第13話 バッドエンドはダメです。

 俺とミカエルは、二人の美少女をその場に留まらせると、少し離れて二人で話をすることにした。

 俺は、二人の美少女を、現代日本に連れて行くつもりだ。

 さすがに、女神様を嘘つき呼ばわれさせるわけにはいかないだろう。


「さて、ミカエル、転移ドアを準備してくれないか?」

「もう、日本に連れて行くんですか。名前もまだ伺ってませんけど――」

「ここで、聞いても話してくれないような気がするんだよ」

「確かに、廃ダンジョンで、ひっそりと死のうとしていた方々ですものね」


 ミカエルも、美少女二人が、訳ありだと感じたらしい。


「ああ、日本で聞いた方が話が早いと思って」

「わかりました」


 俺たちが、美少女二人の前に戻ってくると、ミカエルは転移ドアを呼び出してくれた。

 俺は、目の前にドアが現れて警戒するように、体を強張らせる二人に向って声を掛けた。


「お二人が、生き返る時に、女神様と約束した異世界に連れて行く」


 二人は、お互い顔を見合せると、意を決したのだろう。

 俺は、ミカエルと、美少女二人とともに現代日本に帰った。

 俺とミカエルの見た目が少し変わったのに驚いたようだが、美少女二人はお互いをかばう様に身を寄せるだけで、俺たちに何も聞かなかった。


「お二人ともこちらの部屋にどうぞ」


 俺は、美少女二人に声を掛けると、部屋のドアを開けて手招きする。

 二人は素直に従い、みんなで転移ドアの部屋から、事務室の方へ移動する。

 事務室の時計を見ると、午後1時前だった。

 相変わらず、段ボール箱は散乱しているが、応接セットは使える状態なので、美少女二人に席に座るように促すと。素直に二人はソファーに座った。


「ところで、自己紹介もまだだったね。私は、日本では、波多野 徹という27歳の会社員だ。ガルトでは、トール・ワーカホリックって偽名を使っている。トールと呼んで貰って構わない。」

「私は、女神ミカエルです。日本では、22歳の美香という徹さんの妻やってます」

「おい、ミカエルいきなり俺の妻というのはやめろ。まだ、結婚してないから――」

「はいはい。本当は、このディーヴァエージェンシーの社長をしてます。てか、あなたたち、日本語分かっているわよね。叡智の光を受けてるはずだし……。黙ってないで、あなたたちも自己紹介ぐらいしなさいよ!」


 ミカエルは、二人の美少女に厳しい口調で自己紹介を促す。美少女二人は黙って、お互いを見つめていたが、金髪の美少女が口を開く。


「今回は、わたくしたちを異世界に連れてきていただきありがとうございます。わたくしは、シャルロット・ウルテリウスと申します」

「私は、アンナ・カスティーユと言います」


 青い髪をポニーテールにしている少女は呟くと、こうべを垂れた。

 

「お二人のお名前は分かりましたが、なぜ、死んでいたのですか? お約束どおり異世界に来ているのですから、理由を教えていただけませんか?」

「実は、わたくしは、テリウス王国の第三王女だったのです。修道院から戻った矢先、かねてから関係が悪化していたイーリス帝国の騙し打ちによってテリウス王国は、滅ぼされてしまったのです」


 シャルロットは、亡国の姫様のようだ。俺は、テリウス王国とイーリス帝国の戦争について知らないから、イーリス帝国が実際騙し打ちだったかどうかすら分からない。ただ言えることは、戦争をする国は、自国が正義であると必ず言う。敵も味方も大義名分のない戦争なんて存在しない。そんな事を思いながらも話を続ける。


「それは、ウルテリウス様、大変でしたね。国が滅ぼされ、命からがら逃げだしたのですか?」

「えぇ、城を敵兵に囲まれ、お父様に『お前は生きて、テリウスを再興するのだ』と言われ、少数の兵とともに、王族しか知らない秘密の地下通路を通って脱出しました。その後も執拗に敵兵に追われ、わたくしを逃がすため、騎士たちは幾度となく殿しんがりを務めてくれました。気が付けば、御付の騎士はそこのアンナのみになってしまい……」


