第8話

 翌日。朝教室に着くとアリシア、虎娘、凱世が其々暗い表情で席に座っていた。かく言う環もいつもの自信に満ちた表情は消え失せどこかもの暗い表情をしていた。理由は昨日の掛朝燕の件である。と、環の様子がおかしな事に気付いた焔丸がふらふらと此方に近づいてきた。


「おやおや?環君珍しく落ち込んでる?ダメだよ環君。落ち込んでたら狩りがいのない。」


 別の意味で落ち込み始める焔丸に思わず苦笑する。多分この子は彼を見た後でも変わらないだろう。そんな気がした。

 とりあえず纏わりつく焔丸を離しつつ席に座る。するとアリシアが大きな溜め息をついて環に話しかけた。


「ねぇ環。。どうするの。」


「…僕ので何とか出来ないなら恐らく魔術師ぼくらじゃどうしようもないかもしれない。」


「そんな簡単に言うけど貴方、あれを何とかしないと連覇なんて出来ないわよ。」


 アリシアの言う通りである。掛朝の術を封じない限り彼は必ず上がってくる。ともすれば当然1位を取り10連覇を成し遂げる事など到底できるものではない。それどころかLoMに出る事すら危うい話である。


「まずは校内戦。そこで見極めるしかない。僕も今回ばかりは。けど、最終的にLoMで勝てばいい。それだけさ。」


「確かにその通りだ。だが、あの者を止めるには武術の点でも問題があがる。例えあの力を封じたとて元々身に付けている武術も相当だ。」


「はは…武極覇王にそうまで言わせる…前途多難ネ…。」


 いつの間にか輪に入っていた凱世と虎娘。そして4人は溜め息をつきこの先の事について考えるのであった。


「まずはチームかぁ。私は環と戦いたいから別のチームでやるつもりだけど2人は?」


「無論私もネ。アリシア、私と組む?」


「それは面白いわ。喜んで‼︎」


 すっかり意気投合した女子2人に苦笑していると凱世は頷きながら環の肩に手を置いた。


「では俺は荒魂と組もう。王にされた意趣返しの礼をせねばな。」


「えっ、けどそれだと僕と戦えないよ?」


「何、敵対者だけが資格ある訳ではない。いつでもできるだろう?」


 ニッと微笑んだ凱世に対し確かにと頷いた環。肩に置かれた手を取り、そのまま握手を交わした。


「さて、残るは互いに1人だけど、順当に行くなら武術家なのかしらね。」


「アリシアさんと虎娘さんの場合ハイブリットだからどちらでもいけそうではあるけどね。」


「そっちも環は武術出来なくても人形が前衛出来るでしょうし、そもそも凱世君とのJPリーグツートップなんだから選びたい放題でしょう。」


「いや、萎縮して誰もこないってのもあるネ…お互いにネ。」


 それを聞いて確かにと頷く。片やEA覇者とEU覇者。片や公式戦無敗王者と武極戦覇王。これだけでも既に他の生徒はお手上げである。単純に強すぎる為残りの1人が浮く姿しか思い浮かばなかった。


「お、何々?4強で2組作ってるの?うわー、怖いなぁ。」


 すると、横からアルヴェイド、柳生、メイナの3人が現れる。どうやらこの3人でチームを組んでいるらしく好戦的な笑みを浮かべていた。


「そっちもそっちでGE、USA覇者と武極2位でしょ?中々えげつないわ。」


「えげつない…のはあれ。」


 苦笑したアリシアがやれやれとばかりに肩をすくめると苺ジュースを飲んでいたメイナが後方を指差した。するとそこには


「環君…えへ、えへへ…。」

「屍が一つ、屍が二つ…。」

「………。」


 焔丸と舞花。そしてクラス全員かつ窓際の10人の中で唯一女子が一緒に居た。どうやらこの3人も同じチームらしい。


「何とも暗い。メイナあそこじゃ無くて良かったね…。」


「私は無表情で静かなだけ…。暗くはない。いえあ。」


 表情変える事なく親やを立て棒読みでノリの良さをアピールしたメイナに驚きつつ目は名前の知らない女子へと移る。何故彼女は名乗らずに居たのか。そもそも何故ラディはその事を黙認しているのか。その理由は謎のままだった。

