three

 雨風が窓を叩く音が意外に大きく、僕は目を覚ました。


 昨日の夜、彼女が姿を消してから色々と考えてみたのだが、彼女が何者なのか全く想像がつかないでいた。

 仕事も全く手につかず、光には悪いと思ったがなんの進展もないまま作業を放置して会社を後にしたのだった。


 彼女自信の希薄きはくさとは裏腹に「今の生活に満足している?」といった彼女の言葉が耳にこびりついて離れない。

「今の生活に満足している?」というフレーズはどこかで聞き覚えがある言葉だった。

 僕は自分でもどうしてそうしたのか分からないが、出勤前で時間があまりないにもかかわらず、インターネットでその言葉を検索してみた。すると思いの外、多くのサイトがヒットした。

 その中の一つをクリックしてみるとそこには、訳の分からない文章が書かれていた。


 「今の生活に満足している?」

 そう質問してくる女性の存在を御存知でしょうか?

 彼女はあの時こうしていれば。

 あの時こうしていたら。

 そんなやり直したい過去がある人のところに彼女はやってきます。

 彼女に出会う方法がいくつかあると言われていますが、それはどれも定かな情報ではありませんので、ここでは割愛させてもらいます。

 しかし、これだけは言えます。

 彼女には人の心を読み取る能力があるのです。だから、やり直したいという強い気持ちを持っていると必ずあなたのところにもやってくる事でしょう。

 ただリスクがない訳ではありません。

 過去をやり直した先が今より幸せだとは限りません。

 当然、今より不幸で、辛い現実に向き合わなければならない可能性がある事を肝にめいじておいて下さい。

 そして、もう一点。

 彼女の質問に、今の生活に満足していると答えた場合。

 勝手に現れておいて理不尽だと思うかもしれませんが、彼女はあなたをこことは違うところへ連れていってしまいます。

 それがどこかは分かりません。何故なら、そこに行った人にはもう誰も会えないのだから。


 いやいや、こんなの都市伝説とも呼べない。

 そんな馬鹿らしい内容に辟易へきえきとして、見ていたサイトを閉じた。

 そんな質問に答えるだけで過去をやり直せるなら苦労はしない。

 過去をやり直す。その言葉で、不意に、普段の生活から色がなくなり、世界がモノクロームのように味気ないものに感じられるようになった、あの時を思い出す。

 いや、思い出した訳じゃない。

 いつも心に、歯の隙間にものが詰まった時の様に、いやな引っ掛かり方をしていたが思い出さないようにしていただけの事。

 その記憶が急に引っ張り出された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る