祝勝会?です!

「それじゃあみんな~コップは持った~?」

「よーし!ではー今回の雪かきの大勝利を祝ってー!乾杯ー!」

「かんぱ~い!」

「か、かんぱいです」


 あの第二次山頂学園雪かき戦争が一時停戦した日の夜。私たち四人は例のごとくかまくらの中で鍋を囲んでいる。といっても今日はいつもの土鍋ではなく鉄鍋を使っている。なぜなら今日は祝勝会?と道路が通ったことで買い出しが出来るようになったからということで奮発してすき焼きを作ったのです。


「やっぱり牛肉は最高だよねー!」

「あら~華ちゃん、私は豚肉も好きよ~」

「えー!すき焼きには牛だよー!」


 すき焼きなら私も牛派かも。アクはものすごい出るけど出汁はしっかり出ておいしいし、豚はなんだか物足りない。それに牛肉は冷え症にも良いし、と思ったけれどこれはすき焼き関係ないね。


「美雨はどっち派なの?」

「私は豚さんかな~ヘルシーだし」

「え、もしかしてダイエット?」

「い、いやぁそういうわけじゃ~ひゃぁ!」


 美雨が一瞬引き気味になった瞬間、背後に忍び寄った雪野先輩が美雨のわき腹をつまんだ。驚いた美雨が手に持っていた卵入りの小皿を落としそうになり、その左手を私と岸辺先輩で押さえる。こぼれていたら色々な意味で大惨事だった。


「あっぶなぁ~……」

「ご、ごめんなさいぃ」

「美雨ちゃんは悪くないのよ~悪いのは~」

「ひぃぃぃぃ!!もうしませぇぇん!」


 岸辺先輩の背後に再び黒いオーラが湧き出てくる。この人は一番怒らせてはいけないタイプなのかもしれない。温厚な人ほど怒らせると怖いというし、今後は少し気を付けよう。


「おーい!かまくら部いるかー?」

「あ!先生だー!」

「先生?」


 そういえばいまだに顧問の先生とは会っていない。するとかまくらの中を覗き込んできたのは、茶髪ロングヘアで切れ長の目をした美人さんだが、着用しているスーツを着崩しているせいか、どこか気怠けだるそうに見える。


「おう、噂の新入生もいるな」

「あ、小森美雨です!」

「澄川葵です」

「おうよかったよかった、こんな部だから誰も入らないと思ってたからなぁ、アタシは柳歩やなぎあゆみ、このかまくら部の顧問だ、よろしくな」


 見た目のイメージと違って案外気さくな感じがして助かった。顧問が登場でようやく部活らしい部活になるのか……しかしかまくら部の活動って何をするのだろう。


「まぁアタシは特になんもしないから、テキトーにかまくら作って楽しんでいってくれ」

「ええぇぇ……」


 放任主義系の顧問だった……しかもやっぱりかまくら部に主だった活動なんてないらしい。しかし三年間毎日だらだらするだけというのも面白みがないような気がする。


「ちょっと先生!まるで私たちが毎日だらだらしてるだけみたいに言うのはやめてくださーい!」

「なんだ雪野、違うのか?」

「違うよー!!一応創作の意欲をもって様々なかまくらを作るっていう代々受け継がれた活動目標があるんだからー!」

「代々って、去年からだろ」

「ぅ……」


 なんとか張り合おうとしていた雪野先輩だけれど、柳先生に轟沈される。負けを認めたのか雪野先輩は岸辺先輩の後ろに隠れる。柳先生は私の隣に座ってお椀と箸を手に取ると、すき焼きに手を出し始めた。


「いやぁうんまいなぁ~!優愛ゆあ~お前腕上がったんじゃないか~?」

「いえ~今日は美雨ちゃんが手伝ってくれたんですよ~」

「お、そうかそうか~!こりゃビールが合いそうだ!」


 すると一度かまくらの外に出た柳先生はかまくらの横の雪を少しだけ掘ると、そこから何本かのビール缶が出てきた。それを全部持ってかまくらの中に戻ってきた先生はすき焼きを食べながらビールを喉に流し込んでいく。


「ぷっは~!いやぁたぁまんねぇわ~!」

「よーし!私たちも負けじと飲むぞー!」

「え!?雪野先輩お酒はまずいですよ!?」

「大丈夫よ葵ちゃ~ん、私たちが飲むのは甘酒だから~」


 甘酒と聞いて安心した。私もよくお正月に神社で初詣の帰りによく買ってもらものだ。ところで、思い切り酒と銘打っているけれど、なぜ未成年が飲んでも捕まらないのだろう?