 とはいえこれで10位以内全員のチームの処遇が決まった。都合よく下位とバランスを取ったチームではなく各々が勝つ為に選んだ妥当4強を掲げているチームである。


「…まぁ僕達を倒す事を考えてくれるのは上に立つ者として嬉しいけど先輩達も居るんだよね。中々キッツイ人居るんじゃない?」


「うっ…忘れてたネ…子龍ジーロン兄さんいるネ…」


「王子龍…?え、それって…。」


「U-18国際交流戦アジア代表。類稀なる魔術は勿論長物を用いた中距離武術、斬馬刀を用いた近距離武術、徒手空拳を用いた至近距離武術において右に出る者がいないと言われた中国最強の王者。U-18界隈においてLoMのみの伝説と言えば荒魂を指すが武極とLoMを両方制した彼はまさしくU-18の伝説だ。」


「ちなみに僕は公式戦では当たってないけど国際交流戦では何度か手合わせした事あるんだ。その時虎娘さんも一緒に居て見られてたけど結果は完敗。こちらの魔術を正面から抑えられたのはあの人が初めてだよ。」


 凱世と環の話を聞いて顔を青くするアリシア。同様に気まずそうな虎娘は苦笑いしながら頭を掻いていた。


「まぁ目下の目標は子龍さんとかよりまずは校内戦で上位に入る事かな。少なくとも学年で3位以内のに入らないと届かなさそうだし。…後1人誰にしようか余計迷うねこれ。」


 環の言葉に頷く3人。すると、教室の扉が勢い良く開けられぞろぞろと生徒達が入ってきた。だが、その顔ぶれは昨日見たクラスメイト達ではなく胸についてる組章も色が違う。どうやら先輩方らしい。


「さて諸君。LoMに向け校内戦が来月から行われるんだけどどう?面子固まった?」


「ある程度は…ところで貴方達は?」


 突然の来訪に顔色一つ変えない環を見て何度か頷いたリーダー格の女子が胸を張り手を当ててえへんと言う。


「よくぞ聞いてくれました。皆の衆傾注傾注。この可憐な私こそが今年度の生徒会長を務めるスーパースター。御影亜衣里ミカゲアイリよ。そしてここにいるのが雑用の王子龍。」


「うっす。」


「せ、生徒会長と…王子龍さん⁈⁈」


 思わず目を向けてしまうと、大量の資料を1人で待たされてる上に御影の身長をごまかす為に準備したであろうお立ち台、更には『御影様御一行』と書かれた旗を背負い恐らくこれも彼女の物であろう大量の鞄が肩にかけられてた。


「…子龍兄さん。やっぱ女性の頼み断れないネ…。」


「ぬ?その声は虎娘か。息災か?」


「な、なんか試合した時との雰囲気が違いすぎて頭痛してきた…。」


 資料の山から顔を覗かせ虎娘に笑顔を送る子龍に思わず頭を抱えた環だが、一瞬生まれた鋭い視線に気付き思わず体を強張らせる。周りを見てみると10位以内の者全員同様に反応しており、舞花に至っては両手に短刀を構え生徒会長を睨みつけていた。


「成る程成る程…。そこの10人は合格…ってよく見たらそりゃそうよね。去年騒がせた強者8人とそちらの2人は当たり前よね。うんうん。」


 にっこりと笑みを浮かべた御影はお立ち台から降り(当然ながら子龍がそのお立ち台を脇に抱えた。)こちらに背を向ける。


「今年の強者さん達ちょーっと生徒会長様とお茶して欲しいんだけど。先生には言っておくからHR出ないで生徒会室においで。拒否権は…あるけど死ぬよ?」


 ニコニコしていた生徒会長が目を開く。その瞬間立ちくらみを起こす程気持ちの悪い殺気が教室を襲った。その凄まじい威圧に思わずへたり込んだ環達は首を縦に振って彼女の後をついていく事にするしかなかった。

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ステ=魔力以外0の人形遣いだけど何か?? 米堂羽夜 @zys

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