第18話 スケルトン肉体補完計画

 武器防具を選んだ後、いつものポーションを売却し、代金26万ガルを受け取った。230万ガル俺の手元にあることになるが、みんなの武器防具、商品や馬車など必要な資材を購入したら、170万ガル支払わなければならなくなった。

 チロル村でリリーと別れるときに、資金として10万ガル渡した。

 結局手元には50万ガルしか残らなかった。

 なかなか資金は貯まらない。




 日本に帰ってくると、窓の外は薄暗く、時計を見ると夕方6時を過ぎていた。

 俺は、転移の間から出ると、更衣室で、ワイシャツにスラックスに着替える。

 フラフラと、更衣室を出ると、4つに増えたデスクの自分の席に座って書類を取り出す。

 しばらくすると、ミカエルが一番奥のデスクで仕事をし始める。

 シャルとアンナは、ミカエルが二人に与えた赤ジャージを着ている。二人お揃いだ。給湯室の方へ、パタパタとスリッパを鳴らしながら消えていく。

 なぜ、ジャージなのかと初日にミカエルに聞いたら、『これしか、社給品はありません』とのことだった。

 女子高校生位の子が赤ジャージを着ているのも悪くは無いが、外に出れるようになったら、何か他の服を着てもらいたい。

 その二人は、給湯室でお茶の準備をしているのか。ワイワイと騒いでいる。

 初日こそ、見るものすべてに驚いていた二人だったが、もう日本の室内生活には慣れはじめている。

 シャルとアンナは、薄型液晶テレビを見た時、『これは魔道具ですか。映像を流すなんて凄い!』と言った反応で、定番の小人がいるとかいうネタすらしなかった。

 『最近の若者は、様式美を知らない』とおっさん臭い事を思ってしまった。異世界人には関係ないような気もする。年を取ると、気に食わないことの理由を、年のせいにするのはやはり間違っている。社会経験の少なさを教えるわけでなく、若者をデスり始めるのは八つ当たり以外の何でもない。試しに、『最近の若者は――」という方に『いい年をして――』と返すとマジギレされる。

 やってはいけない。

 同レベルの意見では、場は混乱するだけなのだ。

 シャルとアンナには、もっとイイところが沢山ある。

 最近は、物の名前を聞くと社用スマホ『オレンジ』で検索して調べる。初日は、パソコンは一本指打法で指をプルプルさせていたが、徐々にキータッチは覚束おぼつかないが向上してきている。パソコンで、動画見たり、ネットし始めている。日本語が分かるにしても、物分かりが本当に良すぎである。俺より異世界適応しているんじゃないかと感じる。

 情報機器に精通すれば、異世界無双ができるのは本当なのか。などと考えていると、


「トール様、お茶が入りました」


 シャルが紅茶を机に置いてくれた。


「ありがとう。シャルとアンナは、段ボール箱の中身の整理とかするのか?」

「ええ。ミカエル様とトオル様の邪魔にならないようにがんばりますね」


 そういうと、シャルは片づけに向かう。

 俺は、今後のダンジョンの方針を考える。

 

 ・ 地下ダンジョンエリアの清掃修復作業

 ・ 全エリアからのアンデットの材料集め

 ・ 迷いの森付近での薬草集め

 ・ 廃鉱山エリアからの鉱石採集


 初め考えていた目標は、順調に進んでいる。それに加え


 ・ 武器防具の調達

 ・ ダンジョンからの水上輸送方法の確立

 ・ 人材確保の術


 についても大方上手くいっている。後は、地下ダンジョンの再開である。

 再開したくとも、魔物がスライムとスケルトンしかいない。


「アンナは、魔物に詳しいのか?」


 俺は、近くで、本を片付けていたアンナに唐突に聞いた。


「いきなりだな。まぁ、異世界の人よりは詳しいと思うが、魔物の専門家では無い。」

「それはそうだな。魔物は、生け捕りとかできるのか? 人間がペットにしてるとかあるの?」

「魔物に襲われる存在が人間だからな。生け捕りとか、かなり難易度が高いと思うが、ワイバーンやペガサスは利用されていたりする」

「それは、ファンタジーだな。ワイバーンもペガサスも空を飛べるのがいいな。売っていたりするのだろうか?」

「売ってはいないと思う。国家にとって重要な戦力だからな」

「確かに、苦労して生け捕りにして、調教して、飼育すれば、相当な手間が掛かる。売っていても、ものすごく高いだろうし、現状では買えないか。大型の魔物は難しいのは分かるが、小さい魔物、例えば、ゴブリンとかオークはどうなんだ?」

