圧倒的!です!
山本先輩に強引に誘われた雪合戦大会当日、私は四番のゼッケンをつけて雪の上に立っていた。素人の私が言うのもなんだけど、この状況は間違いなくイカれている。結局メンバーは集まらず、雪合戦部の三人と私の四人だけ……それに対して他のチームは七人だ。どう考えても戦力差でボコボコにされるのは目に見えていた。なのに……
「よーし二回戦突破ー!」
「なんじゃこりゃ……」
私の出番、まるでない。梨湖先輩こと
「あと二回勝てば優勝なんですか?」
「そうだけど、あなたよく雪玉避けれるよね」
「あはは……なんででしょうね~」
鉄穴先輩の問いに正直理由はわかっているけれど答えたくないから適当にごまかす。誰が二人に全部集中してるから狙われもしないなんて言えるものか。すると隣から異常な熱気が防寒着越しに伝わってきた。
「オッス!自分も全然狙われないから当たってないっすよ!」
「わ、わかった、わかったから離れて亜紀ちゃん」
私の隣で熱気を放っているのは私と同じ一年生で新入部員の
「あなた寒くないの?」
「はっはっは!冗談キツイなぁ寒いわけないっすよ」
どうやら別次元の人みたいだ。きっと寒いという言葉自体がこの子の辞書には存在しないんだろうな。この子がもしかまくらに入ってきた時のことを想像すると恐怖しか湧いてこない
「よし、次の準決勝は身内対決だね」
「あ、スキー部だったわね、葵ちゃんが焚きつけた」
「言わないでくださぁい!!」
そう、私が誘った蘭たちのスキー部チームは、あろうことか準決勝まで這い上がってきていたのであった。さすがスキーだけは強い山頂学園、普通に運動神経抜群な人がたくさんいるんだろう。
「それで、次は私たちどうしたらいいですか?」
「うーん、特になんもしなくていいよ」
「私たちに任せておいて」
なんだろう、普段の見た目小学生とヒステリック貧乳からは考えられない頼もしさを感じる。とにかく蘭には負けたくないから頑張ろう。
「蘭、負けないからね」
「葵こそ、首洗って待ってな」
別にライバルでもなければ本気でやってるわけでもないのに何を言ってるのやら、言ってて恥ずかしくなってきた。蘭も同じ心境なのか顔が真っ赤になっている。でも雰囲気は大事にしよう、それっぽくやった方が楽しそうだし。
「よし!じゃあ行くよ!」
そして試合が始まり、山本先輩が叫びながら敵陣に突撃していく。普通に考えたら自殺行為だけれども、彼女は滑りやすい地面の上をスライディングや横っ飛びで回避し、敵陣の
「芽衣ちゃん!ゴーだ!」
「了解梨湖!」
既に鉄穴先輩の雪玉により三人がリタイア、四人になったうちの三人が山本先輩に向かって雪玉で弾幕を張るが、それをも機敏に避け続ける。
「くらえ葵!」
「ってうわ!!?」
と、山本先輩に夢中になっていた私の目の前に、突然蘭が現れた。彼女の投げた雪玉を仰向けに転ぶように回避した私は、地面に用意しておいた雪玉を
「ぁいたっ!!」
「冷たっ!!」
相打ち……私たちはお互いにここで脱落した。しかし試合は私以外は生存しての圧勝、その後の決勝戦も見事に勝利して山本先輩率いる雪合戦部は優勝を果たした。
「それにしても、あっけないわね」
「そうだね、さすが山本先輩と鉄穴先輩だよね」
大会が終わった後、私は麓寮の蘭の部屋に来ていた。雪合戦部の顧問の先生がアパートまで車を出してくれるというので、それまでの間にシャワーや晩御飯をいただいた。もちろん晩御飯代は寮監さんに支払ったよ。
「さすがって、あの二人って有名なの?」
「あれ、葵ちゃん知らないんだ、あの二人の事」
「知らないわよ、妙にウチの部の部長に因縁つけてる小学生と、巨乳の同級生に嫉妬してヒステリックになってる貧乳以外は」
「ひどい認識……あの二人はね、もう色んな会社からスカウトされるような凄腕プレイヤーなんだよ」
今聞き捨てならない言葉を聞いたような気がする。スカウト?いろんな会社が?あの二人を?
「……へっ」
「あー信じてない、雪合戦のチームがある企業で取り合いになってるくらいなのに」
「え~信じられないな」
私が半信半疑でいると、狭い部屋の扉が小さくコンコンとノックされる。扉を開けて顔をのぞかせたのは雪合戦部の顧問の
「桃ちゃん先生やっときた~」
「もう!桃ちゃん先生じゃなくて、桜川先生って呼んでください!」
「はいはいわかったよ桜ちゃん先生」
「もう!!」
見ての通りのいじられまくりな先生だ。私と美雨、蘭のいるクラスの担任で今年初めて担任を持つ若手教師で美人さんということもあり、みんなに可愛がられている。蘭と別れてから車の助手席に乗り込んだ私は、例の事を聞いてみた。
「あの、山本先輩と鉄穴先輩が色んな企業からスカウトされているのって本当ですか?」
「本当だよ、二人ともすごいんですよ」
「それは、この先も心配事が無くていいですね」
「でも、二人とも全部蹴るんだってさ」
「は!?」
全部蹴るってスカウトしてきた企業を全部!?こんなにおいしいことなんて滅多にない上に、二人が雪合戦を楽しそうにしているのも今日でわかったからなおさら理解できない。
「大学に行きたいんだってさ、二人そろってね」
「大学……ですか」
大学なんてまだ高校に入って一ヶ月程度の私には想像もつかない。でも先輩たちも段々そういうことを考えるのかな。そんなことを考えているうちにアパートに到着すると、みんなが待っていてくれた。今はとりあえず、難しいことを考えるのはやめて、鍋を囲もう。
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