MAP1 モルゲニア王国

level1 スライムとの戦闘

 王都アファグの城門から街中へ伸びる大通りがある。その大通りの城門入口近くからすぐ脇へ入った小路には茶色い煉瓦の2階建ての家があった。

 家の扉の前で1人の女性が心配そうに4人の若者のうち、紫色の髪の少年を見つめていた。


「それではお母さん、魔王ルキフグスを討つ旅に出かけます」


 剣士見習いキーランは国王からもらったお金400オーロを4人で割った100オーロを使い、旅支度をしていた。

 腰には何故か、国王への謁見のときに身に着けていた剣ではなく、50オーロで買った真新しい短剣を下げていた。


「キーランや、くれぐれも無理はせずに戦いなさい。ビエラにシャムスやタイサイさんと力を合わせて行くんだよ。皆さんも、お気をつけて」


 キーランの母親が深々とお辞儀をした。

 キーランはくるりと背を向けると、先に一歩踏み出して、


「さあ、旅立とう!!俺に付いてきてくれー!!」


 澄みきった青空の遠く先の高さまで届くような声で叫んだのであった。

 ビエラとシャムスが、


「おばさん、行ってきます」


 と短く挨拶し、タイサイは、


「まかせろ」


 と早口で呟き、キーランの後に続いた。

 キーランは母親を振り返ることなく一直線に城門を目指す。そうして、見習い4人は魔王討伐のため魔物が棲む外界の入口へと、歩み出すのであった。



(ステータス*体力/素早さ/腕力/魔力/)


 キーランlevel1剣士見習い

 *装備*短剣,革の胴衣

(8/10/9/3)


 シャムスlevel1騎士見習い

 *装備*青銅のつるぎ,革の胸当て,革の盾

(11/5/12/7)


 ビエラlevel1神官見習い

 *装備*堅木の棒,厚手の僧衣

(8/9/10/10)


 タイサイlevel1魔術師見習い

 *装備*素朴な杖、普段着のローブ

(7/4/8/32)




 すぐにキーランたちは城門へとたどり着いた。

 日の明るいうちは城門は開いており人々の往来を騎士が見守っている。


「剣士見習いキーランです。魔王討伐のため旅立ちます」


 門番の騎士に告げると、隊長だろうか、1人だけ兜を被らない騎士が歩み寄ってくる。


「うむ、城門守護隊隊長のネネギルである。国王グーテン17世陛下より貴公たちの話は承っている。モルゲニア王国周辺の魔物は黄昏アーベント大陸から離れているお陰で非常に弱いとはいえ、くれぐれも侮らぬように。さあ、通りなさい」


 キーランたちは城門をくぐって外界へと、徒歩で進んでいった。何故か縦に1列に並んで、キーランを先頭にシャムスとビエラが続きタイサイも遅れることなくついて行く。


 城壁に囲まれた王都アファグの城門を出た先から外界へ導くように、幅広い1本の道が整えられている。

 道の他は見渡す限り平野が広がっている。キーランたちは道なりに歩く。


「ああ、王都があんな小さく見える。見渡す限りの平野には魔物の影すらまだ見えない」


「油断はダメよ、シャムス。魔物の不意打ちには十分に注意よ」


「大丈夫、俺の火魔法で全部倒す。あと野宿で火を起こすときも火魔法でつける」


「魔法ではつけません!」


 ビエラがタイサイに叫んだとき、今まで無言だったキーランが指差して言った。


「あっちの方へ言ってみよう」


 その先には森が見える。キーランが道を外れると、シャムスたちは何故かキーランの足跡をなぞるように直角にあとをついて行く。


「キーラン、道から逸れて、どこ行く?次の町はそっちじゃないぞ」


「わかってるよ。森の中なら魔物隠れているんじゃないかな。だから早く魔物と戦いたいんだ」


 キーランはシャムスを振り返り、腰元の短剣を軽く叩いてみせた。


「ねぇ、あっちを見て!」


 声を上げたビエラの指差した方を一斉に見た。

 キーランたち一行の左側の地面から、広げた傘くらいの範囲で黒い炎のようなものが、音も無く揺らめいて上っている。

 さらに挟むように両脇からも同じような黒い炎が立ち上がってきた。


「なっ、何だ?」


 すかさずシャムスが青銅の剣に手をかけ警戒する。


「あわ、わわわ」


 とキーランは落ち着かない。


「魔物よ!」


 ビエラが叫んだ。

 黒い炎は膨らむように勢いが増すと、すぐに燃え尽きるように消えていく。

 消えていく黒い炎の中から、緑色で半透明の扁平した丸い固まりが現れ、キーランが驚くように叫ぶ。


「スライムだっ!」


 スライムA・スライムB・スライムCが現れた。


 シャムスが青銅の剣を抜くと、ビエラが堅木の棒を握ってそれぞれ一歩前に出た。

 シャムスの後ろ側面に移動したタイサイは、左手に持った杖を突き出したまま動かない。


「キーラン!しっかり」


 一人だけ武器を構えていないキーランにビエラが気合いをかける。

 何故かスライムたちは攻撃を仕掛けない。

 ようやく短剣を引き抜いたキーランが、柄の長い短剣を両手で握って切っ先を向けたままジリジリと前に出る。


「ど、どうして攻撃してこない」


「キーラン、あんまり前に出るな。集中で攻撃されるぞ」


「杖上げたまま、疲れた」


「わかった!こいつらトロイのよ。みんな、よ」


 最後にビエラの結論に至り、何故か一番素早いキーランから攻撃は始まった。

 スライムCに短剣を振り上げ飛びかかった。


 ヒュン!


 いきなり短剣は空を切り、キーランの体勢は崩れた。


「キーラン、慌てないで。次はわたしよ!」


 二番目に素早いのだろう、ビエラがスライムCに堅木の棒を叩きつける。


 ビチッ!


 鈍い音を立て、スライムCは当たっている部分が凹んでいる。素早くビエラは離れた。


 今度は、スライムAが平たく潰れるように変形すると、反動をつけたようにキーランに飛んで体当たりする。


「うわ、や、やられた」


 まだ体勢が悪かったキーランがなんとか耐えると、今度はスライムBが飛んできた。


「ちょ、ちょっと、まっ、あがっ!?」


 連続の体当たりにキーランはよろけながら倒れた。

 スライムCが体当たりの姿勢に入った。


「キーラン、早く起きて!」


 ビエラの声は切実に城から離れた平野に響いた。


 ヒュッ!


 風を切って飛ぶ音を立て、革の盾を併せ持っているシャムスにスライムCは攻撃したのだった。何故か持った盾で防がなかったシャムスだが致命傷にはならなかった。


「危なかった、キーランだったら・・・・」


「いってぇ!今度は俺の番だ!」


 ビエラの心配も関係なく、シャムスはスライムCに青銅の剣を振りかぶって攻撃した。


 きれいには斬れなかったが傷は負わせられた。


「魔術師は魔法使ってなんぼ、ですけどね」


 戦闘を見守っていたタイサイにようやく順番が回ってきたようだ。何故かタイサイは魔法を使わずに、両手に持ち替えた杖でスライムCへ打撃を加えた。


 見事な弧を描いて杖が当たった瞬間、スライムCは消滅するように端から消えていった。


「やったわ。1体倒したわよ」


「次は、ど、どうする?ビエラ」


「キーラン、シャムスは攻撃を。タイサイ、魔法ぶちかまして。わたしはキーランを回復するわ」


 ビエラの的確な指示に、何故か次の行動が決定したようにキーランたちは互いに頷いた。

 再びキーランが短剣を振り上げて、次はスライムBに飛びかかる。


 スライムBの真ん中に振り下ろされた短剣は見事に当たった。不思議とスライムBの切り口からは血は流れていない。

 攻撃されたスライムBは這うように後退りした。


回復魔法ヒール!」


 左腕を伸ばしたビエラがキーランへ掌を向けて唱えた。開いた掌の先に白く光る古代文字の魔法円が現れる。

 魔法円から白い光が飛び出しキーランへ向かって行く。白い光はキーランの体の中へ入り込むように消え、瞬間、光の膜に包まれたようにキーランの全身が白く発光した。


「ビエラ、助かった。さあ、来い!スライム」


 元気になったキーランは、何故か短剣を向けたまま立ち尽くし動かない。

 スライムAが攻撃する。体当たりしたのはシャムスにだ。


「くっ!」


 シャムスは体を捻って当たりの勢いを反らしたようだ。

 続けて、スライムBが攻撃に出る。キーランもビエラも通り越し、狙ったのはタイサイだった。


「んーうん」


 微妙な反応をしたタイサイだが、ローブだけではそれなりに痛い体当たりだったはずだ。


「俺の番だ!」


 シャムスがスライムBに詰め寄って青銅の剣を下から上へ斬り払った。見事に振り抜けた瞬間、スライムBは消滅して消えた。


「やった!俺、魔物、初退治」


 立ち姿勢へ戻ったシャムスが、血も付いていない青銅の剣を払う仕草をして見せた。


「万物に宿りし女神の精霊たちよ、炎の精霊に告げる。汝、わが言葉に従い、貫く炎となり放たれよ。火矢魔法ファイヤーアロー!」


 タイサイは何故かシャムスの決めポーズまで終わるのを待ってから、左頭上に杖を掲げて魔法の呪文を詠唱してみせた。

 杖の先に古代文字を刻んだ赤く光る魔法円が出現し、飛び出した炎の矢が一直線にスライムAを貫いた。


 スライムAはキーランたちの腰ぐらいまで宙に浮くと、淡い光を放ちながら上部から消滅していく。

 消滅に合わせて蒸発するように、キーランたち世界ヴァーラムの記号みたいな数字が天へと登って消えていったのだった。


「あれが経験値ってヤツね」


「経験値、スライム3体で、6か?少なっ」


「おい、キーラン、なんか落ちたぞ、消えたスライムから」


 気づいたシャムスの呼びかけにキーランたちは近寄っていった。

 キラキラ輝くオーロ硬貨が3枚落ちている。


「やった!」


 喜ぶキーランが、何故か魔物が消えて替わりに現れたお金を拾い上げた。


「ふっふ、見たか、我が魔法の威力を」


 たいして肩が凝るほどの過酷な戦闘でもなかったのに、タイサイは杖を持っていない右腕をぐるぐる回してみせた。


「何?タイサイ、あんた、魔術師見習いなのにすごい魔法使えるのね。level1でしょ?あんたも。最初から使いなさいよ、その魔法」


『そうだ!』


 キーランとシャムスも仲良く腕を突きだしてビエラに賛成した。

 タイサイはうつ向いてしばらく無言になったあと、呟いた。


「最初は魔法じゃなく、の行動指示だったから」


 こうして、最初の魔物であるスライムとの遭遇と戦いが終わったのだった。

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