はじめてのかまくらづくり!です!

 入学式から一夜明けた日の放課後。私と美雨は完全防備の上でスコップを持って、大量の雪が詰め込まれた簡易倉庫の前に立つ。そんな私たちのところにやってきた岸辺先輩と、隣にいたのはソリ滑り部の部長さんだ。


「ソリ滑り部から二つソリを借りるから~それを活用してね~」

「一日二台レンタルの代わりに、ソリ二台ぶんの雪もらっていくからね」


 ソリ滑り部の部長さんの言う通りに二台のソリに雪を山ほど乗せて、ソリ滑り部の簡易倉庫に雪を詰め込み、その代わりにソリを借りる。私たちは五つある簡易倉庫のうち、二つまでは使っていいと言われ、スコップで中の雪をかき出してソリでいつものかまくらの隣まで持っていく。


「雪かきの時じゃ想像できなかったね、地面の土が見えるなんて」

「そうだね、雪に足を取られることもないしソリもあるからそんなに疲れなさそうだね」

「あ~体にシミるー冬の味噌汁は最高だねー!!」


 私たちだけでなく岸辺先輩や柳先生もバケツや雪かきを使って雪を運ぶのを手伝ってくれる。しかし言い出しっぺの雪野先輩が何もせずに自分らのかまくらに寄りかかりながら、中で作った味噌汁を紙コップで啜っている。


「もう華ちゃ~ん、ちゃんと手伝わなきゃだめよ~」

「だって味噌汁がおいしいんだもーん」

「味噌汁関係ないじゃな~い……もうしょうがないわね~終わったらおにぎり握ってあげるから、それでいいかしら~?」

「おにぎり!やるー!」


 この人は本当に食欲に忠実だ。私もそう変わらないけれど、どれだけ嫌なこともおいしいものを目の前に吊るされたらなかなか逆らい難いものがある。ましてやこの肌寒い山の上ならなおさらだろう。


「ねぇねぇ!二人はさ!どれくらい大きいの作りたいの?」

「そうですね……私は先生も含めた五人がゆったり出来るくらいかな……美雨はどう?」

「私もどんなでも良いよ、みんなで一緒に入れるならね」

「決まりね、そういうことで雪野先輩!とびきりでかいの作るので、最後まで付き合ってくださいね!」

「まっかせてよー!」


 とびきり大きな、みんなが一緒にのびのびできるかまくら。そう宣言したからには必ず先輩や先生が驚くようなものを作りたい。そう思うと自然と足取りが速くなる。私と美雨、そして雪野先輩はせっせと雪を積み上げていく。


「よーし!待ちに待ったダイブの時間だよー!そーれ!」


 突然雪かきを放り投げた雪野先輩が、積みあがった雪山に全身でダイブする。雪の山には彼女の体の形がくっきり残る。


「あ、固めるんですね!それじゃあ私も!」

「あ、葵ちゃん!ダイブなんてしたら風邪引いちゃうよ!」

「大丈夫よ、これくらいどうってことないでしょ!それっ!」


 美雨の静止を聞かず、私も雪の上に飛び込む。積んだ雪の量が量なだけあって、体が一気に雪に沈んでいく。顔面から飛び込んでしまったせいで息が苦しくなって慌てて顔を上げると、そこには自分の顔の形に雪にくぼみが出来ている。


「ぷっ!葵ちゃんすごいよ!髪にも雪ついて……ぷぷっ」

「ちょっと!笑わないでよ美雨ってば!」

「だって……すっごいことになって……ひゃああ!」


 私を見て笑うのを必死にこらえていた美雨の体が、突然私が飛び込んだのと同じ雪山の上に前のめりに倒れた。先ほどまで美雨が立っていたところには、両手をまっすぐ前に伸ばした雪野先輩!