「あの気持ち悪い、おぞましい魔物を使役したいのか? 見敵必殺、女の敵だぞ!」


 殺気で持っていたティーカップが割れるのではないかと錯覚しそうだ。憎悪が凄すぎる。

 あいつら、女騎士の天敵みたいな奴らだからな。

 アンナが、ボーントゥキル(殺すために生まれた)になるのも分かる。


「小さい魔物を使役できるかの可能性の話だ。別にゴブリンとかでなくてもいい」

「あまり、使役しているのは聞かないぞ。難しいんじゃないか?」

「地下ダンジョンをどうするべきだろう?」

「スライムとスケルトンだけでどうにかすればいい」

「それでいいのだろうか?」

「別に、私たちの目的は、ダンジョンの経営ではない。チロル男爵からチロル男爵領をいただくことだ」

「そうなんだが、そのために、初心者用のダンジョンとして開業し美味しいダンジョンだということをアピールしたいんだが、スライムとスケルトンだけで良いものか――」

「初心者だったら、それでいいんじゃないか? 違う魔物出てきても対処に困るだろ?」

「そういうものか。決まったエリアには、決まったモンスターしか出さないのは暗黙のルールか。しかし、ダンジョン周辺には一般人を集めるし、色々作業をしているスケルトンをどうすれば隠せるかな?」


 今のままでは、住民たちとアンデットたちのオブ・ザ・デッドな話が始まってしまう。


「トオル殿のアイテム・クリエイトで、スケルトンの肉体を作ればいいのでは?」

「その発想は無かった! 細かい事に気付くとは、良い嫁に……。いや、アンナは天才だな」

「嫁のくだりは、良くわからんが、褒められているので良しとしよう」

「しかし、スケルトンと住民とが分からなくなりそうだな」

「肉体の分からないところに印を入れたり、私たちと会うときは仮面をつけさせたりしたらいいのでは?」


 仮面の人が、何百人単位でいる異世界。中々斬新かもしれない。


「アンナ、いいアイデアをありがとう。参考にするよ」

「役に立てて良かった」


 スケルトンを人間に偽装して、社会に溶け込ませる。社会の要所要所に自分に絶対服従の部下たちを配置する。

 理想国家を打ち立てるのに、邪魔な反乱分子を早期発見して、粛清できるのは、為政者としては、願ったり叶ったりだろう。

 取りあえず、ネットで人体組成を調べてみる。人体には、酸素、炭素、水素、窒素、カルシウム、硫黄、カリウム、ナトリウム、塩素、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、マンガン、銅、セレン、ヨウ素、モリブデン、クロム、コバルトの20元素が必須らしい。ガルトで手に入らなそうな物質は、今回は日本で購入しよう。

 会社の備品を買うネット通販で材料や試薬を購入しておくか。明日には会社に届くだろう。

 人間を作るわけでなく、肉体を作るわけだから、ハードルは低いような気がする。最悪、見た目を人間ぽくできれば、成功と考えていいと思う。

 さて、後はチロル男爵領を自らの手中に収めなければならないのだが……。

 リリーズ・レポートによると、チロル男爵は、領民には嫌われているようだ。

 理由は、税が高すぎるのと、領内で飢餓が発生しても、見て見ぬふりをしたことが大きいようだ。

 チロル男爵は、豪華な屋敷で酒池肉林におぼれているのか、30歳の割には体は醜く、ぶくぶくと太っていて見た目も良くないらしい。

 さらに、自身のハーレムのために、領民の中から、美しい女性をあらゆる手段を使って物にしているらしい。なんと、うらやま死刑な貴族だ!

 これは、領民の妬みは高いと思う。

 そんなチロル男爵が、いつ頃、俺たちの噂を聞きつけやってくるか?

 チロル男爵領は、領地としては恵まれていない。

 『豚は太らせてから食え』と言うが、飢えているチロル男爵が、俺たち豚をいつまで肥えさせてくれるか。

 時間はあまり無いような気もする。戦の準備は進めなければならない。


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