世界の外れから見習い《ノービス》が魔王を討ちに旅立ちます~王道RPGのすすめ~

夏梅はも

オープニング 旅立ち

 伝え聞けば眠くなるほどのはるか昔の出来事。世界ヴァーラムの半分を占める黄昏アーベント大陸では矛の女神と盾の魔神が争いを続けていた。

 魔族を率いる盾の魔神は決着をつけるべく、強大な魔力を使い鉱石を魔物に変えて攻勢をかけた。

 劣勢に回った矛の女神は率いる天使だけでは耐えきれないと、人を創造した。そして、人にlevelという能力が成長できる手段を与え、魔法という術を教え、戦いに臨んだのであった。


 天使に人々が魔族に魔物と戦っていた間に、いつしか矛の女神も盾の魔神もどこかへ姿を隠すように消えて、黄昏アーベント大陸には力を蓄えた人々と、気性が大人しくなった魔物だけが取り残されたのであった。

 めでたし、めでたし・・・・ではなく、人々は互いに異を唱えては争い、そうして数多の戦乱を繰り返しながら国の興亡を繰り広げたのであった。


 時は流れに流れ、黄昏アーベント暦1191年、突如として現れたルキフグスと名乗る魔王が魔族の軍を率いて黄昏アーベント大陸の北方、神聖ディビシオン帝国の帝都ゲネアルに侵攻した。魔王軍は瞬く間に帝都を陥落させ帝国全土を掌握した。

 それと同時に大陸に棲息していた魔物の活動が活発になり人々を襲い始めた。魔王軍は南下を始め、隣国のウェイン騎士団国を滅ぼした。二大軍事国家をいともあっさり討ち滅ぼした魔王軍に大陸全土の人々は衝撃を受け恐れおののいた。しかし、魔王軍の侵攻は止まらず周辺諸国のソンネンブレダン公国・オゼアン海洋国・グビルゲ王国までも滅ぼし、黄昏アーベント大陸全土は魔王軍に支配されるのも時間の問題であった。

 次なる目標の大陸南方の大国デューラム王国に侵攻を始めたときである。突然、魔王軍の勢いがなくなり戦線が膠着状態となる。

 それから30年の月日が流れた。人々は魔王軍に立ち向かうべく反攻の力を蓄えていた。


 黄昏アーベント大陸の南西沖に浮かぶ島、フリデン島。島の大半をモルゲニア王国が治めている。

 その王都アファグから小さな反撃が始まる。




~~黄昏アーベント暦1221年/モルゲニア王国王宮~~


 王宮の玉座から国王グーテン17世が、歩み出た3人の若者を見下ろしていた。


「慣例に従い立ったままで失礼致します。剣士見習いのキーランでございます。本日は謁見をお許し頂きお礼申しあげます」


 真ん中に立つ紫色の髪の少年が挨拶をした。襟を黄色で着飾っただけの緑の上着と腰につるした剣が、胸を張る格好によく映えている。


「そちが魔王ルキフグス討伐のため出国を願い出たキーランか?」


「はっ、魔王を討ち果たし、かつて黄昏アーベント大陸に名を轟かせたモルゲニア剣術を再興させるべく」


 傍らに控える大臣らしき人物の一人が国王の耳元で何やら囁いている。


「剣士とはいえ見習いでの覚悟見事である。して、その後ろに並ぶ二人は、従士か?」


 赤い外衣に巻いたベルトから剣を下げた姿の少年が勇ましく一歩前に出る。勢いで、綺麗な金色の髪の束ねきれなかった垂れ下がった前髪が跳ね上がる。


「従士ではございません。モルゲニア王国騎士団見習いのシャムスであります。この度は私もキーランと共に魔王討伐に臨みたく願い出ました」


 国王に向かい合うキーランたちを挟むように居並んだ重臣の一人が、気まずそうに前に出る。


「ゴホン、国王陛下。そこの騎士見習いシャムスは私の三男でありまして、無礼を承知の発言申し訳ありません」


「おおっ!騎士団長シャムピオスの子息であるか」


 閲兵の帰りだろうか?何故か城内までプレートアーマーを身に着けた騎士団長シャムピオスが、国王に頭を下げながらシャムスを睨み付けていた。


「恐れながら」


 そう言って前に出た、艶やかな黒髪を結い上げ、下の先端が伸びた赤い菱形の印が入った上衣サーコートがよく似合っている少女が続けて言う。


「神官見習いのビエラでございます。わたくしもキーランたちと行動を共にしたく、許しを願うため参上いたしました」


 深々とお辞儀するビエラにつられて二人も改めて頭を下げた。


 騎士団長シャムピオスが並ぶ反対側の列に立つ、白の法衣の上に鮮やかな青の衣を羽織った女性が国王の方へ体を向ける。


「王国神聖寺院神官長マールレイアが発言することをお許しください」


「今度はマールレイアか?許可いたそう」


「はっ、そこのビエラは見習いの神官でございます。まして、人々を癒す魔法よりもメイスを振るうのを好みといたします。そんな彼女がとんだ無礼な発言をいたしまして、何卒お忘れください」


「マールレイア様!メイスを振るうだのなんて恥ずかしいこと言わないでください」


 頭を下げていたビエラが勢いよく神官長マールレイアの方を向いて言った。


「これっ!国王陛下の前で、はしたない」


「はっはっは!よいではないか、これまたお主マールレイアの若き頃にそっくりではないか!」


 グーテン17世国王の高らかに響く笑い声に、うつ向くビエラとシャムスに騎士団長シャムピオスと神官長マールレイアたちであった。

 そんな中、キーランだけはグーテン17世国王を真っ直ぐ見つめていた。


 再び国王の傍らに控えた大臣らしき人物が、国王の耳元で何やら囁く。


「ふむ、よかろう!剣士見習いキーランよ、騎士見習いシャムスと神官見習いビエラたちと魔王討伐に行くがよいっ!」


『おおっ』


 居合わせた者全てから驚嘆の声が上がった。見習い3人は一斉に片膝をついた。


「王国魔術協会代表ザガナから申し出がございます」


 神官長マールレイアの隣から音もなく進み出た、何故か灰色のローブを深々と被った人物の声が不気味に響く。


「聞かせよ、ザガナ魔術協会代表よ」


「彼ら3人だけでは心許ないと思います。さすれば我が直弟子の同行のお許しを」


 魔術協会代表ザガナが右手を胸にお辞儀すると、何故か彼の後ろからもう一人灰色のローブを被った人物が現れて、キーランたちの脇に立つと被ったローブを脱いで国王に向かった。


「魔術師見習いのタイサイでございます」


 魔術協会代表ザガナが紹介した少年は、ローブの灰色とは違い、光沢の見事なシルバーの髪が肩口まで垂れている。キーランたちよりも頭一つ高い上背は、見た目以上に年上の印象だ。


「魔術師見習いとはいえタイサイは、魔力の才質はずば抜けております。それに期待して直弟子にいたしたのです。必ずや彼ら一行の力になりましょう」


「国王であるこのグーテン17世まで噂は耳に入っておるぞ。王国始まって以来の魔力の能力値を持っておるとか。ふむ、いかがか?キーランよ」


 キーランは順にシャムスとビエラの顔を見たあと、


「有り難き申し出でございます」


 国王に畏まってから、タイサイを向いて、


「剣士見習いのキーランです。一緒に魔王ルキフグスを倒そう!」


 伸ばした右手を差し出した。


「タ・イ・サ・イ・デ・ス」


 何故か片言の、血も通わぬカラクリ仕掛けの人形のように答えたタイサイに、「はっ?」と首を傾げるキーラン。


「ふっ」


 無表情だったタイサイが今度は、何故か影がある無口な少年を演じるように鼻で笑うと、「へっ?」と不思議がるシャムス。


 結局、キーランから顔を背けると、


「・・・・よろしく」


 ボソリと呟き、差し出されたままのキーランの手を握ったのだった。


「何?この人、めんどくさっ!」


 堪らずビエラが叫んだあと、キーランとタイサイの手に重ねるように手を当てると、シャムスも重ねたのだった。




「ふむ、どうやら旅立つ仲間が決まったようだの」


 国王グーテン17世が満足げに頷きながら言った。


「ところで剣士見習いキーランよ。そちの紫の髪を見ておると、先王だったわしの亡き父上を思い出すのう・・・・。特別に、剣士見習いキーラン一行に魔王ルキフグス討伐の準備金として、金400オーロを授けるといたす!」


 威勢よく立ち上がった国王グーテン17世が杖を持った左手はそのままに、右手を放り出すように前に差し出して言った。何故かキーランたちにお金までくれたのであった。


 こうして見習いの剣士・騎士・神官・魔術師4人の魔王討伐の旅が始まるのである。

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