新トマト鍋!です!

 ついにこの時が来ました。私の進化したトマト鍋を披露する時がようやく来ました!岸辺先輩の熱心な指導のおかげで私もまた上達できただろう。しかし今はとにかく、この鍋を食べてもらうことだ。


「さぁ雪野先輩!食べてください!」

「うーんとー……じゃあいただきまーす!」


 私の作ったトマト鍋の肉団子を雪野先輩が頬張る。しばらく噛んでいると、雪野先輩の口角こうかくが少しずつ上がっていく。これは間違いなく、勝った!……ってあれ?なにと戦ってんだろ私……


「んまぁい!これ前とは全然違うよ!素材の味を調味料がうまく引き出してるよー!」

「あら~華ちゃ~ん、そんな感想なんて言えたの~?」

「い、言えるよ!失礼だなぁもうー!」

「よかった……ほら、美雨も食べてみて」

「うん!ありがとう葵ちゃん!」


 自身を取り戻した私は美雨の小皿に鍋の具材を盛っていく。私としては、もう少しトマトを前面に押し出してもいいと良いとは思うけれど、まずいまずいと言われるくらいならそこは譲歩じょうほしよう。


「それにしてもこっちのハンバーグは超うまいなぁ!澄川、もう一個頼む」

「はーい」

「葵ちゃんってトマト以外の料理はすごい上手なんだね……昔から料理してたの?」

「それはね……」


 私が札幌の洋食店の娘で、昔から料理をしていたのを話すと、みんな目をまんまるにして驚いていた。特に雪野先輩が一番オーバーだ。札幌なんて田舎のレストランなんて全然すごくないのに。


「それなのにあんな残念なトマト鍋を作ったの……?」

「ちょっと雪野先輩!」

「もう~やめてくださいよ雪野先輩」


 料理がかけらも出来ないのに食材を粗末にするような人には絶対に言われたくない!しかしここで怒るのはさすがに大人げないってもの。ここは大人の対応だ。


「いやぁでもこっちのロールキャベツはおいしいよー!やっぱり都会は違うねー!」

「都会ってどこがですか?」

「どこって、札幌に決まってるじゃーん」

「と、都会じゃないですよ札幌なんて!」


 まったく何を言っているのだか、札幌なんて東京に比べたら目も当てられないド田舎だというのに、ビルだって低いし地下だって札幌駅からすすきの方面にしかない。私のレストランだって、札幌の中心街からはかなり遠い場所だし。


「葵ちゃん!札幌は都会だよ!私なんて道東の端っこで商店街がいまだに普通に賑わってデパートなんて来る気配すらないんだからね!」

「良い町じゃない!地域の人の温かみのある町、最高じゃない!」

「最高じゃないよ!通販で買ったものは届くのに五日もかかるし!ネットは有線なのに遅いし!BSなんて業者がアンテナつけに来てくれないんだよ!」


 美雨、地元disりもほどほどにね……でもネット別にここでも繋がらなかったはず……それはあんまり気にしてないのかな?



「ねぇ美雨ちゃ~ん、そういえば先週あなたの部屋で何か工事していたみたいだけど~なにしてたの?」

「はい!ネットの回線引きました!BSも!CSも!あ、そうだ!今週末街に出てWi-Fiのルーター買いに行くんです!」

「そ、そうなの~……」


 岸辺先輩もたじたじだ……美雨ってネットとか使えるんだ。私はスマホの機能最低限使える程度だし、パソコンなんて持ってすらいない。


「そんなにネット繋いでなにすることあるの?」

「アニメを観るために決まってるよ!今まで見れなかった深夜アニメとかのチェックもするには充実したネット環境が必須なの!」

「あー私もちっちゃい頃見たな~プリキュアとかぁ魔法少女ものとか!」

「見るよね!女の子なら誰しも通る道だよね!」


 トマト鍋を頬張りながら、やや興奮気味に語る美雨。もしかして美雨ってちょっとオタクなのかなー?その後も延々と最近のアニメについてレクチャーされるけど、ほとんどついて行けない……


「そーだ!葵ちゃん、私いいこと思いついた!」

「み、美雨……あのさ、私なんだか嫌な予感がするんだけど……」

「週末の買い出し、一緒に行こうよ!」


 ほら、嫌な予感的中……私そういうのわかんないのにぃ……というか最近は毎週末忙しいなぁ……そういえばカラオケにも行くんだった。


「そうだ岸辺先輩、カラオケはいつ行きましょうか?」

「そうね~でもそっち優先でいいわよ~」

「あ、それなら帰りにみんなで行きませんか?私も行きたいし!」

「じゃーみんなで行こー!!」


 あれ、なんだかよくわかんないけど、今週末に全部押し込まれた。それに全員で行くことになったようだ。電化製品……なにか必要なものあったか確かめとこ……

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