昨夜聞いた《今の生活に満足している?》というフレーズを、私はどこかで聞いたことがあるような気がして、インターネットで《今の生活に満足している?》というキーワードで検索をかけてみた。

 すると、都市伝説のサイトが複数ヒットした。その内の一つをクリックしてみる。

 すると、そこには、こんな話が載っていた。


 パラレルワールドへの誘い人。

 あなたは今の生活に満足していますか?

 大なり小なり、人は不満や後悔を抱えて生きているでしょう。

 あの時こうしていれば。あの時こうしていたら。

 そんな人生の分岐点で、違う選択をした世界、パラレルワールドへ連れていってくれる少女がいる事をあなたは知っていますか?

 彼女に出会うには、夜九時頃に、必ず一人で、あの時こうしていたらと思った瞬間を思い浮かべてください。

 ただそれだけで、彼女はやってきます。

 しかし、彼女は一人でパラレルワールドの管理をしているので、その日その日で、あの時こうしていたらと願った人の中から、一番面白く変化しそうな人のところにやってくるそうです。

 彼女はやってくると、こう問います。

「今の生活に満足している?」

 この質問に満足していないと答えると、晴れて、パラレルワールドへと行くことが出来るそうです。

 でも、勘違いしてはいけません。

 今とは違う分岐先の世界が必ずしも幸せだとは限らないのです。

 当然、今より不幸で、辛い世界に行く可能性がある事を肝にめいじておいて下さい。

 パラレルワールドへは、一方通行で、戻ってくることは出来ません。

 そして、もう一点。

 彼女を呼んでおきながら、今の生活に満足していると答えた場合。

 時空の狭間で生き続ける事になるそうです。死ぬ事も出来ず、悠久の時が流れる、時空の狭間で、ずっと。

 くれぐれも、彼女を呼ぶ時はご注意下さい。


 なんとも下らない、子供騙しにもならないような内容だったので他のサイトも見てみたが、どこも似たような内容だった。

 しかし、そんな子供騙しのような話にも、気になる点はあった。

 どの話にも必ず、少女が「今の生活に満足している?」と聞いてくる事と、パラレルワールドに行けるという内容が組み込まれている点である。

 私の家にやってきた、あの奇抜な靴を履いた少女を別の世界の住人だと感じたのは、あの少女がパラレルワールドの人間だったからなのだろうか。

 でも、もし、あの少女がパラレルワールドに連れていってくれるなら、この生活に満足していないと答えてみるのも面白いかもしれない。


「いやいや、なにをバカな事を考えているんだ私は」


 笑うと、私しかいない部屋で笑い声は反響し、自分の声のはずなのに、その音が妙に耳にこびりついた。どうも居心地が悪い。ここは。

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