第17話 交渉後――それは、賢者タイム


「これが、日本流の商談! 正にHENTAIですね」 

 

 呆れたような口調でミカエルが、ハーフっぽい発言をする。


「あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!の心境だ。俺は、もしていないはず――」


 な、 何を言っているのか わからねーと思うが、ミカエルに怒られるのはおかしい。

 商談中に逝ってしまったモルゲン様を、ミカエルが呼んだ執事とメイドさんが連れて行った。回復したら、モルゲン様は応接室に戻っていらっしゃるだろう。


「取りあえず、ずっと見てましたから、やましいところはなかったはずですけど……。何か怪しい」


 疑いの目を向けるミカエル。早く話を逸らしたい。


「ミカエル、俺が、なぜモルゲン商会の出張所か倉庫にこだわるか分かるか?」

「モニカさん目当てですよね」


 どんなハーレム王であっても、あんな変態を、引き入れるだろうか? いや無い。


「違うわ。俺たちが、大っぴらに活動していなくても、鉱山で金属を産出したり、ダンジョンを再開発していたら、確実にチロル男爵やテュルク王国は攻めてくるぞ」

「それは、私たちがダンジョンを再開発して、うまい汁を啜っているのが、妬ましくて気に食わない。俺たちは、こんなに財政逼迫して我慢してるのに不公平。そうだ、略奪しよう!という発想に至るということですか?」

「そういうこと。国内反乱鎮圧しても、領土が増えない。基本略奪がモチベーションなんだよ。多分俺たち、殺されて全財産奪われる」

「なるほど、攻められるのは確定だけど、完全武装するための資金は無い。出来れば、軍事力に予算は使いたくない。そうだ! 借りパクだ。くんか、くんか。モニカのふんどしを借りて履こう! さて、跪いて、命乞いをするかね?」


 他人の褌の使い方間違ってるから! ミカエルの目に光が無くて怖い。


「いやいや! 借りパクじゃないよ。ちゃんと使った分は支払うし、後日! ミカエルや皆を守るためには、俺はなりふり構わん。他人の褌で相撲を取る男なんだよ」


 俺は、仲間を守るためには、躊躇ためらいなく使用済みパンティーを履く度量を持った男だ! つまり、他人の褌など朝飯前。


「しかし、アイテム・クリエイトで武器作れんじゃね? やっぱ、跪いて、命乞いをするかね?」


 一瞬、機嫌を良くしたミカエルは、次の瞬間には、気づいてはいけない事に気づいたらしい。


「いや、アイテム・クリエイトは、あくまでも、現物支給ですから、無限に作れないですから――。作ってたら、俺は、どれだけ仕事しないといけないんだ!」


 取りあえず、チートでは無いので、仕事時間に応じて使えるスキルそれが、現物支給。

 算定基準は、まだ分からないが、素材があり、簡単な物は安く、素材がなく複雑な物は高く設定されているような感じである。

 因みに、廃鉱山でインゴットを作ったのは、2千円分の手当だった。

 ミカエルは、まだ疑っている目をしている。もう一声だ!


な人を守るためには、武器防具は幾らあっても足りない!」

「そ、そうなんですか。徹さんはしょうがないなぁ。もう!」


 ミカエルは、照れくさそうに、下を向いて、上目遣いで俺を見ている。社長がチョロくて良かった!




 しばらくすると、モルゲン様は、ドレスに着替えて応接室に入って来た。

 なぜ着替えたのかは触れないであげた方が良いだろう。


「トール様、ミカエル様、先ほどは、お恥ずかしい失態を見せてしまい申し訳ありません。交渉の方ですが――」

「えぇ。すべて、肯定と取ってよろしいのですよね」

「……はい。物資関係・人材斡旋の件、水上輸送の件、出張所と倉庫の件すべて準備を進めていきたいと思っております」

「分かりました。ありがとうございます。これから、として一緒に頑張りましょう」

「ええ。これからも、末永くよろしくお願いいたします」


 俺たちは、笑顔で今後の計画を話し合った。

 なぜかモルゲン様の顔は、一目で分かるほど熱っぽく紅潮していて、艶めかしい瞳がドキリとさせる。しかし、俺は、あんな事があった後だし、大好きな戦争の事を考えているのだろうと気にも留めなかった。

 



 俺たちは、交渉を終えると、モルゲン商店チロル支店の店内を見て回ることにした。流石に、武器商人だけあって、色々な武器が販売されている。

 シャルやアンナ、リリーには、武器や防具を見て貰い、必要ならば武装を買う旨伝えてある。女性陣は、ミカエルと一緒になって商品を物色している。

 俺は、モルゲン様と商談をしながら、店内を見て回る。

 店内には、片手剣・両手剣・手斧・槍・弓・棍棒など、ファンタジーに有りがちな武器類が並んでいる。俺は、その中で魔道具の棚が気になった。杖や、良くわからない魔道具が並んでいる。


