雪合戦!?です!

「雪野華ー!」

「うわ!山本先輩!?」


 朝、学校に行く前にかまくらでマシュマロを焼いて食べていると、突然かまくらの中に突撃してきた小学生山本先輩。しかし雪野先輩は既に校舎の中で日直として先生にこき使われているはずだ。


「雪野華は?」

「日直ですよ」

「あー……で、何食べてるの?」

「焼きマシュマロです」


 今明らかに山本先輩の口元から、ジュルリという音が聞こえた。彼女の視線は七輪の上で串に刺されて焼かれているマシュマロだけに注がれている。


「あの、食べます?」

「いいの!?やったぁ!」


 私が一本差し出すと、すぐに手に取って一口で全部口に含む。山本先輩は串を咥えたまま頬を赤く染めて幸せそうな顔をしている。この幸せをわかってくれるんだね。私ももう一つ口に放り込んでこの幸せに浸る。


「それで、雪野先輩がどうかしたんですか?」

「それがね、今度の雪合戦の練習試合の助っ人に出てくれって言ってるのに逃げるのよ」

「大会でもあるんですか?」

「そう、麓寮の近くのグラウンドで毎年四月に試合をしているの」


 麓寮の近くのグラウンドと言えば、寮から道路を挟んだ先の駐車場に隣接した大きなグラウンドがあった。それに雪もいまだに大量に積もっている。しかし麓寮付近はさすがに夏場は雪がなくなるから、雪解け前最後の大会になるということだ。


「人数足りないんですか?」

「うん、新入生入れても四人足りなんだ、七人必要だから」


 あと四人……かまくら部全員出れば人数は足りる……でも雪合戦なんて本気でやったことないし、美雨は運動神経悪いし、うん、ないな。


「そうだ!確か澄川葵だったよね!一緒に雪合戦やらない!?」


 あーこれは、最悪だ。この状況で断るのは流石に人でなしもいいところじゃないか、いつもダラダラしているだけのかまくら部なのに暇じゃないなんて言えないし。


「じゃ、今週末だからよろしくー!」

「あ、ちょっと……!」


 私に言うだけ言って、山本先輩はかまくらから出て行ってしまう。後を追おうと外に出たけれど、もうその背中は見えない。この薄く氷が張っていて滑りそうな道を全力ダッシュできるなんて信じられない。そしてのんきにしていた私の耳に聞こえてはいけない音が聞こえてきた。キーンコーンカーンコーン……


「あ……遅刻だ……って言ってる場合か!」


 私もひったくるようにカバンを持って教室に向かった。数分後私が先生にこっぴどく怒られたのと、朝から七輪の臭いが服についていたせいで生徒指導室に呼び出されたのは、語るまでもない。あぁ……今週末もダラダラかまくらで過ごす予定だったのに……


「おーい、生きてるー?」

「死んでるぅ……」

「そっか、南無南無」


 机に突っ伏している私に声をかけてきたのは同じクラスでスキー部の浅田蘭あさだらんだ。今日もトレードマークのポニーテールをユラユラ揺らしながら首をかしげている。


「そういえば蘭、あなたってスキー部だよね?」

「そうだよ、まだまだへっぽこだけど、日々精進中!なんちゃって」


 少し舌を出しながらのウインクはやる人がやると本当にかわいらしいんだなって、この子を見ているとよく感じる。入学以来しょっちゅう告白とかもされているみたいだし、私は一人もないどころか、男子から声もかけてもらえないのに。っと、話が脱線するところだった。


「でも運動神経はかなりいいよね?」

「うーん自分で言うのも変だけど、そこらの男子には負けないかな」

「じゃあさ、雪合戦は好き?」

「え、雪合戦?そりゃ好きだよ、楽しいし」


 きた!これはチャンスだ!運動神経が良くて、なおかつそれなりに気心の知れた人がいたら強引にメンバー入りさせられた雪合戦も楽しくなるかもしれない!


「あのさ、今度雪合戦部の助っ人に呼ばれちゃったんだけど……一緒にどう?」

「おーいいねやりたいね!」

「本当!?やったぁ!」


 これで少しはマシな雪合戦になりそうだ。しかし彼女は小さく「あ」と呟くと後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべる。


「でももしかしたら部活でなんかあるかもだから一応先輩に聞いとくね」

「あーそりゃそうだよね、わかったよー」


 ……もうこのパターンは読めてる。おそらく部活の先輩に止められてこちらにはこれないだろう。かといって帰宅部に仲の良い友達なんていないし、体力面なら男子に声をかけるべきなんだろうけど変な勘違いされたくないし……ってあれ、なんか変じゃないかな、この状況。



「そりゃ変だろ」

「やっぱりですか!?」


 放課後かまくらで先生に相談すると、タバコの煙をボーっと見つめてテキトーに返された。でも聞いて即答されたってことはテキトーに考えても変なんだ。


「それにしても、どうしてお前が雪合戦部の勧誘なんてしてるんだよ、たかが助っ人くらいで」

「だって……少しくらい気心の知れた人がいないと肩身狭いじゃないですかぁ」

「ははっあの小学生モドキのとこなら心配いらねぇよ」

「そうは言っても……」

「騙されたと思って、思い切っていってこい!」

「うぅ……」


 こうなったら腹をくくるしかない。きっと蘭はダメだろうし、私一人だけだけど、なんとか頑張ってみよう。


 腹をくくった私は教室に戻ると、蘭がダッシュで廊下から私の席まで向かってきた。すごい量の汗を流しているところを見ると相当な距離を走ったのがわかった。


「ご、ごめん葵!」


 ほらやっぱり、でも想像できていた分ダメージは小さい。軽く深呼吸をしてから蘭の話を聞こうか。


「やっぱり無理だった?」

「そうじゃないの!雪合戦には出ることになったの……」


 そうじゃない?雪合戦には出ることになった?まだ私の勧誘だけなのに勝手に確定されているけれど、どういうこと?


「わ、私たち、スキー部も参加するって部長が~!」

「……はいぃ!?」


 これは……ハードな週末になりそうだなぁ……

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