第2話
空中でエレインを捕らえた
あまりに一方的な試合展開に観客はおろか実況ですら声が出なくなった。まさに蹂躙。人智を超えた力ですら及ばぬ暴力の境地。その奔流に飲み込まれたエレインは刻印を露出する程魔力を注いで乗り切ろうと試みる。
「それを待っていたッ‼︎
瞬間、エレインの刻印に手をかけた魔喰は神々しく光る右手で彼から刻印を引き抜いた。
「なっ…うっウガァァァァァァッ⁉︎⁉︎」
身悶えながら何とか魔喰から離れたエレインだが、刻印が引き抜かれた箇所から炎が溢れその身を燃やさんとしていた。刻印を失った事により系統魔術が制御不能になったらしい。
「次は左手 だッ‼︎」
「やっやめっ… アガァァァァァッ⁉︎⁉︎」
今度は氷系統を引き抜いたのだろう。燃え盛る右半身に対し左半身は凍りつき、最早戦闘など不可能 となっていた。しかし試合は終わらない。成人した者達が参加するリーグオブメイジでは試合の審判は居らず、勝敗判定は互いの合意である為、敗北を口にするか死ぬかしかないのである。だが、あまりにも凄惨な現状に対し皆一様に試合の中断を望んでいた。そしてそれはこの試合を放映して居る各局は勿論、視聴者ですら切に願う程の状況。その為差し替えで2人のこれまでの人生を流し始める局までで始めた。
一方、会場では当たり前だが差し替えなど行われる訳が無く、身動きが取れなくなったエレインに対し魔喰は最も憐憫に輝く額の刻印…精霊魔術を司る場所に手をかける。
「なぁエレイン。お前は昔『魔術を使えない者の気持ちは永遠に分からない。何故なら俺には精霊から描かれた唯一無二の刻印があるから』と俺に言ってたよな。
だったら良かったじゃねーか。永遠に分からない事がこの先理解出来るようになるぜ?」
「ふっ、ふざけるな…っ‼︎お前の様な落ちぶれた存在が、俺の刻印にこれ以上触れるなどー」
「いやいや、今日を境にお前が落ちぶれ者になるんだよ。俺が勝ち武が天下を取る。そしてその生贄としてお前は刻印を失う。今日まで長かった。漸く…漸くあの人との約束が守れる…ッ‼︎」
魔喰はエレインの頭を鷲掴みにし、そのまま刻印を掴んで勢い良く引き抜く。彼の断末魔が響く中、空を暗転させる程の魔力が溢れ出した体からは人ではない何かの虚像が浮かび、宿主であるエレインを飲み込んだ。
やがて、悲鳴や騒めきが響く場内の中魔喰は光が差し込んだ空に向かって拳を突き出し、言葉を発する事無く何かを思い詰めた表情で拳を収めた。
ーその後、動揺した実況による勝利を言い渡された魔喰は全て局のカメラマンを集めた。
「全国の魔術師並びに魔術を持たず日々蔑まれてきた人間に告ぐ。今この瞬間魔術が支配する時代は終わった。人は人を超えた力では限界まで力を高めれない。だが、武は違う。人の枠にあるからこそ、その極致を、頂を見ることができる。無駄に背伸びをするのでは無く、その身の丈にあった力こそ真に強き者を育てるんだ。だから全ての少年よ。体を鍛えろ。強くなって全てを掴め。魔術に頼らなくても人は空を飛べる。高みへ登れる。強くなれ。以上だ。」
それだけ言うと、魔喰はカメラに背を向けフィールドを後にする。時代を否定した男の背をカメラは動く事も出来ずに捉えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます