料理指導?なのかしらね~?
「あらあら~これは予想外ね~」
私、岸辺優愛は今日はここ澄川葵ちゃんの部屋に来ていま~す。でもまさかこんなことがあるなんて想像もしてなかったわ~……葵ちゃん、トマト料理以外なら基本的に料理は上手なのね~……ちゃんと味付けもしているし~、このハンバーグなんてとってもおいしいわ~
「あの岸辺先輩、ダメなところを言ってくれないと練習にならないんですけど……」
「いや~その~葵ちゃん料理経験は~?」
「えっと、小さいころからほぼ毎日やってました」
葵ちゃんの部屋で料理の練習を見てあげているんだけど~……確かにこじんまりとした台所には一通りの調理器具が揃っている。それなりに使い込んだのも見ればわかるわ。
「葵ちゃんのおうちって何をやっているの?」
「私の家はちっちゃいレストランを経営していて、夕食時はお母さん仕事だったから、それで料理はするんです」
「まぁ~苦労してたのね~」
「いえ、楽しいですから、えへへ」
楽しい。そういうと彼女は私の方を向いて満面の笑みを見せる。きっとこの子は本当に料理が好きなんだ。そういえばここに来た当初から、食事中はなんだか少し考えたような表情になることが多いけれど、わりと味にはうるさいのかしら?
「レストランって何料理店なのかしら~?」
「洋食ですよ、これでも札幌じゃ結構有名なところなんですよ」
そんな子を自堕落部の呼称がつけられてしまっているかまくら部に呼んでよかったのかしら?って一瞬考えちゃうけれど、関係ないわよね~本人の意思で入ったんだから~。
「はい、ロールキャベツ完成、ここの麓の畑で作られたキャベツっておいしいですよね、この雪の寒さで身がしっかり引き締められているんですよね」
「そうなの~?私は生まれも育ちもこの町だから他のは食べたことないのよね~」
この山のそばの家で生まれて、それからこの学園に入るまでは中心街の方にいたから、この街の事ならなんでも知ってる。でも私は他の街のこととかは本当にうといから色々教えてほしいわね~。
「ねぇ葵ちゃん、私札幌は中学の修学旅行で行ったきりなの~あそこってなにか面白いものはあるの~?」
「面白いものですか?なにかあったかな?」
「ほら~、放課後にお友達と遊びに行った場所とか~」
「ああ、それならゲーセンとかボウリングとか」
ま、まずいわ、私の住んでる街は中心街は栄えてるけど、近隣は過疎地なのよ。つまりゲームセンターもボウリングも行ったことないのよ。このままじゃ会話についていけない、私も知ってる共通のものを見つけないと……
「あ、それとカラオケ!カラオケはいつも行ってたなぁ」
「カラオケ!」
「どぇ!?いきなりどうしたんですか?」
これだわ、カラオケならこの街にもある。私も小さいときに何度かお母さんと一緒に行った事があるわ。
「ねぇ今度みんなでカラオケ行かない?」
「あ、いいですね、行きましょう行きましょう、でも今は料理の練習ですよ!」
「そ、そうね~」
ど、どうしましょう~………トマト料理以外はどう考えても私より上手だわ~……かと言ってトマト料理の時の彼女はなんだか目が怖いし………でもやらなきゃダメよね。
「わかったわ……トマト料理を作りましょう」
「遂にですか」
遂にも何もないのよ~そもそもあなたの実力的には、既に免許皆伝どころか私が弟子入りしたいくらいうまいんだから~……今度本当に料理教えてもらおうかしら……
「とにかくおいしいトマト鍋の作り方、教えてくださいね!」
「え、ええ~もちろんよ~」
ああ、この子は完全に私の方が料理上手だって勘違いしているんだわ。それならしばらく私の方が上手だってことにしておいて、自分で気付かせるのが一番柔らかい対応かしら?
「じゃあまずお野菜とかはいつも通りに用意していってね~味付けの段階だけ、詳しく教えるから~」
「わかりました!」
そうして手早く下ごしらえを済ました葵ちゃんは味付けのところを私が指導する。完成した鍋の味見をする。案の定おいしい鍋が完成していた。教えたからって下手な人なら分量とか計るのも時間がかかるのに、慣れた手つきでやるものだから本当に立つ瀬がなくなってきたわ。
「よーし!じゃあ雪野先輩にリベンジするぞー!」
「お、おお~……」
うん、華ちゃんと美雨ちゃん、それに柳先生には事情を先に話しておこうかしらね……
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