「モルゲン様、こちらの魔道具は、どういう武器なのですか?」

「あぁ。杖は基本的に、魔術を発動する時に使うものです。魔道具は色々な物が有ります。最近は封を剥ぐと火炎魔法が十秒後に発動するボールが良く売れてます」


 何、その手榴弾みたいなの! この世界、意外と魔法技術で、兵器レベルが高くなっていないか。


「後、皆良さが分からないと言うんですが、わたくしが、凄いと思っているものがあるんです! すごく大きな魔道具です。トール様も見て下さいませんか!」


 モルゲン様は、玩具をせがむ少女のように嬉しそうに、店の奥に俺の手を引っ張っていく。

 5メートル位の2本のレールの様な金属が突き出た特徴的なデザインの魔道具だ。これは、一人では確実に扱えない武器だ。


「モルゲン様これは?」

「これは、金属片を高速で撃ち出す魔道具なんです! 戦場を一変させる力があると思っているのですが――。お爺様もお父様も相手にしてくれませんの! トール様はどう思われますか!」


 信じられないが、異世界がレールガンぽい魔道具を作ってる。

 科学技術が発達していない代わりに、魔法技術が発達しているのだろうか? 高度に進んだ魔法は科学と区別がつかないのか。 ガルトおそるべし。


「モニカ、この兵器を誰かに見せたか?」

「話はしましたけど、誰も信じてくれません。後、この兵器はまだ、未完成なんです。とても、実戦では使えません。わたくしも、動いているのは見たことがないんです」

「製作者は誰なんだ!」


 俺は、大声で叫んでいた。モルゲン様は壁に張り付いている。


「ロック・スチュワードという男です。マンデリン帝国の元錬金術師、あのの錬金術師ですよ」

「ハゲメの錬金術師?」

「トール様は知っておられませんでしたか。毛根を錬成するのに失敗して、髪の毛を幾分持っていかれた高名な錬金術師です」


 何だろう? ハゲの見苦しい言い訳のようにしか聞こえない。

 だが、この兵器の技術力は、ロック・スチュワードが只のハゲで有る筈ないことを物語っている。


「モルゲン様! 私に、ロック・スチュワードを紹介して貰えませんか!」


「紹介するのは、構いません。しかし、お願いがあります」

「何ですか?」

「わたくしのことを、先ほどモニカと呼んで下さいました! これからは、モニカって呼んでください」


 ロック・スチュワードには、どうしても会いたい。ここは、モルゲン様の申し出を受けるしかない。


「分かりました。二人きりの時は、モニカとお呼びします。しかし、皆の前では、モルゲン様でお願いしたい」

「分かりました。わたくしも二人きりの時はトールと呼びます。よろしいですよね?」

「――はい」


 これは、交渉の結果である。断じてハーレム化の為ではない。




 俺が、ガルトの兵器に驚いている間に、ミカエルたちは、必要な武器防具を選んだようだ。


「皆、何を買うか決めたのか?」

「あたしは、聖職者だから必要ないです」

「徹さん、ミカエルは、値引き品の鋼の剣と女性用の皮鎧を買いたいです」


 ミカエルはどうやら、コスパ重視らしい。


「私は、皮鎧だけでいい。武器は、愛用のレイピアで十分だ!」


 アンナは、防具だけ購入するらしい。


「わたくしは、カットラスとクロスボウと胸当てにします」


 シャルが手に持っているカットラスをまじまじと見つめる。よく海賊が持っているような湾曲した小型の剣だった。


「シャル、意外と重武装ではないか?」

「トール様は地下ダンジョンを拠点にしています。ダンジョンは基本狭い空間だと思うのです。ですので、長物を使うと、動きが読まれやすく敵に反撃されることが有ります」

「なるほど、狭い空間でも有利な、カットラスとクロスボウを選択したのか?」

「そうです。カットラスで有れば、リーチこそ短いものの、動きを読まれにくく接近戦で有利です。もちろん、敵が近づく前に、クロスボウをお見舞いします」


 シャルは、自信満々の顔で上機嫌に話す。

 長い逃走生活の中、修羅場を潜り抜けてきて、この元王女様は何か違うものに目覚めているのではないかと疑いたくなる。


「アンナは、本当にレイピアでいいのか?」


 俺は、アンナに疑問を投げかける。


「当然だ。私ほどの腕前ならば、戦場の有利不利など関係ないのだ! シャルロット様の盾となるとずっと誓っておるのだ!」

「ええ。アンナは、わたくしの盾。ですから、わたくしが剣となり戦場を立ち振る舞うは、当然の事!」


 アンナとシャルは互いに、嬉しそうに頷きあっている。

 泥水をすすり、地面を這いずり過ぎたのか、守る対象が、いつの間にか、剣――戦友に変化しているが、この二人はそれでいいらしい。

 いや、いいのか?





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