鉄壁の薔薇駆動リネーゼ

月天下の旅人

リネーゼ、始動(2017・11・02)

 今より一万年先の未来。

 世界はグロテスクな宇宙生命体……『エタロット』により人類滅亡の危機を迎えていた。

 そのグロテスクさはとても文章では表現しきれない。

 強いていうなら名状しがたい触手生物といったところで、それは人よりも強かった。

 ヴィートリヒ家には変わった風習と、それと共に受け継がれる神機があった。

 変わった風習、それは『男も一人前になるまでは女の名前を名乗り女装する』という物。

 長い銀髪が美しい美青年であるシャーロット・ヴィードリヒもその風習に倣い、

女の名前を名乗りゴシックドレスを着ていた。

 さて、本題は受け継がれる神機であるリネーゼについてだ。

 それはヴィードリヒ家に伝わる最終兵器であり、

剣闘士の鎧のような形と美しさを兼ね備えた人型駆動兵機である。

 そのリネーゼをシャーロットは動かせないのだ。

「お前は美しくない」

 シャーロットを拒絶するリネーゼに、彼は焦りを感じた。

「どうしよう、このままでは人類が……」

 ふと彼が一万年前の神話を見ると、フカザキシュンという青年のことが記されていた。

 彼はその容姿で男女どちらからも愛された美男子であり、彼を基にしたマンガがでたというのだ。

 マンガを神話の時代に作られた神聖な書物だと捉えたシャーロットは、

その神話の世界からシュンを召喚しようと思い至った。

「時の輪より出でよ、神話の担い手よ!」

 そうして、シャーロットの前に現れたその美男子はともすれば女性にも見えた。

「ここはどこなんだ?」

 その問いにシャーロットは答える。

「ここは私の家の地下だ。私はシャーロット・ヴィードリヒ、お前は?」

「僕は深崎 春フカザキ シュン、よろしく」

「早速で悪いが、あのロボットに乗ってくれないか?」

 唐突すぎるシャーロットに、春はこういう。

「いくら何でも唐突すぎやしないか?だいたい、ここが家の地下ってどんだけ広いんだ」

 そういって春はどっかに行ってしまう。

 しばらくすると、警報が鳴る。

 それを聞いた春は、応接間でシャーロットに出会いこういう。

「何なんだ、この警報は」

「もうここまで来たのか……」

「戦争でもやってるのか?」

 春の問いにシャーロットは返す。

「当たらからずも遠からず、といったところだね」

「出来の悪いSF映画みたいに、侵略者でもやってきているのか?」

 春の疑問にシャーロットは頷く。

「そうだ、だからあのロボットに乗ってくれないか?」

「そこまでいうならやってやるさ。侵略者というなら、人類の危機と相場は決まっている」

 シャーロットの案内で春は再びリネーゼに乗り込んだ。

 しかし、春はリネーゼにこういわれる。

「清くなければ美しくない」

 なんでだよ、と思いつつ一旦降りる春。

 すると彼の前には髪を切り、着ている物と同じゴシックドレスを用意したシャーロットが居た。

「そのままでも動かせると思ったが……そのロボットには同名の少女の魂が宿っているんだ」

「その少女がどうしたんだ?」

「その少女は可愛い『オトコノコ』が好きだったという。ひょっとしたらもっと可愛くならないといけないのかもしれない」

 そういうシャーロットの勢いには抗えず、春はシャーロットの髪の毛やゴシックドレスを纏う。

「マジか……」

 凹みつつもリネーゼに乗り込んだ春。

「その姿は美しい」

 リネーゼはそんな春を受け入れ、動き出す。

 彼の視界には名状しがたい触手生物、『エタロット』が現れる。

「行くぞ!」

 リネーゼに操縦桿は必要なく、思った通りに動く。

 なおかつ余計な思考は反映されないため、それこそ舞うように触手を切り裂くことができる。

 その舞いは美しく、まるで泉の騎士のようであった。

「凄い……」

 春はリネーゼの動きに乗っていながらも圧巻されるものの、

リネーