温泉!です!

 今日は本当にツイてなかった……日直の仕事を忘れるわ、クリーナーを壊すわ、シャーペンの芯を切らすわ、昼ご飯は抜きなって……もう本当に厄日なんじゃないのかな……


「おーい葵、生きてる?」

「葵ちゃん?葵ちゃーん?」

「うん……でもなんだか、今温泉行ってもまた悪いこと起こるんじゃないかなってさ……」


 放課後、私たちはバスに乗って近くの温泉に日帰り入浴をしに来たところだ。しかしこの運の無さはここに来ても引きずりそうで怖い。でも部活の休みをいただいて……と言っても私と美雨は鍋の当番から外してもらっただけだけど、せっかくだからこの運の悪さも一緒に洗い流そう。


「おっきい旅館だね~」

「そうそう、ここのお風呂はすごい大きいんだよ」

「蘭は結構ここ来るの?」

「うん、小さいころから安いからちょくちょくね」


 私が言えた事じゃないけれど、あの学校は意外と町外からの入学者が多いから、誰がどこ出身とかあんまり気にならないけど、蘭はこの町出身なんだな。それにしてはこの辺出身の友達と仲良くしてるところを見ないな。


「あ、このバスだよ、乗ろう乗ろう」

「あ、蘭待ってよー」

「二人とも置いてかないで~!」


 蘭に続いて私と美雨もバスに乗り込む。ガラガラのバスの車内にはほんの少しの乗客、それもおばあさんばっかりだ。蘭が言うには若者にも人気の大浴場で、いつも多くのお客さんで賑わってるって話だけど、どうも信じがたくなってきた。


「よーし到着!二人とも降りるよ」

「え、ここ……!?」

「ここって……テレビでCMやってる……!?」


 オンボロ銭湯を想像していた私の頭から、そのイメージは一瞬で吹き飛んだ。オンボロなんてとんでもない、超高級旅館そのものだ。私たちなんて明かに場違いだ。


「ちょ、ちょっと蘭!ここが日帰り700円って本当なの!?」

「うん本当だよ、そこの券売機で入浴券買おう」


 旅館の玄関に入ると、すぐ左側に券売機が置かれている。日帰り温泉入浴、一名様700円……嘘じゃなかった……でも実は入ってみたらボロボロだって可能性もある!……私なんで必死になってんだろ……綺麗に越したことないのに、どこで何に張り合ってんだか……


「うっわー!すっごいおっきいー!!」


 衣服を脱いでタオルで胸元から隠した私は、温泉の扉を開けるなりガラにもなく大きな声を出してしまった。パッと見ただけで目に入るお風呂の数は六つ、露天風呂もあるしシャワーは同時に三十人以上は使える。この硫黄の香りや石で出来た床のザラザラ感が心地いい。


「さぁ、お湯だけかぶって!さっさと入ろう!」

「葵ちゃん、私あのブクブク泡立ってるお風呂入ってくるね!」

「行ってらー、蘭、オススメはどれかな?」

「特にない!全部がオススメ!」

「そう?じゃあ私はここに……」

「あ、ちょっと待って!」


 私は蘭が制止するより前に、その湯舟に足を突っ込んだ。そして、全身に伝わる衝撃に飛び上がった。


「ぎゃああ!あっっつ!!」

「そこ……確か45度とかだった気がする」

「先に言ってよ~……」

「言おうとしたよ……」


 変な汗をかいた私は、もう一度頭からお湯をかぶってサッパリする。すると湯気の向こうで手を振ってる美雨の姿があった。


「おーい!こっちは入りやすいよ~!」


 三人で丸い形をした湯舟を真ん中を囲うように入って、中央から湧き出るブクブク……いわゆるジャグジーのブクブクを楽しみながらまったりする。


「ああ~気持ちいい……」

「葵ちゃん、まるでおじさんだよ~」

「失礼ね~アンタこそ、どうやったらそんなに胸がデカくなるのよ」

「脂肪だよ!お腹にもお肉乗ってるのわかってて言ってるでしょ!」


 おお、よく見ると本当だー……知ってたけど。それにしても、全身の疲れが取れるわ~……これからは定期的に通うことにしよう……


「あ~今日が厄日だったことを忘れるくらい良いなぁ~これは今晩の鍋も楽しみだぁ~……」

「そっかぁ、かまくら部だもんね、私も鍋食べたいなぁ」

「じゃあ一緒に食べる?一人くらい増えたって大丈夫でしょ」

「でも明日も学校だよ?」

「私の部屋に泊まっていきなさいよ」

「じゃあ行く!温泉出たらすぐに行こう!」


 今日の鍋は、いつもより少しだけ賑やかになりそうだ……いや、あの賑やかさに何かプラスされたらうるさいになるのではないだろうか?ま、いいか……

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