第12話 絶対違うわ!

 昨日は、思わぬジャックの登場もあったが、一日ダンジョンの清掃作業を頑張った。おかげで、一階の一部の区画は綺麗になり、使用できる状態にできた。


 まず、スケルトンたちに骸骨を集めておいてとお願いしていたのだが、思った以上に骨が集まっていて、ミカエルも俺も若干引いてしまった。

 クリエイトアンデットを唱えること、小一時間、300体のスケルトンが出来てしまった。

 このダンジョンにいる魔物は、調査の結果スライム、俺が作ったスケルトンとジャックだけのようだ。

 スケルトンたちは俺に文句を言わないし、睡眠も食料も賃金もいらないので、アンデットは、貧乏救世主の俺にとって最高の開拓者たちだ。

 スライムは、地下ダンジョン内で自給自足しているようで、食料は特に今のところ必要ない。

 スケルトンたちは、三班に分け、A班を、廃坑エリアに派遣して、骸骨とまだ残っている鉱石を探させ、B班を、迷いの森エリアに派遣して、骸骨を探させている。最後のC班は、階層ダンジョンの清掃、補修作業をしてもらっている。

 スケルトンたちも埃を掃いたり、崩れたレンガを補修したりしてくれている。 

 今日は、俺たちはC班と一緒に、ダンジョンの地上一階部分の補修作業をしている。

 俺は、昨日修復した宿泊所スペースの一角の一室が、布で覆われているのに不信感を覚えた。

 あんなことしたか? 不思議に思って、布をめくる。

 かわいい少女が二人、お互い向い合って寝ていた。

 二人とも、身なりは汚れているが、金髪の子は、着ているものは刺繍やレースが使われており普通の村の子とは思えない。もう一人の青い髪の子は、動きやすい服装で腰にはレイピアのような細身の剣を差している。

 どういうことだ? 怪訝に思って近づくと。

 変に顔色がいい。頬が朱色に染まっていて百合百合しいカップルのようにも見える。

 ふと、寝具の下を見て、驚く。練炭燃やしてるじゃねーか。


 「一酸化炭素中毒かよ!」

 

 俺は覆っていた布をはぎ取ると、慌てて、美少女を一室から運び出す――。もう一人はスケルトンが運んでくれた。騒ぎを聞きつけて、ジャックもやってきた。

 二人の美少女の脈をとる。反応はなかった。

 人工呼吸しないといけないのに、二人も美少女なんてどうするんだ――。

 俺は、口が一つしかないぞ。スケルトンもジャックも口はあるが、息してなさそうだし――悩んでいても仕方ない。

 とりあえず、金髪の美少女の桜色の唇を押し開け、気道を確保すると空気を吹き込む、甘い匂いが鼻孔をくすぐり、心を掻き毟る。はっきりと分かる大きな胸を見ないように、心臓マッサージをする。

 次は、青髪の美少女の、ほのかな朱色の唇を押し開け、気道を確保すると空気を流し込む――。プルンとした唇の感触がする。意識しない様にするが、けしからんほどの大きな胸が目に飛び込む、心を落ち着かせて、心臓マッサージをする。

 うむ、俺は、二人の美少女百合カップルの間接キスを何度も仲介しているにすぎないはず……! そう、いわば、ストローやスプーンみたいな存在なのだ!

 なおかつ、人命救助であって、全くやましいことはないはず。

 そう心に誓い、何度も、何度もクラクラになりながら、使命を全うする。

 しかし、俺が、美少女たちに張り手を食らわされるような嬉しい誤算は発生しないようだ。

 

「死んでしまったのか……」


 俺は、自分の中の感情が抑えられず、呟く。


「旦那、あっしは、死因が老衰だと思いやす」


 ジャックも口を開く。


「――いや、一酸化炭素中毒死だろ! 二人とも、どう見ても十七歳ぐらいの乙女じゃねーか!」


 どこに、老衰の要因があるのだろうか?


「人生十五年でして、花の命は短いんでやんす。旦那、見てくだせい、あのメロンみたいに膨れた醜い脂肪を! 十七歳なんて、ここじゃあ、還暦ですぜ」


 俺は、とんでもないことを言い出すジャックに呆れる。こいつ、絶対ロリコン原理主義者だわ。


「いや、絶対お前の中だけだろ! というか、ジャック早くミカエル呼んできてくれ!」


 俺は、思わず叫ぶ。


「姉御も、一緒に処理っすね! 体のいい、姥捨て山ってわけっすね! あっしも、御の方がいいと前々から思ってやして」


 ジャックは言いたい放題、騒いでいる。


「そうじゃない! まだ、二人とも死んで時間がたっていないと思うから、ミカエルなら蘇生ができるかもしれない! 早く連れてきてくれ――」


 ジャックを急かす。



 ミカエルは、俺と二人の倒れている美少女を睨みながら、不機嫌そうである。


「私も妻として、愛人は覚悟していたつもりでしたけど、まだ、籍も入れていないのに早すぎやしませんか!」

「籍を入れていなければ、妻ではないのでは――」


 ふと思った疑問を口にしかけたが、ミカエルに遮られる。


「事実婚というやつです! しかも愛人二人! 更に痴情のもつれで、ヤッてしまうとは……。大方、私と別れることができないと言ったとたん、彼女たちは豹変して襲ってきたのでしょうが――。グッジョブ、徹さん」


 ミカエルの妄想の中の俺は、ミカエルが最愛の人だったようだ。


「いや、ミカエル待ってくれ! この二人は、俺たちのダンジョンで自殺しようとしていたのかは分からないが、死んでいたんだ! 愛人じゃない」

「そうなんですか。しかし、私たち二人が、愛のために生き返るのに四苦八苦している状況で、死のうなんて、全くイラッてきますね」


 ミカエルは女神様だから、自殺は好きでないらしい。


「ミカエルなら、蘇生できるんじゃないかと思ったんだが――」

「リデュースできますよ。ただ二人が生きたいと思うかは別ですけど……」


 冷たく呟くミカエル。そうだ、魂の3Rの原則は変えられない。


「二人で異世界に行けますよ……って説得してくれないか?」

「へぇ、日本で愛人二人と暮らしたいわけ?」


 ギロリと切れ長の目で睨むミカエル。


「そうじゃない。この前モルゲン商会に行ったじゃないか。売れるアイテムがあまり見つかってなくてどうしようかと思っていたんだ。ガルトの人を日本に連れて行って何か商品の糸口を探りたい。俺たちの救世計画が上手くいくためにはしょうがないだろ?」

「すべては、私との結婚のためなんですね」

「……よろしく頼む」

「分かったわ。リデュースしてみる」


 そういうと、ミカエルは二人の前に立つ。しばらくすると、二人の周りは光に包まれる。

 説得は上手くいくだろうか? 心配しながら見つめる。

 しばらくすると、美少女二人は生き返った。


「ここは、先ほどの建物の中ですの」

「くっ、殺せ!――」


 青い髪の美少女は、リアルなくっころ発言をする。本当にガルトは、くっころが盛んだな。


「君たちは、この廃墟ダンジョンで何をしていたのかね? 関係者以外立ち入り禁止なんだが――」


 俺は、ダンジョンの責任者として、二人を尋問することにした。

 全く、不法侵入者には困ったものです。


「「すいませんでした」」


 二人の不法侵入者は深々と頭を下げた。


「君たちは、ここで何をしていたのかね?」

「わたくしたちには、この世界でやるべきことがあったのですが……。なかなか上手くいかず……」


 見ず知らずの他人に、自殺した理由は話さないか。当たり前か。


「もっと詳しく話してくれないと、分からないのだが……。ちなみに、君たちはすでに、一回死んでいるから。向こうの赤い髪の綺麗な女神様が、蘇生してくださったのですよ」

 

 俺は、ミカエルを二人に紹介する。


「そうなのですか、なるほど、先ほど暗闇の中、異世界へ連れて行ってくださるとおっしゃった女神様にそっくりです」

「信じてくださいましたか」

「「ええ」」


 少女二人はお互いを見やりながら、頷いた。



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