第8話 現物支給ですが、何か?
俺たちは、リリーと三人でガルト救世計画を練ることにした。
「救世といっても、何をすればいいのやら、ゴミ拾いでもするか?」
「トール様、ゴミ拾いで救世できるのですか? スラムの人たちから仕事を奪えば、恨まれるのではないですか? 闇夜に紛れて、後ろから刺殺されるような気が、あたしはするのですが……」
やはり、ガルトと現代日本では人々に感謝されることは、違う可能性がある。
「リリー、ガルトで俺たちは、世界を救いたいんだが、何をすればいいと思う」
「ガルトは、度重なる戦争によって、民は疲弊しているのです。女神ミカエルの庇護の下、神聖トール帝国を建国するべきです」
確かに、一国一城の主になるなど、ロマンあふれる話だが――
「いきなり、スケールのどでかい話ですが……何か方法があるのか?」
「拠点を作り、孤児や貧民を集め、力をつけます。機をみて、反乱を起こし、テュルク王国を手中に収めるのです!」
ふむ、言っていることは分からなくもない。ただ、十歳の幼女の戯言のような気もするが……。考えてみれば、そんな小さな女の子が、テュルク王国を見限っている状況は、相当ヤバいのかもしれない。
「テュルク王国とは、悪の王国なのですか?」
ミカエルがもっともなことを聞く。
「確かに、何の非もない善良な王国だと、さすがに、こちらが悪の帝国になるよな」
「あたしは、シスターです。聖職者ですら、食べ物に困ることがあります。テュルク王国は、長く続く戦乱で国土は荒廃。さらに、国営鉱山が相次いで閉山したことで、金属類の産出がほぼゼロになりました。当然、金や銀、銅が産出できないので、国家財政は急速に悪化しています。租税の税率は毎年上昇する一方、さらに物価は上がる一方、庶民の生活は筆舌に表せないほどの窮状なのです」
リリーは暗い表情である。
「なるほど、テュルク王国自体が、悪いわけではないが国家財政が破綻しかかっていて結果、悪政となっているわけか……」
「しかし、国作りとは――女神である私にできることは、ヒーリングや蘇生ぐらいですし……。徹さんはリッチーですけど、何ができるんですか?」
「確かに、俺は、異世界で何ができるのだろう? 全く自分の能力が分からないな!」
「『オレンジ』で『ステータス』ってアプリを起動してみてください。徹さん自身のことが分かると思います」
ミカエルに言われて『オレンジ』を操作すると、すぐに『ステータス』を発見、起動してみる。
すると、ミカエルとリリーの近くの中空に、ゲームで見慣れたステータス画面が現れる。
………………………………………………………………
名前:ミカエル(星野 美香)
職業:経営者・女神
年齢:22(16)
状態:普通
スキル:補助魔法・回復魔法
特殊スキル:蘇生魔法・転生魔法・転移魔法
称号:女神
備考:無し
………………………………………………………………
名前:リリー・カルボスティン
職業:シスター
年齢:10
状態:隷属(ミカエル)
スキル:補助魔法・攻撃魔法
特殊スキル:
称号:使徒・不運に愛されしもの
備考:無し
………………………………………………………………
なるほど、二人の情報が分かった。
………………………………………………………………
名前:波多野 徹(トール・ワーカホリック)
職業:会社員・リッチー
年齢:27(17)
状態:労働契約(ミカエル)
スキル:攻撃魔法・防御魔法
特殊スキル:召喚魔法・現物支給
称号:女神に愛されしもの・救世主?
備考:お前はもう死んでいる!
