テレビを見ながら!です!
いつもと同じように囲む鍋。だが今日はいつもより少し賑やかな明かりと声がかまくらの中に響いていた。
「なんか変な気分、雪の中でテレビ見てるなんて」
「賑やかだねー!」
私たちはかまくらを少しだけ改造して、中にテレビ用の台を設置。ゴールデンタイムのお笑いトークショーが小さな画面で流れている。いつもなら中央の鍋を囲うようにして座っているけれど、今日は四人で肩を寄せ合ってテレビを見ながら食べている。
「それにしても鍋がうまいとテレビも一層うまくなりますね!」
「私もここまで届く電波のを買ってよかったよ!」
「はぁ~今日は私が鍋当番か~」
「華ちゃ~ん、華ちゃんがあんまり駄々こねるから週に一回なのよ~」
シュンとしながらも鍋に野菜を入れていく雪野先輩。一応私たちも鍋の面倒はみるようにしているが、毎日その日の主となる担当を決めるようにしている。私たちは基本的に週に二回だけれど、雪野先輩は一回だ。
「あ、もう九時……私観たいお笑いショーあるからチャンネル変えるね」
私がテレビのチャンネルボタンを押したその時、私の肩を後ろから誰かが掴んだ。
「待って葵ちゃん、私はこのあと映画観たいんだけど……」
「なによ美雨、どうせネットで探せばあるやつでしょ?こっちは今しか観れないんだから……」
「何言ってるの葵ちゃん、リアルタイムで観ることに意義があるんだよ……」
まったく何を言っているんだと、構わずチャンネルを変えると、すかさず美雨もチャンネルボタンを押し込む。私も美雨の指を力づくでどけてボタンを押す。
「葵ちゃん……邪魔しないでもらえるかな……」
「それはこっちのセリフよ……」
「言っても聞かないなら……」
「力ずくで……」
「二人とも~~」
さぁこれから戦争だ。などと臨戦態勢に入っていた私たちは、その穏やかながらもドスの効いた声に硬直した。おそらくこの構図はきっとあれだ、蛇に睨まれた蛙というやつなのだろうか。
「私のテレビよね~じゃあ選択権は私にもらえないかしら~」
「くっ……なら是非とも映画を!」
「何言ってるのよお笑いよ!」
「スキャンダル番組入れてね~」
……スキャンダル番組?あの週刊誌の情報やらそれっぽい内容をなんか垂れ流したりタレントが批評したりしているあの?岸辺先輩そんなの観てたんだ……
「あー鍋がうまいなぁ~」
「雪野先輩の鍋って食べごたえあるよね、なんでかな?」
「そりゃ美雨、こんだけ野菜を大きめに切ってれば食べてる!って感じするでしょ」
「ああ~男切りってやつね~」
「私は女だー!」
テレビではドロドロの浮気からの修羅場などが語られているが、こっちでは雪野先輩の叫び声でドロドロなんて言葉なんて吹き飛ばさんとする程に空気が明るい。
「そういえば来週はゴールデンウィークだよね?みんな予定あるの?」
「雪野先輩からそんなこと聞いてくるなんて珍しいですね、私は無いです」
「もう、葵ちゃん失礼だよ、私もないです」
「もちろん私もないわよ~」
「じゃあさ!みんなで泊りがけで遊び行こうよ!」
雪野先輩にしてはかなり名案だ。この山の上に五日間もいるなんてさすがに時間がもったいない。どうせなら時間のある時に遊びに行きたい。
「あ~私行きたいところあるわ~」
「はい採用!それでどこなの?」
「いやいや内容聞いてから採用しましょうよ!」
雪野先輩は冴えてると思った直後に自分で株を下げてくれてしまう。一部から見たらすごいことをしても残念な人に落ち着くんだろうなぁとか、かなり失礼なことを考えてしまう。
「私ね~葵ちゃんの実家のレストランに~行きたいな~って思ってるの~」
「……はい?」
今聞き捨てならないことが聞こえてきた……私の家のレストランといった?うそでしょ?
「い、いやいやいやいやそれはダメですよ!絶対ダメですよ!」
「いいじゃな~い、私はただ~おいしい料理を食べたいだけなんだから~」
「もう採用って言っちゃったもんねー!ということで、来週のゴールデンウィークはあおっちの家に突撃するよー!」
「い~や~だああああああ!!」
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