第5話
―――――朝か…
起きてすぐに自分の置かれている状況確認すると、明らかにおかしいことが二つ。
一つ、自分はベッドの上に寝ていたはずなのになぜか床の上で起床したこと。
二つ、この部屋のドアをが開いていること。
―――さて、考えようか。
なぜこんな状況になっているのか。
15分塾考したがその答えが出なかったので俺は目の前の現実にちゃんと向き合うことにした。
「芽亜!!夢亜!!起きろ!」
俺がそう叫ぶと二人の少女が目をこすりながらこちらを見る。
「朝から騒々しいわね。何事なの?」
「あー、よく寝たー。おはよっ悠くん♡」
そう言って抱きつこうとする夢亜を避けて俺は今一番言うべきことを言った。
「なんでお前らが俺の部屋のベッドに寝ている!?」
すると芽亜と夢亜はどやぁと聞こえて来そうな笑みを浮かべて
「なんとなく!!」
と声を揃えて言った。
というか二人はどうやって入ってきたんだ?
鍵は部屋の中にあったし、、、
「悠くんの疑問にお答えしよーう」
夢亜はそう言ってキャンパスノートを取り出してなにやら絵を描き始めた。
「できたー!はいこれ見てー」
見ると紙芝居のような何枚かの絵が描かれている。何気に夢亜の絵は可愛い絵だ。
「じゃあ1枚目見てー」
俺は言われるがままに1枚目の絵を見た。
―――何か室内のひらけた所の絵のようだ。
「夢亜は愛しの悠くんにどーしても会いたくなってロビーに鍵を借りに行きましたー。」
あー。これこのホテルのロビーの絵なのか。
言われてみればそんな感じに見える。
「ロビーの人に悠くんの部屋の鍵貸して下さいってお願いしたらダメって言われましたー。」
まぁそりゃそうだろう。
「普通」のホテルで客に別の客がいる部屋の鍵を貸すはずもない。
「次のページにして下さいー。それを聞いて夢亜はとても困りましたー」
次のページには室内で何か悩んでいるような女の子の絵だった。
――――ちょっと可愛い。
「なので、仕方なく最終手段のねぇを起こす行動に移りましたー」
次のページを見ると芽亜と夢亜がロビーで何かやっている絵だった。
「そうして夢亜とねぇでかなりロビーの人を説得しましたー」
次のページには何か頑張って説明している2人の女の子の絵があった。
「そうしてついに夢亜たちは鍵を手に入れましたー!!」
次のページを見ると鍵を持って部屋の中に入っていく2人の女の子の絵だった。
「そして悠くんの部屋に入ってー、添い寝していましたのでーす!」
――――――――――――――――――――――――
説明を終え満面の笑みでそう言う夢亜にむかって
俺は一言、
「夢亜。あとでちょーっとお話しようか」
「えー。まさか悠くん、愛の告白ですかー?やっと夢亜の気持ちに応えてくれるんだねー!」
「夢亜。あとで真面目なお話しようか!!」
「悠くん。怖い。怖いからその顔やめてー!」
「芽亜!逃げるな!」
部屋から音もなく抜けようとしていた芽亜がびくんと跳ねる。
「実家の用事を思い出したのよ!」
「ここ沖縄だから!!」
――――きつい。
なんで俺の周りには「普通」なことが全くないのだろう……
まずこの合宿だ。それとそのメンバー。その上泊まったホテルまで客のプライバシーも守らない「普通じゃない」ホテルだ。
沖縄の人たちはそんなことも知らないほど日々なんくるないさーの精神で生きているのだろうか?
そうだとしたら、俺この先どんなことがあっても沖縄にだけは住まない。
そう心に誓って合宿2日目が始まった。
――――――――――――――――――――――
「おはよ。よく眠れた?」
そう挨拶してくる水髪を見えていないかのように無視して俺は朝食の席に座った。
「なんで無視するんだよー!もしかして芽亜夢亜たちが部屋に入って来て睡眠妨害でもされた?」
見てきたかのように言う水髪に俺は冷たい目線を向けて
「睡眠妨害はされなかったけど、寿命が縮んだような気がする」
「本当に芽亜夢亜たち部屋入ってきたんだね。
このー。羨ましい奴めー。変わってくれよ」
変われるものなら変わってほしいものだ。
だが芽亜たちが来たのでその言葉は心にしまっておいた。
「おはよー。芽亜夢亜」
「おはようございます水髪さん。今日もうざいですね」
「おはよー。朝から不愉快になったよー」
そんな罵倒を水髪は華麗にスルーした。流石に慣れてきたんだろうか?
あ、でもよく見たらうっすら涙目だ。
「ところで今日は何をするんだ。練習するんだろうな?」
俺が問うと、水髪はきっぱりと
「俺たち楽器持って来てないから練習はかえってからにしよー!」
と言った。
……………え?
流石にキレていいよね?「普通」の人ならキレるとこだよね?これでどんなに怒っても俺にクレーム来ないよね!?
しかし俺はそんな怒りも忘れるほどに呆れてしまった。
「よし!じゃー今日も遊びにれっつごー!」
「おおー!!」
もうどうとでもなれ。俺はもう知らん!家帰って寝たい。もう疲れた。
そんな弱音の代名詞を心の中に並べながら沖縄のガイドブックを開いた。
――――――――――――――――――――――――
なんだかんだで海水浴に行くことになった。
実は俺たちが昨日ビーチに行った時にはもう時間がなくて海水浴をしていないのだ。
俺は泳げないので行きたくなかったが、芽亜と夢亜がどうしても行きたいと言うので仕方なく付いて来た。
「じゃあ、俺は泳げないからそこらへんの海の家でも行って暇つぶししてるからみんなで遊んで来て」
――――俺はこの先の展開が読めていた。
どうせ芽亜と夢亜の水着を見て
「私かわいい?」
とか聞かれるんだろう。
実際2人はかわいいし、「普通」の男性ならかわいいと言うべき存在だ。なので俺はモットーに従ってかわいいと言うしかない。
しかしそんなことを言ったら高校3年間夢亜にからかわれ続けるに違いない。
――――しかし!
それは俺が夢亜の水着を見なければいい話だ!
つまりいまこの場所を離れてしまえばいいのだ!
完璧な計画だ!
「夢亜も悠くんと海の家いくー」
その言葉で俺の完璧な計画は崩れ去ったように思われた。
だが!
夢亜はまだ水着を着ていない!
つまり着替える時間さえ与えなければいいのだ!やはり俺の計画は完璧だ!
「いいけど。別に面白いことなんもないぞ?」
「夢亜は悠くんといるだけで楽しいのー!」
そんなよくわからないことを言う夢亜と一緒に俺は近くの海の家にむかった。
芽亜はなんだか海、というより砂浜を楽しんでいるようで、大きな砂の城を作っていた。
俺が海の家にむかって歩いて行って夢亜以外のジャズ部メンバーが見えなくなる所まで歩いてきたところで
「じゃー悠くん。デート行こーね」
「ん?ん!?どうゆうことだ夢亜?」
俺は夢亜と一緒に海の家で暇つぶしをする予定だったはずだ。
いや、それも捉え方によってはデートか…?
いや、違うだろ。ただの暇つぶしだろ。
「今から夢亜と一緒に2人っきりで遊びに行くってことー!」
――――ん?
あれ?俺これやっちまったか?
夢亜に絶好のチャンスを与えてしまったか俺?
俺の健全で「普通」な男子高校生の生活はここで終わってしまうのか!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます