第5話 異世界へGO!

 異世界ガルトへ行くために、準備をしようと思う。

 とりあえず、スーツ姿で行くのはまずいと思ったのだが……。


「なぁ、ミカエル。異世界って何着ていけばいいんだろうな?」


 やっぱり、異世界でも変な恰好は目立つからな、慎重に検討しないと!


「異世界用の村人Lサイズと村娘9号サイズが何着かあったような……」

「そんなのあるんだな!」


 準備のいい会社である。


「転移タイプ転生の人には、一応用意してあったりするんだけど、みんな女神からギフトもらうと、足早にいなくなっちゃうから――。別に異世界以外で使えないゴミスキルなのに、返せって言われると思っちゃうのかな? 何でなんだろう?」

「俺にも、分からんぞ」


 転生者の皆様すいません――。女神様の素朴な疑問らしいです。


「武器とか必要かな?」

「特殊警棒とサバイバルナイフと包丁ぐらいならあるけど……。それ以外は現地調達かな」


 刃物が普通に準備されていることに、ちょっと怖いなって思ったけど、気のせいだよね?


「そういえば、異世界へのしおりってパンフあったっけ?」


 ミカエルは、机をゴソゴソ探している。


「なんだ、その修学旅行のしおりみたいなのは……。意外とあると便利だけど」

「そうだよね。気づかないところもあるから、こういうマニュアルって意外と最後の確認にはうってつけだね」


 そういって、緑色の異世界のしおりなるパンフレットを見ながら最終チェックをする。


「俺は、家の防災袋を持ってきた。他に必要なものは、お金とか?」

「ガルトのお金はここにはないわ。とりあえず、私が持っているウィーン金貨・銀貨を何枚かもっていきましょう」

「わかった」

「じゃあ、私は、村娘にコスプレするから――。更衣室覗かないでよ。絶対だからね」

「わかった」

「そこは、覗こうよ……」


 ミカエルが、消え入りそうな声を発すると、更衣室へ向かっていった。


 しばらくして、村娘に扮した我らが、女神ミカエル様がいらっしゃった。

 やはり、美人は何を着ても似合うものだ、なんだか胸のあたりの布地が余っているような気もするが――。気のせいだ。


「準備も終わったことですし、とりあえず、第一回目の異世界ガルトへのデートをしますよ」

「デートじゃないよ。仕事で出張だから……」

「私の会社では、異世界出張に男女で行くことをデートっていうんです!」


 謎の社長命令である。


「わかりました」


 素直に、命令にしたがう。

 事務所の入り口から左側に二つのドアがある。その手前のドアをミカエルは開けた。


「徹さんも入ってきてください」


 ミカエルに促されて部屋に入る。

 部屋の真ん中にはドアだけが三つあった。何て異様な光景なんだろう――。


「この三つあるドアが、転移ドアですからね。これで、転移します」

「なあ、ミカエル。異世界ガルトのどこに出現するとか決まってるのか? いきなり海の上とか、空の上だと困るんだが……」


 もし、そんなことがあるんだったら、浮き輪かパラシュートが最低限必要だ。


「一応地上以外だと、セーフティーロックがかかりますから、ドアの上と下につまみがありますよね! あれが、自動ロックされます。それでも行きたい場合は、上と下を解除して、鍵を開ければ行けなくもないですが……」

「とりあえず安心設計されていて、ほっとした」

「まぁ今回は、現地協力者のカルボシステインさんのいらっしゃる教会の近くの林ですから――」

「現地のカルボシステインさんに事前連絡とかできないのかな?」

「えっと、無理なんですよ。連絡する手段ないですから……。居ないとちょっと困りますけど、しょうがないです」


 ミカエルは残念そうに言った。


「それは、運まかせだな……。しょうがない」

「徹さんスマホなんですけど、異世界で使えませんから、持っていくなら機内モードか電源をオフにしてください」

「分かった」

「最後に、徹さんは私と異世界で離ればなれになったりしたら、助けてもらいたいですよね?」

「それは、ミカエルに助けてもらいたい」

「ですよね。そんな一蓮托生なふたりには、会社から異世界仕様スマホ『オレンジ』を支給します。お揃いのスマホですよ! ペアアイテム」

 

