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 四月最後の日曜日。私は美雨に連れられて私たちの住む街、北海道のほぼ中心に位置する街に出てきている。一番近い街でもバスで一時間もかかるのは近いのか遠いのか。北海道の規模を考えると、距離感覚が狂う。


「じゃあ私、ネット関係のとこにいるから!終わったらメールするから!」

「あ、ちょっと!!」


 とりあえず一番大きい家電量販店に入った私たち四人だけれど。入るなりすぐに美雨は、速足でエスカレーターで二階に上がっていく。


「なんだか……置いてかれましたね」

「じゃあ~私たちも色々見て回りましょうか~」

「おー!私こういうお店大好きー!」

「ああちょっと!」


 私と岸辺先輩がゆっくり回ろうと言っているのに、雪野先輩は私たちの手を掴んで走り出そうとする。私が雪野先輩の力で数歩前によろめいたが、岸辺先輩はビクともしない。


「華ちゃ~ん……」

「ひぅ!?」

「お店に迷惑かけるような真似は~しちゃだめよ~……」

「ごめんなさいごめんなさい!もうしませんから助けてください!」

「別にどうにかするなんて言ってないのに~失礼しちゃうわ~」


 いや、あの陰の落ちた瞳で何言ったって誰も信じませんよ。と、気を取り直して店内を散策……私の部屋にほしいもの、それは何を隠そうコタツだ。これから夏だというのにおかしいとは思うけれど、これは仕方がない。あの山は雪が解けるのは八月だけだという。しかもたとえ解けたとしても気温は10度を越えないらしい。そんな場所に今までコンクリートに囲まれていた私が、変わらない夏を迎えたらいつか死ぬ、というかもう部屋ではちょこちょこ死にかけている。


「はぁ、コタツのスペース小さいな~……」

「そりゃ夏場にコタツが欲しい人なんていないもんね!」

「そんなことわかってますよ、ぶっちゃけ置いてないの覚悟していたくらいですから」


 私は店員のお兄さんを呼んで、コタツを運んでもらった。次はこたつ布団を選ぼう、こっちはどうやらある程度は種類があるみたいだから選びがいがある。


「ねぇねぇあおっち!このピンクのやつとかどうかな!?」

「華ちゃ~ん、そんな濃いピンクじゃ落ち着かないわよ~」

「でもゆあっちが持ってるその黄色いのも落ち着かないよ!」

「あ、あのー選んでくれるのは嬉しいんだけど、私はこれを買うつもりなんですけど……」


 そういって私が紺色の布団毛布を指さすと、二人は猛スピードで私に駆け寄ってきた。


「ダメだよこんな地味なの!もっとかわいいのじゃないと!」

「そうよ~!もっと明るくなれる色にしないとダメよ~!」

「そ、そう言われましても……」


 なぜか必死の形相ぎょうそうの二人、私の部屋のことなんだから、そんなに我を通す必要なんてないんじゃ……


「もうお二人とも自分が使うわけじゃないんだから……あ……」


 そうか、ここで自分で言っていて気が付いた。この人たちはおそらく、私の部屋のコタツをかなりの頻度で使おうと企んでいるんだ。だから自分が気に入るように必死になっているんだ。ならなおさら二人の意見を通すのは釈然 《しゃくぜん》としない。


「い、嫌ですよ!私の部屋は溜まり場にはさせないですからね!」

「いやいやそんなことしないよー」

「そうよ~ちょっと眠れない夜にお邪魔するだけで~」

「こらゆあっち!」

「あら口が滑ったわ~」


 やっぱり……しかも眠れない夜にってことは、私が寝ているときにズカズカ私の部屋に入るつもりなのか……やっぱりこの二人の好みに合わせるわけにはいかない。


「絶対ダメですからね!この落ち着いた色のコタツ布団にするんですから!」

「ええ~!」

「ぶーぶー!」

「なんと言われても聞きませんからね!すみませーん店員さんこれお願いしまーす!」


 さて、これで私の買い物は済んだわ。先輩たちは何か買うのかな?と、先輩方の後ろからついて行くと、大型家電のコーナーへ。しかしなぜか雪野先輩は業務用のコピー機の前で立ち止まった。


「あの、そんなもの何につかうんですか?」

「わたしの新作漫画の原稿をだねぇ……!」

「華ちゃん、あなた漫画なんて描いてないでしょ~」

「い、言ってみたかったんだもん!言わせてよ!」


 呆れた……まったくこの先輩は時々……いやいつも変なことを言う。そんな雪野先輩を放置して岸辺先輩について行くと、彼女はなにか小さな箱のようなものを手に取っている。


「岸辺先輩、それなんですか?」

「ポータブルテレビよ~」

「それ、あそこで電波届くんですか?」

「えっと~3G?とかいうので繋ぐらしいから、大丈夫よ~きっと」

「あの先輩、それ毎月通信料かかるやつです……」

「ええ~そうなの~?残念だわ~」


 あ、危うくエライことになるところだった……とにかくこれ以上先輩方を放置したら、何が起こるかわかったもんじゃない。ここは私が手綱を握らないといけない。


「あ~それならこっちでどうですか先輩」

「え?ああ~美雨ちゃん、これって?」


 私が一大決心をした直後に、買い物を終えたのか紙袋を手に下げた美雨が、一台のポータブルテレビをもってやってきた。


「美雨、買い物は済んだみたいね……で、それはなんなのよ?」

「Wi-Fiで繋ぐタイプだよ、私の買った史上最強のルーターならかまくらまで電波が届くし、それで解決だよ」

「え、いいの?お金払ってるのアナタでしょ?」

「いいのいいの、一人で使うには持て余すレベルなの、でもゲームするのに一番良いやつだし……ってことでね」


 つまりついでにってことなのかな?岸辺先輩は美雨に勧められたポータブルテレビを購入し、私たちはお店を出た。私のコタツ達は宅配便で明日の夕方に届く。あそこに宅配便が届くかはちょっと心配だけれど、まぁ大丈夫でしょ。


「よーし!それじゃあ次はカラオケに向かって、レッツゴー!!」

「「「おおー!」」」

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