「もう!なにするんですか雪野先輩!」

「みうっち髪触ってみ?前髪!」

「へっ?ひゃあ!髪に雪が!」


 見事に雪山に顔型を残してから顔を上げた美雨の髪にはかなりの量の雪がついていた。それどころか勢いよく頭を上げたせいで頭のてっぺんに大量の雪を乗せていたのを見た私も、笑いをこらえるのが難しくなってきた。


「ぷっははは!美雨!あなたさっきの私よりひどいよ~!」

「もう!……ぷっ葵ちゃんだってまだ全然取れてないよ!」

「え!?もうほとんどとれたでしょ!?」


 美雨にどこについているか教えてもらいながら髪をほろっていく。ようやく取れた。かと思いきや、雪を運ぶ作業に戻ってしばらくして油断したところで、今度は私が雪野先輩に雪に突き飛ばされる。だから私も反撃して雪野先輩を積雪な中に引っ張り込んだり、美雨も巻き込んだり……


「あぁ~なんか子どもの頃に戻ったみたいで楽しいですね」

「そう~?それならよかったわ~」


 ひとしきりはしゃいで落ち着いた頃に、私と岸辺先輩は休憩にいつものかまくらで味噌汁を啜って暖を取っていた。部活の時間は16時から18時までの二時間、私たちは交代で休憩をとりながら作業を続けていた。


「それにしても葵ちゃん、華ちゃんと仲良くなったわね~」

「え!?仲良くはなってないですよ!?」

「なってるわよ~最初なんて思い切り敵対オーラ出してたんだから~」

「あの時は、いろいろタイミングが良くなかったんです」


 いきなり人をケガさせそうになって、なのに謝りもしない。でも実は原因を作ったのが自分だというのが後から知れて、でも引くに引けなくてついキツく当たってしまった。でも、なんで気付いた時にはあの人の事を自然と受け入れられるんだろう。


「華ちゃんはすごいわよねぇ~人をきつける何かみたいなのを持っているのよね~」

「そうなんですよね、あんな何にも考えて無さそうな人に、なんで私、心を許しちゃうんだろう」

「なんでかしらね~」


 そうして休憩を終えた私たちは、また雪を運んでは固める。そして部活の活動時間である二時間が経過しようという頃、雪は私の身長、152センチよりも少し高く雪が積まれて、全体の横幅もかなり広く、五人が寝そべっても大丈夫そうな広さまでひろげた。


「ついにここまできたねー!」

「はい!雪野先輩、ラストスパートですね!」

「よーしあおっち!起き上って!雪を固めるぞー!」

「はい!」


 私たち四人はさすがに手でしか届かなくなった上部を重いスコップで叩きまくる。より強度が増すようにスコップを叩きつけていき、異様に凹んでしまったところには、また雪を乗せて圧力をかける。


「で、できた……葵ちゃん、できたね……」

「まだ、これから掘る作業もあるんだけどね……」

「でも……ここまできたね……」

「……だね」


 最後のもうひと踏ん張り、もうとっくに活動時間の二時間を過ぎている。でもやめようという気がまるでしない。完成したあと、やることが残っているから。そう、なにがなんでも七輪で餅を焼くんだ。


「おいお前ら……まだやるのか?」

「もちろんですよ先生!」

「でも……アタシはもう疲れた……ふぁ……」


 今日最初から黙々と手伝ってくれた柳先生が大きなあくびをする。でも私は七輪餅を明日まで待つなんて出来ない。


「もう大丈夫です先生!」

「しっかり休んでください!」


 私と美雨は、最後の力を振り絞って雪山に穴をあけていく。入り口だけは少し低く、深く掘り、中は20センチほどの小上がりになるように掘り進めていく。固めて積む作業はえらく時間がかかったけれど、掘り進めるのはかなりスピーディに進んだ。


「はい、ここでストップだよ!これ以上やったら壊れちゃう!」

「おお!危なかった」


 雪野先輩の言うところでストップをかけ、入り口の対になる壁の少し上に少し大きめな穴をあける。そこに余計な空気の漏れが無いように木の蓋をかぶせておく。ついに……ついに……


「「完成だーー!!」」

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