ダイエットなんて……です!

「こ、これは……」


 私は、部屋に届いた小包の中を見ながら苦々しい面持ちで口を付けたコップをキッチンに置いた。私が購入したダイエット製品のハードファイバー……粉末を飲み物に入れて溶かすだけで、味はしない……とか言ってたのに、コップの底にドロドロになった粉末が残ってるし……


※なお、本製品の本家イージーファイバーは味もしなければ、しっかりと粉末は溶けます。あくまでも架空の話のため実際の団体、製品とはなんの関係もありません。


「うぇ~喉に引っかかる~吐きそ……うっぷ……」


 ともかく、あれだけ啖呵たんかを切ったのだからこんな姿を見せるわけにはいかない。絶対に吐いてたまるものかぁ……


「やっほーあおっちー!……あら?」

「ゆ……雪野先輩……」


 こんな時に限ってこのアホはぁ……!くっ……私のプライドはこんなところじゃ折れないぞ……相手はアホだ。どうにでもなるはずだ!


「あおっち、顔青いよ?優愛っちに言ってきてお薬貰ってこようか?」

「け、結構です!それより先輩!今日は七輪でお魚焼くんですよね?買ってきた食材倉庫から持ってきてもらっていいですか!?」

「う、うん、わかったよ」


 私の迫真の演技を信用したのだろう。先輩を追い払うことに成功した。私たちかまくら部の共有の食材は、基本的に雪を入れていた倉庫にしまって冷やしている。あそこまでの距離ならたとえ戻ってきても五分は猶予がある。


「い、今のうちにこの口の中のザラザラヌルヌルをどうにか……」

「葵ちゃん、醤油貸してもらっていいかな?」

「ぬぁ!?」


 目と目が合う……美雨が空になった醤油瓶をもってこちらを見たまま硬直している。私は一瞬の油断と直後の緊張感で胃から食道を通って何かが逆流してくる。っていうか、冷静に分析してる場合じゃない!トイレ!!


 チーン……


「ぜぇ……ぜぇ……はぁぁぁぁ……」

「え、えっと大丈夫?」

「ぅぅ……みんなには内緒にして……」


 私、何か大切なものを失ったような気がする……楽なダイエットってないんだなぁ……どうせあれよ、テレビで見たことあるお腹がブルブルするやつとかも、あれだけじゃ痩せないんだろうなぁ……


「はっ……そうだ!わかった……」

「な、なにがわかったの?」

「ダイエットしようなんて考えたのが間違いだったのよ」

「え……あの葵ちゃん?」

「ということで美雨、アンタもダイエットなんて無駄だからやめときなさい」

「まだやってもいないのに!ひどい!」


 吹っ切れた私は色々と片づけを済ませて部屋を飛び出した。さぁ食べるぞー!今日はニシンの塩焼き!それも七輪を使った炭火焼き!うーんたまらん!


「それで~……諦めたのね~……」

「意外と早かったねー!三日坊主ならぬ一日坊主ってやつだねー!」

「でもいいんです、うまいから!」


 ニシンに醤油をかけて食べ、今度はレモンを絞って食べる。引き締まった身がホクホクでおいしい!


「そういえば、なんでダイエットなんて考えたの?」


 言われてみればそうだ……蘭を見てダイエットを決意したわけだけど、別に私太ってないわよね?……太ってないよね?


「あおっち、体重計には乗ったの?」

「うっ!?」


 の、乗ってない……私太ってないとは思うけれど、ここに来てからの一ヶ月、食べてばっかりだ……でもダイエットはもう嫌だ……よし……


「い、今は良いじゃないですか!とにかく食べましょ!焦げちゃうから!」

「あおっちごまかした」

「やかましいですよ」


 帰った私は、持ってきて以来お風呂場に封印していた体重計を取り出してきた。バスタオル一枚でお風呂上りに乗った……


「あれ……増えてる……」


 せめて買ってきたダイエット食品だけは使い切ってしまおうと、私は静かに一人決意したのであった……

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