第2話 何気ない一言が……、重要♡

 それから、しばらく美人女神様をチラチラと横目で見てみる。

 紺色のリクルートスーツ姿で、スカートに黒のパンプスだ。真新しいので、多分入社したての新人さんかなという印象。大卒したてぐらいだから年齢は、22歳位か……。

 どんなに、頑張ってもプロトラック運転手には見えない。

 なるほど確かに、デコトラは営業用ではなく、自家用だなと妙に納得してしまった。

 チラチラと女神様を見ていたら、彼女の青い瞳に見咎められてしまう。

 二人で気まずい雰囲気の中沈黙していると、女神様が口を開いた。


「あの――、そういえば、私、自己紹介していませんでしたよね?」

「そうですね、女神様としか伺っていませんね」

「私、ディーヴァエージェンシーの星野 美香といいます。実は名刺交換って、今日が初めてで憧れていたんですよ」


 女神様は嬉しそうに、にっこりする。

 やはり、新人さんだったようだ。

 名刺入れから、ぎこちない動作で名刺を取り出し俺に手渡そうとする。

 名刺には、


『株式会社ディーヴァリインカーネーション 個人営業部営業第三課 ☆野 美香』


 と印刷されていた。

 本当に色々ツッコみたい!

 まず、なぜ、星を☆にしたんだろうか?

 キラキラネーム過ぎるだろうがよぉ――。

 夜のお店のおねーさんたちの名刺の方が、よほどまともだ。

 しかも、会社名が自己紹介と違わなくないか?


「えっと、星野さんは、日本に来て間もないのかな?」


 日本人離れした容姿から想像していた質問を飛ばす。


「そうなんですよ~。三日前に日本に来たばかりです」


 なるほど、日本文化に慣れていないのか!

 残念美人女神でなくて良かった!


「名刺の星って印刷が記号になっているよ? 後、会社の名前が紹介と違わない?」


 俺は、社会人の先輩として優しく指摘してやった。


「やだなぁ。星はキラッ☆って感じでそうしたんですよ。てへぺろ。会社は先輩殴って、三日で孫会社に出向になっちゃって……。今はやられたら、やり返す、恩返しだって……。謙虚に頑張っています……」


 女神様は消え入りそうな声で答える。

 ギャルっぽいし……、学生気分抜けてなさすぎだろ――。


「色んな意味で、首にならなかったのが不思議だわ! 本当に、恩返ししなさいよ!」


 孫会社出向で済んで本当に良かったと思う! 会社が悪くないのは十分すぎるくらい理解できたので、取り敢えず叱咤激励しておいた。


「コホン。色々とインパクトがあって、本当に申し遅れましたが、私は波多野 徹といい……」


 名刺を探しながら、自己紹介をしようとすると女神様に遮られた。


「波多野さんのことは、資料でよく知っています。私の初めての相手になる予定だったんですから……」


 女神様は色っぽい声で、さも残念そうに呟く。


「なにっ、何の事を言っているんですか……」


 思いっきり動揺してしまった。


「転生よ! 初めての、トラックで轢いて転生!」

「えっ……」


 思い出した!

 こいつ、サイコパス残念美人女神だったわ――。


「女神みずから、トラックで轢き殺して転生することに、一部の左よりの心無い方々がクレームつけそうですが、私としては……」


 一部ではなく全部。左というか、全方向から疑問がでるだろう!


「波多野さん、聞いていますか!」

「はい……」


 女神さまの強い口調に思わず返事してしまった!


「前の会社で、先輩が煎餅食べたり、L○NEしながら、死んだ人の経歴を馬鹿にしつつ転生サポートするのを、研修で見ていたら、何か違う! と思って……」


 いつの間にか独白が始まるし、遮りづらい。

 転生女神にも、クズっているんだな。


「うん」


 とりあえず相槌を打った。


「あいつには、取るに足りない残念な人生を送った奴でも、馬鹿にして良いわけない! それに女神にとっては、当たり前の日常業務でも、相手にとっては、非日常なんだよ? 初めてで、苦しんで、困っている人を、何とかしてあげたいじゃない?」

「そうだね」

「そして、口論の末、先輩女神を殴って、孫会社に出向ですよ……。馬鹿でしょ?」

「そんなことはないと思う……。けど暴力は……」

「でも、私は、信念を持って女神をしたかった。だから、波多野さんのリユースを成功させる! 万全の態勢でリユースしてやる! えぐっ……」


 女神様は涙声になりつつある。

 えっと、サイコパスで、残念美人だが、意外といい女神様らしい。

 女神様は涙をこらえて、言葉を紡ぐ。


「人の死を画面で確認して、ただデスクワークで転生をするのは、血の通った人間臭さというものがないと常々感じていました。なんというか女神としての慈悲を感じないんです。そもそもやる必要あるのかなと……」


 就職して三日で、自分の仕事、全否定ですか。


「私は、仕事してる真の実感がほしい! 自分で手をくだそう! ぶっ殺してやる! そう思っていたので今日は残念でした……。やり返すとは言わないけど、先輩を見返したかったなぁと……」

 

 どうして、その結論に至るのか……。

 やっぱり、サイコパスで、残念美人。


「まあ、そんな先輩女神いたら、誰だってムカつくと思うよ。そう俺だって、殴る!」


 とりあえず、フォローする。


「えぐっ、やっぱり、波多野さんは、ただの霊魂じゃないですよ。何ていうんですか……。そう、英霊! 聖杯とか余裕でワンパンじゃないですか?」

「いや、ただの人間だと思いたいんだけど……。聖杯を粉々に壊せてどうするだって感じ」

「波多野さん、超ウケる――。ねぇ、徹って呼んでいい?」


 何か面白いとこあったか? なんか知らんが好感度が上がっていないか?


「いいけど、俺も名前で呼んでいい? でも、星野 美香って偽名ぽいけど? 女神様の本当の名前はなんていうの?」


 いい子っぽいんだけど……、アクが強すぎないか? まだ胡散臭いんだよなぁ。


「ちょ……、いきなり、女神の真名マナ聞くとか……」


 女神様は、雪のように白い頬を赤くして、オロオロする。

 なぜ、照れる? よく分からん。


「星野 美香だから、ミカエルとかかな?」


 何気なく思いついたことを呟いた。まぁ、普通は大天使ミカエルだしな……。


「嘘でしょ……。真名マナを呼ばれるとか、もう運命じゃない! こうなってしまった以上、徹と結婚するしかないじゃない!」


 俺は、いつの間にか、女神様の真名マナをオヤジギャグ的なノリでずばり的中させてしまったようだ。

 賞品は、女神ミカエルとの結婚!

 大当たりです。

 今日は、自分がリッチで、美人の彼女が突然出来たりと驚愕の出来事が連続だな。

 少年マンガ雑誌とかによく載っている怪しい腕輪の広告みたいだ。

 腕輪をはめた覚えも、身に着けている感触もなかったが、だんだん不安になって自分の両腕を確認する。

 もちろんそんな怪しい腕輪は、どこにも無かった。

 呪いとかじゃなくて良かったと思う反面、厄介なことが指数関数的に増加していく現状が恐ろしい!

 これからどうすればいいのか、考えがまとまらない。


「どうしてこうなった」


 思わず、本音が出てしまった。


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