電車に揺られて!です!

「ああああ!嫌だあああ!!」

「葵ちゃん、最近ずっと叫んでるね」


 私、澄川葵とかまくら部の一行は今、北海道最大の都市、札幌を目指して電車に揺られている。別に札幌に行くのは構わない、問題はその目的だ。野球観戦?人気アーティストのコンサート?それともショッピング?それなら喜んで行こうじゃないか……なのに……


「なんで行き先が私の家なのよー!」

「葵ちゃ~ん、電車の中では静かにね~」


 出来ることなら次の駅で降りたくて仕方がない。嫌なのは実家の事だけじゃない。今乗っている特急列車も不満だ。ここから札幌までは二時間弱、金額をケチって自由席にした結果満席、私たち四人は扉のそばで立って乗っている。


「見て見てあおっち、絵になる女……」

「えっと……」


 扉に寄りかかり、超甘口の缶コーヒーを手にしながら窓の外をキメ顔で眺める雪野先輩。きっと大〇洋おおいずみようのモノマネなんだろうけど、ネタ的にはもう三十年以上前のもののはずだ。一応家族がその番組のDVDを全巻持っているから知ってるけれど、今時DVDって……


「っていうか雪野先輩、そのコーヒー甘すぎないですか?」

「え?コーヒーってこれくらい甘いものでしょ?」

「いやぁそれ砂糖何個も入ってるやつですよ?」

「え?てっきりこれが本来のコーヒー豆の味なのかと!?」


 ブラックコーヒーも飲んだことないの!?さすがにこの甘いコーヒーを本来の味と言う人には初めて会った。しかし私もブラックはあまり好きじゃない。微糖くらいがちょうどいいのだと、金色の缶コーヒーに口を付ける。


「お、あおっちも絵になる女だ」

「やかましいです」

「ちぇっあおっちがつまらない女になった」

「つまらなくて結構です」


 私が雪野先輩のアホに付き合っている間、なにやら楽しげに話している岸辺先輩と美雨。二人の手元を見ると、なにやらパンフレットのようなものがあった。


「それ、なんですか?」

「これ?札幌の有名店のたくさん載った冊子だよ」

「たまにはカニとか海老とか~、ちょっとお高いものも食べてみたいわね~」


 二人の手元を見ると、おいしそうな魚介類が火に炙られている写真や、お刺身にされている写真がびっしり、所狭しと載っている。確かに最近は節約もしっかりして、かなり部費も浮いたため多少の余裕はある。たまには贅沢するのもアリなのかもしれない。


「それなら、ある程度安値のお店知ってますから、あとで教えますよ?」

「ほんと!?葵ちゃんさっすが~」

「やっぱり、都会の人がいると助かるわ~」

「別に関係ないですよ、札幌程度の街ならすぐに慣れますから」

「あ、こっちは洋食店のページですよ、岸辺先輩」


 二人がそのページを開いたとき、思わず自分の実家の名前を探してしまう。でも街の中心から離れたところに位置する小さな飲食店など載っているはずもなく、小さなため息が出てしまう。


「葵ちゃんのお家の記事は載ってるかな?」

「無いわよ、ここに載るのはチェーン店があるような有名店ばっかり、個人経営が勝てるようなもんじゃないわ」

「あら~でもそのうち載ったりするかもね~」

「あはは、載りませんよ」


 それからしばらく、他愛もない話をしながらボーっとしていると列車のアナウンスが聞こえてる。ようやく到着だ。列車から降りた私たちは人の波に流されながら、階段を下りていく。しかし、電車を降りたところで違和感があった。何かが足りない。


「あら~?美雨ちゃんどこに行ったのかしら~?」

「え?はぐれたんですか!?」


 この人波の中を探さなきゃいけないのかぁ……とにかく変なところ行ってなきゃいいけど……

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