第4話

合宿とは本来[部活等の本格的な練習]などのためにあるものだと思う。


 ただ今の学生は合宿と聞くとやれ泊まりやらやれ観光やらと言う。


―――つまり「普通」の学生は合宿とは遊びだと捉えているのだ。


 だからジャズ部一年の合宿が沖縄になるのは別に「普通じゃない」ことではない。


「普通」のことなんだ!!


 そんな言い訳を心の中で繰り返しながら俺は仕方なくみんなの乗るバスで空港に向かったのであった。


「悠くん!あーんしてあげる、はい、あーん」


「俺がいつそれを許可した!?」


 双子の妹、夢亜が無理矢理お菓子を俺の口に押し込もうとするのを熟練のゴールキーパーのように守り俺は夢亜に反論する。


「夢亜ちゃん、俺が食べるよー」


 水髪が口を開けて夢亜の手のお菓子を食べようとする。


―――刹那。


 一瞬で夢亜は俺の席から離れて姉の隣に何事もなかったかのように座り


「まず罪を償ってからにしてー。例えば生まれてきた罪とか」


と水髪どころか俺まで凍らせるような凍える一言で水髪を一蹴した。


「お前は意図して嫌われるドMか!?」


 不翳が水髪を軽蔑のまなざしで見つめる。


「二人ともひどいよー!俺の味方は悠だけだ」


「あぁ。そうだな」


「ありがとー。絶対否定されると思ってたのにー!」

「お前は夢亜キラーのいい道具になるからこれからもその力を遺憾なく発揮してくれ」


「やっぱり三人ともひどいー!」


  そんなうるさいやりとりに参加してこない人間が一人。


――――夢亜の双子の姉、芽亜だ。


「おい夢亜。芽亜は調子でも悪いのか?」


 俺が夢亜にそう聞くと


「ねぇは多分寝てるんだよー」


「ならいいが。流石に起きなすぎじゃないか?」


「でも絶対起こしちゃだめー。ねぇは起こされるのちょーきらいだから」


「わかった。触らぬ神になんとやらってやつだな」


 そんなことを話しているうちに空港に着いた。


「わぁー。飛んでるねー」


「夢亜。飛行機とは飛ぶものよ」


 あれ。いつのまにか芽亜が起きている。


 空港までの時間を知りたがっていたのは十分に睡眠をとっておくためだったようだ。


「おーい。夢亜、芽亜。行くぞー」


「時咲くん。なんで夢亜を先に呼んだの?「普通」は姉である私からだと思うんだけど!なんで!?」


「え!?だめなのか?なんとなく呼んだんだが」


「呼ぶ時は芽亜がさき!これルール!忘れないでね!」


 なんかよくわかんないところで怒って膨れている芽亜をよそに夢亜は俺に抱きついて


「夢亜がねぇよりも大事だから夢亜を先に呼んだんだよねー。いやー、照れますなー」


「そんなんじゃない」


  俺たちはそんな会話をしながら飛行機に乗った。なんだかんだで水髪と不翳が一番飛行機に食いついていたようだったがほっといた。


  席は三つ連続してるものと二つ連続してるものだった。当然俺は「普通」の高校生のように水髪と不翳と一緒に三つの連続してる方に座ろうとする。


 しかしその前に夢亜に先手を打たれた。


「じゃあー、夢亜が悠くんの隣で、ねぇは夢亜の隣ねー」


「いや待て。それは男子高校生の行動として「普通じゃない」のでやらないぞ」


「そうよ夢亜!時咲くんは私の隣でしょ!」


「って芽亜さん!?それもおかしいですよ!?」


「じゃあ悠くんは夢亜とねぇの隣ねー」


「多少不服だけどそうしましょう」


「いや。いやいやいやいや。違うだろー。違うだろ!(某国会議員風)俺は男子と座るから夢亜と芽亜二人で座ってよ」


―――――あ、やばいとんでもないことをしてしまった。


 さっき芽亜に言われたのにまた夢亜を先に呼んでしまった!