………………………………………………………………
俺の情報も表示された。なんだか、異世界じゃなくて、世紀末に転移した人みたいな感じがするが、気のせいだろう。特殊スキルとして、召喚魔法・現物支給なるものが使えるらしい。
「ミカエル、俺は、召喚魔法と現物支給という、特殊な才能があるらしいが……名前だけでは、何ができるのかよく分からんな」
「徹さん、自分のステータス画面を指でタップしたら、詳細が分かりますよ。多分」
「そうか――」
………………………………………………………………
特殊スキル:
召喚魔法
リッチーとして、アンデットを召喚することができる。召喚する場合は、素材を集めて、その前で「クリエイト・アンデット!」と叫びましょう。
現物支給
命の保証のない異世界業務には、特殊勤務手当、時間当たりの賃金加算が必要ですが、遵守されないのが現状です。天界では、異世界システムに強制的に組込むことで、労働者の権利を守ります。労使交渉により、支給方法を変えることは可能です。
現地でアイテムを作成することができる。作成する場合は、素材を集めて、その前で「クリエイト・アイテム!」と叫びましょう。
少しでも、労働環境が良くなることをお祈りします。
…………………………………………………………………
俺は、説明文を読んで、疑問を口にする。
「ミカエル、俺は、リッチーだから召喚魔法でアンデットを作れるのは、納得できるんだが、この現物支給というのは――」
「徹さんの異世界での手当を出してたら、私の会社、完全に赤字ですから――。しょうがないですよ。ただでさえ、私と結婚するために、残業時間が、青天井になるでしょうし!」
ミカエルは、ばつの悪そうな顔をしている。就職して一日で、残業時間、青天井宣言とかどんだけ――だけど、生き返るのには死ぬ気で頑張らないといけないのは、理解している。
そういえば、俺、もう死んでた。よく忘れるが……。
「私も、手当あげたいと思っているんですよ! 顧客にはスマイルをタダであげてますが、従業員には、もう身体をあげるしか――」
ミカエルは、顔をほんのり赤らめている。
「ミカエルが、社長として責任を果たそうとしているは、痛いほどわかる。俺は何も、現物支給に不満があるわけではないから大丈夫だ!」
とりあえず、後が怖いので、従業員特典は断っておこう!
「それならばいいのですが……」
「ああ、現物支給でいい! リリー何か、アイテム作れる素材とか持ってないか?」
不満げなミカエルをたしなめながら、リリーに話題を振る。
「えぇっと、あたしが、今持っているのは、薬草が10本ぐらいですかね。ポーションの材料ですよ」
「ああ、それでアイテム作成の練習をしてみよう」
リリーは、花の刺繍が入った肩掛けカバンの中から、薬草を取り出しレジャーシートの上に置いていく。
俺は、クリエイト・アイテムを使うため、大きく深呼吸をした。
「クリエイト・アイテム!」
俺は、大きく呪文?を唱えた。
すると、薬草10本は、ガラス瓶に入った液体10個に変換されていた!
「徹さん、マジシャンみたいです!」
「本当に、トール様は救世主様です」
ミカエルは、種があると思っていて、リリーは、奇跡だと思っているようだ。
俺は、心の中で『主よ、種も仕掛けもないことをお許しください』と感謝を述べてみた。
「リリー、俺は、ガルトの常識から考えてやはり、凄すぎるのか?」
「凄すぎです! 薬草10本からポーション10個作るのが凄いです。普通に薬師が作ったら1個分の材料です。それだけでも凄いのに、ガラス瓶に入った製品になるなんて、もはや奇跡です」
確かに、手品でもない限り、ガラス瓶に入った製品ができるのは異常だよな。今後は人目を避けて、変身じゃなくて――、作成しないといけない。
「リリー、ポーションはいくら位で売れるんだ?」
「銀貨2枚、約2000ガルぐらいでしょうか」
「徹さんは、お金のこと分かってるんですか? 私、ガルトの通貨とかさっぱりです」
「ミカエル、安心しろ。俺も全く分からない。リリー、すまないが、ガルトのお金のことについて教えてくれないか?」
「ええ、いいですよ。あたしたちの世界では、単位はガルです。通貨として金貨・銀貨・銅貨・10ガル青銅貨・1ガル青銅貨が使われています。あたしの財布の中に銀貨、銅貨と青銅貨が入っていますから、見せますね」
くすんだ丸い銀貨が1000ガル銀貨で、大きい丸いのが100ガル銅貨、穴が開いているのが10ガル青銅貨、一番小さいのが1ガル青銅貨だと説明を受ける。
リリーが持っていない金貨は、10万ガルらしい。
リリーのお財布には、銀貨は1枚しかなく、合計2798ガル入っている。
「リリー、財布に2798ガル入っているけど、これは、生きていけるのか?」
「トール様は、計算が得意なのですね! 宿に泊まらなければ、後10日位は生きていけると思います」
「野宿だと、1日300ガルで生活できるのか。宿屋は高いのか? リリー、あんまり無理するなよ」
「ありがとうございます、宿は場所にもよりますが、1000ガル位必要です。」
「そうなのか。俺たちもお金を稼がないといけないな。リリーにばかり苦労は掛けさせられないから」
「本当にありがとうございます。トール様」
リリーは深々と頭を下げる。
俺たちは、明日また会う約束をすると、リリーと別れた。
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