ステ=魔力以外0の人形遣いだけど何か??

米堂羽夜

エピローグーその時、時代は動いた。ー

第1話

 いつの時代も、終わりというのは唐突である。


 いや、正確には変調する気運は徐々に高まっており漸く…なのかもしれないが。

 兎も角、直接的に関わっている者以外からするとその変調は突発的であり、ある種犠牲者と言うべきなのかもしれない。


『10年…いや。彼らが初めて顔を合わせた日から始まった2人の因縁は大迷惑な事に全世界を巻き込んで今日、決着がつけられます‼︎

 まず青の陣営から現れたのは"魔術王""マナの意志""精霊誑し"などと呼ばれし今代最強の魔法使い‼︎

リーグオブメイジ1位にして無敗王者。『魔導天帝』エレイン・J・アルマルスの登場です‼︎』


 ライトアップされた搭乗口の脇から水が上がり、雷が生まれ風が吹き炎が爆発する。一見不可思議な現象はさながら魔術を極めた彼に相応しい派手な演出であった。


『続いて赤の陣営から現れたのは"大陸崩し""人間の極致""時代に愛されなかった男"などこちらも沢山の2つ名で呼ばれています。今代最弱の魔術師にして人類最強の格闘家‼︎

リーグオブメイジ2位。『欠落拳帝』魔喰牙マグイキバの登場です‼︎』


 空間内に響くアナウンスの声をかき消す爆音が放たれる。搭乗口を気迫だけで弾き飛ばした魔喰牙によるものでった。


『2人の因縁はただ1つの劣等感から始まりました。魔術師が世に現れ数100年。学生当時魔術の天才と呼ばれていたエレインに対し、無能の烙印を押されていた魔喰は当然の惨敗。その折にエレインから退学を促された魔喰の反抗からでした。

 同学年である2人は事ある毎に反発を起こしその度に何度も争い遂には学生魔術師の祭典であるリーグオブメイジのU-18大会決勝にて激突しました。

 当時の事を未だに覚えている方が多いでしょう。あの日血だらけになりながら戦った勇士を。その末に栄光を手にした魔喰の姿を‼︎

 あの日以来無能力者の扱いは改善され始め、今ではしっかりとした共学になりつつあります。


 …だが、この男達の報復劇はそれだけでは済まなかった‼︎卒業後本リーグで栄光を手にしたエレイン

が言い放った一言により再び炎上‼︎

"魔喰。この地で貴様を叩き落とす。今度は俺が挑戦者だ。さっさとこい。"

…全くこの男達は互いを敵として見做さなければ生きていけないのか⁈』


 2人の因縁を語る実況の言葉に熱が篭る。それに合わせ会場や配信を見ている人々の手に汗が握られていく。


『無論挑発に応じた魔喰は破竹の勢いで本リーグを登り詰め今日‼︎2人の因縁に終止符を打たんと現れました‼︎‼︎』


 リングの中央で睨み合う2人。戦いの気運は高まり、開始から熱い戦いが想定される。


「……この地位に登り詰め早5年。貴様を叩き潰す為に様々な経験をした。故に返してもらおう。魔術の世を。貴様らの様な欠落者は欠落者として地べたを這う世を戻してもらおうじゃないか‼︎」


「はんッ。何かと思えばそんな事か。馬鹿馬鹿しい。お高く気取ってろ天才が。全てを見下して成り上がったお前と、全てから見下されてきた俺とは確かに立ち位置が違う。だがな。何度でも教えてやる。努力は皆平等に応える。立場に甘えたお前と立場を弁えた俺じゃ深みが違うんだよ‼︎」


『両者士気を高め後は合図を待つばかり‼︎それでは全世界の皆様‼︎運命の戦いまで……3.2.1.GO FIGHT‼︎』


 戦いの火蓋が切り落とされる。合図と共に駆け出したのは魔喰の方だった。


『開始の合図と共に動き出したのはやはり魔喰牙‼︎神速の踏み込みでエレインの懐に入り込んだ‼︎』


 魔喰の姿が消えてから響く爆発音。初速から音を置き去りにする蹴り出しは生半可な魔法では傷1つつかないフィールドに罅が入る程力が込められていた。


 対するエレインの行動はゆったりとした動きで魔喰の突貫をいなしつつ、的確に捌きながらの平行詠唱を始める。


 だが、魔力がエレインに集まり始めた瞬間、突然霧散し、そのまま魔喰の右手へと再び収束する。



『出ました‼︎魔喰牙の十八番‼︎‼︎相手の魔力を奪い去る対魔術師奥義"喰丹クイタン"です‼︎如何なる原理かは未だに不明。ですが、彼と彼が所属する道場門下生のみ使えるこの技がある限りクロスレンジでは勝てないでしょう‼︎』


 魔力を削がれたエレインは苦虫を噛み潰した表情を見せつつ、一度空に浮き上がり距離を取る。そうする事で魔力を持たない魔喰から距離を取り、魔術を放つ算段らしい。


「そうなるのもお見通しだ。空が好きなら好きなだけ飛び上がれ‼︎穿て、天竜の咆哮‼︎対魔式奥義"天崩テンホウ"‼︎‼︎」


 対し魔喰は宙に浮くエレイン目掛け先程魔力を纏った右手を突き上げる。瞬間、エレイン目掛け一直線に爆発が連なり、彼の姿を包み込んだ。


『おおっと、これは流石のエレインも予想外か⁈ロングレンジなら優位を取れる筈の魔術師に対し、まさかの遠距離攻撃‼︎間違いなくこれはHITし…おや?」


 爆風が霧散し晴れるとそこにはエレインの姿は無く、代わりに場外からですら感じられる程の濃密な魔力が渦巻いていた。


「愚策だな。貴様のトンデモ攻撃は前に見ている。2度も同じ手を食らうと思うなよ。『神の威光をここに。集え、光の精霊よ。天に代わり罰せよ。汝を断罪する。"バニシングレイ"』」


 直後、声だけが響く場内に巨大な光の帯が幾条も降り注ぐ。逃げ場を許すことのない無慈悲な一撃が魔喰だけでは無くフィールドそのものを襲い、灰燼に帰さんとする。


『な、何と⁉︎姿を消したまま放たれたエレインの最上級魔法が炸裂‼︎正に無情な一撃は流石魔術師の中の魔術師と言うべきか‼︎』


 熱狂する場内の声すら聞こえない程の光の爆撃音が止まぬ中、エレインはさらなる詠唱を始め追撃を測る。その刹那、一瞬揺らめいた空間目掛け黒い球体が飛びかかった。


「ー⁉︎」


「捉えたぞ…クソ野郎…‼︎」


 そのまま姿を現したエレインは驚愕の表情を浮かべながら黒い球体を睨みつける。そこには魔力とは違う何かで身を包んだ魔喰が腕を掴んでいた。

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