 やばい

 やばい!!

 やばい!!!


「時咲くん。ちょっと後で隣の席でお話ししましょうね?」


  死神のような声でそういう芽亜を出来るだけ見ないようにし、俺はしぶしぶ芽亜と夢亜の間に座った。


――――それから二時間。地獄だった…


 いやもしかしたら地獄よりもひどかったかもしれない。


 できるだけ怒ってる芽亜の方を向かないように座っていたら必然的に夢亜の方を向かなきゃいけないし、そうすると夢亜はずっと俺のことをからかってくるしで、あれがまさに


  【不の連鎖(A non-chain)】だった…


  今度から地獄のようにとか鬼のようにとかいうやつに説教してやろう。


  俺がその鎖から解き放たれたのは南の島、沖縄についてからだった。


――――――――――――――――――――――――


「あー。やっと着いたー」


「結構かかったなー。寝ちゃったよ」


  あの二人には後で飛行機の中で寝ることの罪深さをみっちり体に教え込んでやろう。


「あちぃねー」


「夢亜。沖縄は暑いのよ」


 そんなデジャヴを感じさせるような会話をする二人に俺もデジャヴを感じされるように


「おーい。芽亜、夢亜行くぞー」


 と言った。


  よし今度はちゃんと芽亜を先に呼んだぞ!


  俺がそう思って心の中でガッツポーズを浮かべていると今度は夢亜が


「なんで夢亜が先じゃないのー!悠くんの浮気者ー!」


「夢亜。姉には敵わないということよ」


 と朝とは真逆に反応した。



―――――それから俺らは色々な所へ行った。


  首里城に、美ら海水族館に、国際通りに、ビーチに、とりあえずいける観光名所に行きまくって遊びまくった。


  途中で何人かが、いや全員が「あれ?なんのために来たんだっけ?」と心の中で思っただろうが誰も口にすることはなく、合宿1日目が早くも夜になってしまった。


――――――――――――――――――――――――


―――ホテルにて


「じゃあ。部屋決めくじしよー!」


「なんでだ。部屋は一人一つでいいだろ」


 俺がそう言って反論するも夢亜は


「ちっ、ちっ、ちっ甘い考えだな悠くん。実はこのホテルは完全予約制なのだ!そしてもう部屋は2人部屋二つと一人部屋一つとってありますのです!」


 やばい。してやられた。

 だがまぁまだ全然反論の余地はある。


「じゃあ、俺は一人、あとは芽亜と夢亜で水髪と不翳でいいだろう。なぁ二人とも?」


 すると水髪は


「えー。不翳とー?や、、」


「いいよなぁ、なぁ涼?!」


「はい!了解です命に代えても!」


「まぁ俺はいいよー」



――――― よし完璧だ。これで夢亜に反論の余地はない。


 俺の圧勝だろう!



「私は時咲くんと同じ部屋がいいわ」


「夢亜もです!」


オーマイガー!そう来たかー。


「なんで芽亜までそんなこと言う!」


「理由なんてないわ」


「そうだよー!愛に理由なんてないんだよー!」


 意味の分からない反論をする二人はもう強引にでもくじ引き展開に持って行きたいようだ。


「せーのっ!」


―――― さて、普通の展開ならここで俺は芽亜か夢亜のどっちかと同じ部屋になってしまってドキドキ展開、、、とかなんだろうが…


 俺はここでモットーへの忠誠のおかげか、そのフラグをクラッシュして一人部屋のくじを引き当てたのだ!


 この小説を読んでいる諸君(特に男性)


      誠に申し訳ない!


 ちなみにそのほかのペアは芽亜と不翳、夢亜と水髪となったが二人は即却下し、結局最初に俺が提案した通りの部屋割りとなった。


 水髪がトイレで泣いてたのでこれからも夢亜キラーとして働いてもらうため一応励ましておいた。



――――こうしてジャズ部の合宿かどうかを疑うくらい楽器に触ることもなく合宿1日目が幕を閉じたのだった。 

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