上段の構えで飛び込むようにかみつき奇花プラントBに斬りつける。


 ザクッ!


 見事にかみつき奇花プラントBの頭部に切れ込みが出来た。

 それでもかみつき奇花プラントBは不気味に茎のような体をクネクネと揺らしている。


「とどめはわたしがっ」


 相変わらず力強く堅木の棒を振り下ろすビエラがかみつき奇花プラントBに続いた。


 ザンッ!


 頭部に決まった打撃で、茎の体が折れ曲がったかみつき奇花プラントBだが消滅はしない。


「くやしいー、倒せない!やっぱりHP有るわね。厄介よ、この魔物」


「待ちくたびれたってーの」


 シャムスがかみつき奇花プラントBへ駆け寄りながら言った。

 間合いに入った途端、花と茎を断つように横へ青銅の剣を振り抜いた。


 かみつき奇花プラントBは消滅していった。


「さあ、タイサイ、新魔法ぶちかませ」


 調子良くタイサイに次を託すシャムス。


「タイサイの魔法が決まればもう1体は消滅ね」


 ビエラも魔物の多さを気にして、頭数を計算しているみたいだ。


 かみつき奇花プラントAが足のように根を動かしながら迫ってくる。

 キーランが目標にされ、噛みつかれた。


「いってっー・・・・たくも無いか?」


 右肩に噛みつかれながら、そう言ったキーラン。

 かみつき奇花プラントAは順番を進めるように、噛みつきを止め下がっていく。


「キーラン大丈夫?」


 相変わらずキーランを心配するビエラが、傷の状態を確認していた。

 かみつき奇花プラントのギザギザに並ぶ白い正三角形の歯の割りに深い傷は負っていない。


「あれ?前回の戦闘ではこの魔物、タイサイが先に攻撃したはずだけど、どうして」


 キーランの状態を確認し安心したのか、冷静になったビエラが状況を振り返った。


 かみつき奇花プラントCが攻撃してくる。目標は再びキーランだ。


「いいっつー」


 左の太ももに噛みつかれたキーラン。払うように短剣を出したときにはかみつき奇花プラントCは離れていた。

 残っていた最後のかみつき奇花プラントDがカチカチ歯を鳴らしながら、やはりキーランに迫ってきた。

 短剣が空振りになった体勢の懐に飛び込まれたが、噛みつきが浅く体当りの格好になる。


「げほわーん」


 3連続の攻撃を受けたキーランの反応が意味不明になっていく。


「ああっ、キーラン死んじゃう!」


「ビエラ、勝手に俺を殺すなよ。まだ1/5HP残っているって」


 集中攻撃の衝撃から正気に戻ったようなキーランだが、何故かHPが少ない割りに戦闘姿勢をとりなおす動きに鈍くなる様子はなかった。


「こいつらにはシャムス様が見えていないようだな」


「待っててねキーラン。は回復魔法使うから」


 キーランが攻撃を受けているあいだ何故か動きが止まっているシャムスたちだった。


「万物に宿りし女神の精霊たちよ、炎の精霊に告げる。汝、わが言葉に従い、揺らめく炎のさざ波となりて押し寄せよ。炎漣魔法ファイヤーウェイヴラト!」


 杖を地面に向けて詠唱すると、杖の先の魔法円から炎が吹き出して広がりながら地面を伝っていく。

 かみつき奇花プラントA・C・Dに炎が触れると勢いを増し、炎に包まれながらA・Cが燃えつきるように消滅していく。

 最後のかみつき奇花プラントDの消滅に合わせ経験値4を獲得した後だった。


 カッカカンカカンカカンッカ♪


 そらからまるで商店街の福引きに当たった鐘のような音が聞こえるのである。


「や、やった。levelアップだ!」


 ♪♪キーランはlevel2になった♪♪

 体力は1上がった

 素早さは2上がった

 腕力は1上がった

 ♪♪♪♪


「おっ!告げている、告げている」


 そらからの淡々とした棒読みの声をシャムスたちもキーランと共に聞いている。

 矛の女神が人に授けたというlevel上昇の力の恩恵を知らせる声だ。


「あー、体力と腕力もう少し上がりたかったよ」


 キーランは落ちた8オーロを拾いながら愚痴をこぼす。


「進む前にちょっと状態、確認するよ」


 キーランはそう言うと自分だけ心のウィンドウを覗くため目を閉じたのだった。シャムスたちは頷いたあと何故か、ただキーランの様子を眺めるように並んで待っている。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 キーラン

 剣士見習い

 level2

 体力:9

 素早さ:12

 腕力:10

 魔力:3

 Ex:22

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「よし、確認できた。待たせたよ、どんどん魔物倒して進もう!」


 目を開けたキーランが後ろのシャムスたちを振り返ってから、ようやく平野を再び進み出そうと前を見る。


「良かったわね、これでみんなlevel2に揃ったわね、って喜んでいる場合じゃないわよ。キーラン、今のうち回復魔法ヒールでHP回復しとかない?」


 すぐにビエラが反応する。


「魔法っていえば、またまたタイサイ、あんた一体何者?」


「そう、そうだぜ。level2で覚えた魔法がいきなり複数攻撃魔法かよ。魔術師見習いで有り、なのか?」


 シャムスもビエラの話に乗っかった。

 キーランはただ、まだ見ぬ遠くの先を見つめたまま立っている。


「さっきの魔物、植物系だったから火属性の魔法の威力高まったんだな」


 タイサイが語りだした。シルバーの髪を手櫛でかきあげながら続ける。


「威力高い魔法覚えたのって俺の魔術師としての才質だな。・・・・でも問題が」


『何々?』


 シャムスとビエラの声にキーランもようやく振り向く。


「さっきの魔法でMPが尽きた・・・・」


『えーっ!』


 3人仲良く驚いた。


「旅の道のりはこれから、ってときに」


 悔しがるシャムス。


「どうすんのよ、もう。MP節約しなさいよ、タイサイ」


 ビエラのツッコミに、


 ──魔法使えってビエラが言ったから──


 なんて思っても口には出せないタイサイであった。


「ひとまず王都アファグに帰らないか?」


 誤魔化すようにキーランに向かってタイサイは思いつきを口にした。


「・・・・そうね。まだお城が見えるうちに引き返すのが、を回避する最善策ね」


 ビエラの賛同にシャムスも付け加える。


「確かに、魔王討伐で勇敢に王都を飛び出した俺たちだけど、次の町に行けないなら仕切り直しに戻るのも有り、だな」


「・・・・確かに言っていることは解るけど・・・・あんだけ啖呵切って魔王討伐の旅に出たのに、あーっ、もうっ、おいそれと帰ればっ、カッコ悪いってー!!」


 王都アファグ近郊の平野に高々と響き渡る、剣士見習いキーランの叫び声であった。

 その間キーランたちは一歩も踏み出さず立ち止まっていたので、何故か新たな魔物は出現しなかったのである。

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