 よくあるゲームのテンプレみたいな話を聞かさせる。実際の経験者を目の前にすると本当にそんな事あるんだなって感心してしまう。


「それは、本当に大変でしたね。しかし、お父様に王国の再興を託されたのでしょう? なぜそれが死んでしまうことに?」

「貴様、姫様がどれほどの苦難に遭遇したと――」


 アンナという女性騎士は、整った顔を怒りで歪ます。


「アンナおやめなさい。確かにわたくしは、お父様に王国の再興を任されました。今までその実現に向けて、歩みを止めたことはありませんでした――」


 それから、シャルロットは、今日までの頑張りについて話してくれた。

 初めはテリウス領内で、王家に忠誠を誓っていた有力貴族のカール伯爵の下で、王国の再興を誓った。しかし、カール伯爵はシャルロットを帝国に売り渡していた。彼女が騙されたと気づいた時には、帝国から追っ手が迫ってきており、命からがら伯爵と帝国の追っ手から逃げたこと。

 逃げ延びだシャルロットは、テリウス王国の信頼できる血族であったリウス公爵の下、再起を誓うこととなった。しかし、リウス公爵の家臣が、保身のため帝国に密告。リウス公爵領は帝国の大軍に攻められ、二日と持たず陥落し、城の井戸から森へ繋がる脱出路をずぶ濡れになりながら、疾走し脱出したこと。

 次は、テリウス王国の反帝国パルチザンの中で活動することとなるが、金に目がくらんだ村人の密告で、帝国は大規模討伐隊をパルチザンの拠点に派遣した。シャルロットたちは殲滅されかけたが辛うじて脱出――。

 その後も、シャルロットは諦めることなく、イーリス帝国打倒とテリオス再興を夢見て幾度と立ち上がるのだが、上手くいかない話を聞かされること20分。

 シャルロットの狂信的なテリオス再興は凄いことだ! こんな可憐なお姫様ができることではないのではないか。はっきり言って俺にはできないだろう。だからこそ、この救いのない結末の連続にうんざりしてくる。


「ウルテリウス様、俺は、お二人が軽い気持ちで、自殺したと思っておりましたが、それは勘違いでした。申し訳ない」


 俺は二人の話を聞いて、少しだけ認識を改めた。


「その……。ハタノ様、わたくし達は自殺していないんですが……」

「えっ? そうだったんですか」


 驚いた。まさか――


「昨晩夜遅くまで、テリオス再興の作戦を考えていたのです。アンナと二人身を寄せ合って温めあっていたのですが、昨晩は寒くて寝れず、暖房にと火を炊いただけなのですが……」


 俺は、目頭に熱いものがこみ上げて来て、それを抑えるのに必死だった。

 シャルロットたちは志半ばで、不注意の事故で死んでいたなんて――。不幸すぎていたたまれない。

 これは、何とかしてあげたい。

 そうだ! 俺たちは、ガルト救世が目的だ。リリーからは、民のため、国を興してくれと言われた。興した国を、シャルロット姫にあげれば、民も姫も、救われる! そして俺も生き返れる。みんな笑顔ではないか――。


「ウルテリウス様、あなた様のテリオス再興への情熱に、俺は心打たれた!」


 続く俺の言葉に、シャルロットは顔を上げた。


「俺は民のため、国を興そうと努力しているところだった。もしよければ、ウルテリウス様とに国を興したい!」


 シャルロットは、俺の言葉を聞いて、嬉しさのあまりなのか、顔を赤らめ、目には涙をためて、ほほ笑んでいる。


「トオル様、わたくし、健やかなるときも、病めるときも喜んでにテリオス再興を目指しますわ。わたくしのことは今後、シャルとお呼びくださ――」

「「ちょっと待て――い」」

 俺とシャルが二人で国家建設で盛り上がっていると、ミカエルとアンナが怒りの表情で止めに入る。

「徹さん、あくまでも、国をそこの女にあげるだけですよね? 他意はないですよね」

「姫様、この男は建国のための道具ですよね?」


 二人とも何を慌てているのかよく分からんな! そう思っているとシャルロットが口を開いた。


「アンナ、そのような言い方、慎みなさい! トオル様は、わたくしの大切なパートナーですのよ。わたくしを一度ならず、二度も助けようとしてくださるお方……」


 はて、一体シャルロットはなんのことを言っているのか。


「確かに、私もトール殿には、不本意ながら、救われたが……。しかし、死んでもあのような辱めを受けるとは思ってもいなかった! 姫様がシャルとお呼ばせになるなら私は、アンナと呼び捨てください」


 アンナは顔を真っ赤にしながら、俯いている。

 まさか、シャルロットとアンナは、俺が、人工呼吸と称するをしたのをしっかり覚えているのか――。

 俺は、冬の朝の雲一つない青く冷ややかな空のような瞳に捕まる。――それは、ミカエルの少し寂しげな責める様な視線だ。

 背筋に冷たい汗が流れた。

 どうしてこうなった。

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