カラオケ!です!

「イエェーーイ!歌いまくるぞー!」


 カラオケボックスに入った私たちだったが席に着くなり、雪野先輩はマイクを手に取ってモニターの前を陣取る。


「華ちゃ~ん、まだ曲入れてないわよ~」

「あ、そうだった、」


 マイクを握ったまま席に座る雪野先輩。まさかとは思うけれど、二本しかないマイクを独り占めはしないよね?心配しつつもそれぞれジュースを頼んでいると、なぜか選曲用のタッチパネルが私の方に受け渡される。


「あ、あの……?」

「一番は~言い出しっぺの葵ちゃんからよ~」

「言い出しっぺは岸辺先輩ですよ!?……まぁいいですけど」


 とりあえず私は一曲入れて歌う。ついこの間観た人気映画の主題歌だ。それなりに盛り上がる曲だし、ここら辺なら外すこともないだろう。


「フー!いいねいいねー!ラスサビもっと盛り上げちゃうよー!」

「雪野先輩……よーし盛り上げましょう!」

「失礼しまーす、ドリンクお持ちしましたー」

「……」


 なんで、最後の盛り上がりで乱入してくるかな……店員さん、たまには空気読んでくれないかな?なんだか私が歌うと、いつも店員が乱入してくるような気がするんだけど……考えすぎかな?


「いやーいい曲だったねー!次は私がいっちゃうよー!」

「あ、このピザおいしそう!ねぇ葵ちゃん、一緒に食べようよ!」

「良いね!私はこっちのたこ焼き頼もうかな」


 私が注文の電話をしている最中に先輩の歌が始まる。先輩の声量は私とは比にならないほど大きく、電話の音が聞こえなくなった私は受話器を握ったまま廊下に出た。すると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。


「はい、じゃあお願いします……あのー桜川先生ー」

「ギクッ」


 今、ギクッって言った?それって驚いたときの効果音じゃなくて口で言うものだったの?それはそうと、こんな大きなカラオケボックスに一人で来てるのか?ドリンクバーは無いし、トイレの通路はこの道を通らない方が早い。


「あ、ちょっと!」


 先生はわき目も振らずに猛ダッシュでいなくなってしまった。一人カラオケ……最近流行ってるって聞いたけど、こんなところで見かけるとは……私はみんなでワイワイの方が楽しいけど、案外一人も楽しいのかな?今度やってみよっ!


***


 その頃……別室では……


「ぁぁあああ!!見られた~!独りぼっちでカラオケしてるの見られたぁぁぁ!寂しい女だと思われるぅ~!」


 一人悶え苦しんでいる女教師がいたとか……


***


「つ、次私ですか!?」

「もちっ!美雨っちも~歌える歌でいいから歌おうよ!」

「そ、それじゃぁ~……」


 美雨が入れたのは最近ハマっているアニソンらしい。そのあと美雨は何曲か歌ったけれど、アニソンって良い曲多いんだなぁ、ちょっと偏見持ってたかもだけど、今度美雨に頼んで色々聞いてみよう。


「それじゃあ次は……岸辺先輩、お願いします!」

「え、ええ~じゃあ……」


 流れてきたのは穏やかなメロディー。というか、すごい昭和っぽいというか……歌唱ショーで聞いたことがあるような……あれ、もしかしてこれ……


「このコブシの効いた歌声……」

「まさかこれは……」

「演歌!?」


 先輩の歌は盛り上がるというよりは、力強くも儚く、美しいと感じるような美声。さぁ、間奏が終わって最後のサビだ!


「失礼しまーす、マルゲリータピザにたこ焼きでございます」

「あ……」


 先輩の歌が、止まった……私たちの声も止まった……ピザとたこ焼きを持ってきたスタッフさんが申し訳なさそうに部屋から出ていく。先輩……先輩もなんんですね……


「もういっかい……」

「へ?」

「もう一回!サビから歌わせて~!」

「よしきた!入力完了ー!!」


 ここにきてアンコール!私もどんどんテンション上がってきた!


「今日は最後までぶっ飛ばすぞー!」

「「「おおー!!」」」



 それから三時間後、私たちは帰りのバスから降りてアパートに向かう坂道を歩きだす。ついこの間までは午後五時となると既に真っ暗だったのに、今じゃまだ夕日が町を照らしてる。


「よーし!やっぱりこんな日のシメと言ったら!」

「かまくら鍋ですよ!」

「その通り~!今日は~寄せ鍋よ~!」


 帰ろう!もつ鍋が待ってる!

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