 鬼ペア押しのミカエルさん。


「なんかすごそうなアイテムだけど、異世界と日本が繋がるとか凄いな!」


 なんか、これだけで、異世界無双できそうな予感がする。


「えっと、期待してるところすいません。『オレンジ』は異世界内で近距離のトランシーバー的な役割と緊急位置発報システムが3日使用できる機能及び日本国内の通話ができます以上!」


 申し訳なかったのか、ミカエルが早口で説明を終了した。

 異世界でトランシーバーや緊急用位置発報システムが使えるだけでも凄いお守りのようなものだ。


「ミカエルありがとう、大切に使います」

「えっ、うん。大切に使ってください」


 ミカエルは驚いたような、照れた顔をしている。

 コホン。と咳払いをした。ミカエルは、三つの転移ドアのうち一番左の転移ドアの前に立つと鍵を差し込んだ。

 

 「徹さん今から、異世界ガルドに転移しますからね! 両手は私と恋人つなぎですよ! 後、抱き締めてくれないと上手くいかないと思います――。 嘘じゃないですから! もっと密着しないとダメだったら……」


 初めての転移で緊張していた俺は、不意打ちを食らった。

 ――ミカエルは、神速で抱きついて、手は恋人つなぎ。俺は、甘い匂いでクラクラしそうな状況になっていた。ミカエルは攻撃を緩めないので、ミカエルのささやかな胸と転移ドアに挟まれたと思ったら――。

 次の瞬間、俺はミカエルに異世界ガルトの地面上に押し倒されていた!

 背中と頭がメッチャ痛いんですが!


「ミカエル! 近すぎるから――頭打って痛いから! 早く立ち上がってくれ」

「――てか、ミカエル小さくなってないか?」


 抱きついたまま離れないミカエルは、日本にいる時より、少し身長が低くくなっているような気がする。


「やっぱり、異世界に行くと若返るんですね♡ 転生七不思議とか言われていて信じてなかったんですけど、本当だったんだ! 私、小学生ぐらいですかね?」


 いそいそと、ポケットからコンパクトを取り出し、容姿を確認しようとしている。

 いや、いくらなんでも小学生は若返りすぎだろう! 見た感じ、女子高生ぐらいか? まて、ということは――。


「なあ、ミカエル、俺も若返ってるのか?」

「うん。徹さん、高校生ぐらいかな? 昔は、今よりカッコ良かったんだね!」


 異世界転移すげー! やる気がでてくるね!


「しかし、何で若返るんだ?」

「若返ると、清々しい気分で青春を感じて、やる気でるからじゃない? 七不思議では、昔、ヘンシュウブとかいう神様がいてね。『祟りじゃ〜っ! 部数が伸びるんじゃ~っ』とか叫んで、懐中電灯を頭に巻いて、刀を振りかざして、転生転移システム開発村で暴れたらしいの。これ――実話らしいよ。それから若返るらしいけど……」

「ふむ、『地獄への道は善意で舗装されている』というが、ヘンシュウブも皆に、青春を感じてもらいたかったんだろうね……。その熱い思いが、彼を豹変させてしまったのかもしれません」

 

 俺は、頭を掻き毟りながら、神妙な声で答えた。 


「徹さん、フケが凄い。お風呂入っている? てか、突然どうしたの? ゴメンね。さっき抱きついてた時、頭打って痛かった?」


 ミカエルは、痛いの痛いの飛んでいけをしてくれる――。かわいいな!

 若返ったミカエルに気を取られていたが、周りをキョロキョロと見渡してみる。

 見覚えがないはずだが、知っているような雲一つない青い空。

 周りの植物は特に奇妙な外見をしているようには見えない、普通に日本でも見かけると言えば、見かけるような何の変哲もない林だった。


「帰るときはどうするんだ?」

「社用スマホ『オレンジ』のアプリから、転移ドアを起動したら、ドアが現れるので帰れますよ」

「なるほど、『オレンジ』は色々便利だね」

「ええ、他にも機能がありますので、おいおい説明していきます」

「今日の目的、カルボシステインさんのところに行こうか?」

「そうですね」


 ミカエルと二人、林を移動することにした。

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