第2話 泡沫

深夜三時。


大地は静まり返って、まるで世界には僕しか存在しないみたいだ。


調理に使った大きな鍋に蛇口から出てくる熱湯が注がれるのを眺めながら洗剤を七滴注いだ。


大きさの異なる無数の泡が発生した。


蛍光灯の光を反射した泡は、青藤色や撫子色に変化していた。


蛇口を止めると、発生と消滅を繰り返していた泡はやがて消滅するだけのものになった。


大きいものも小さいものも、徐々に姿を消し、最後にはどの泡の大きさも変わらないものになった。


また泡をつくってみたかったけれど、これ以上注げば、これまで溜めた水が容器から溢れ出し、泡だって全て失われてしまう。


洗剤を注ぎなおせばいいじゃないか。


だけど、繰り返しているうちにいつかは洗剤だって無くなってしまうのだ。

そしたらまた同じことの繰り返しだ。


そんなふうに考えていると、今度はもう、ただ消滅する泡を眺めているだけの無力な自分が思い浮かんだ。


それならどうしてこの泡は発生したんだろう。


なぜ、この容器は水で満たされているんだろう。


なんのために、この容器を作ったんだろう。


せっかくイチになったのにゼロになってしまうことに何の意味があるのだろう。


泡は容器の中の物質を分解して、そしてやがて水の中へ消滅した。

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