「あの先生、なんで甘酒って未成年でも飲んでいいんですか?」

「ああそれはだな澄川、こいつらの飲んでる甘酒は米麹こめこうじっていうこうじから作ったのだからアルコール入ってないんだ」

「ちなみに~酒かすから作った甘酒もあるけれど~あれもアルコール率1パーセント以下だから~法律的に大丈夫なのよ~」

「へぇ~知らずに飲んでました」


 やっぱり美雨も知らなかったんだ。おもしろいこと聞いたな~と思いふけりながら甘酒を一缶いただく。全身に柔らかい甘味が拡がっていく。あえて冷たく冷やされた甘酒がすき焼きで暖められた体を冷やし、次に口に放り込んだ熱々の肉の旨みが増す。


「甘酒って~ダイエット効果もあるってしってた~?」

「え!?本当ですか岸辺先輩!」

「でも飲みすぎは逆効果よ美雨ちゃ~ん」

「う……」


 目を輝かせて甘酒を両手に取ろうとした美雨を岸辺先輩が止める。確か美肌効果もあるんだとか、こんな寒い場所に住んでいたらお肌も荒れそうだし気を付けないと……


「おい~そんなことよりもだ雪野~新入生に良い男はいたか~?」

「え~私はあおっちとみうっちしか見てないからわかんないー!」

「華ちゃん、部活勧誘しましょうね~」

「ゆあっちが言ったんでしょ?私には勧誘できそうにないってー!」

「それは……そうだけど~」


 言ったんだ……雪野先輩に人を勧誘するなんて器用なことが出来ないのは、なんとなく想像がつく。でもそうは言っても岸辺先輩だって一人も勧誘できていない。


「どっちもどっちなんじゃ……」

「ちょっと葵ちゃん!」

「あおっちそれはひどいよ!」

「そうよ~!私が華ちゃん並なんてひどいわ~!」

「はっはっは!残念だが後輩の澄川の言う通りだぞ~!お前たち変なところで似てるからなぁ」


 先輩二人は一度顔を見合わせた後にお互いにプイッと顔をそむけた。先生の言う通り、性格や外面はまるで違うけれど、内面的なところでは意外と似ているところもある。こうやってお互いそっぽ向くようになっても、数分したらまた笑ってお肉の取り合いでもしていそうだ。しかしかまくらだっていうのに鍋ばかり……私のイメージとしては七輪しちりんで餅を焼いたりするものだと思っていたんだけれど……


「あの~いまさらですけど、かまくらと言ったら定番の餅を焼かないのはどうしてですか?」

「それはね~このかまくらじゃ七輪は使えないのよ~」

「換気が出来ないからな、一酸化炭素中毒でおっちんじまうぞ」

「ひぃ!」


 いや、美雨がビビるところじゃないんだけど、むしろ知らずに私がやっていたらどうなっていたことか……と嫌な汗をかいた。しかしそれではなんだかイメージが崩された感じがしてショックだ。


「そうだ、新入生二人はまだかまくら作りはしていないのか?」

「はい、今日やっと入部届を担任に渡したばっかりですし」

「そうだー!じゃあさ、二人の入部記念に、もう一個かまくらつくろうよ!窓付きの換気が出来るタイプを!」


 換気が出来るかまくら、それがあれば私がちょっと期待していたかまくらの中での餅……それだけじゃない、七輪が使えるなら焼肉や焼き魚もできる。今の時期ならニシンが旬だ……七輪で塩焼きにしたらどれほどうまいことか……想像しただけでよだれが止まらない。


「はい!じゃあ明日作りましょう!!頑張ろうね美雨!」

「うん!私も頑張ります!」

「よーし!あおっち!みうっち!明日からハードだから覚悟してよー!」

「「はい!!」」

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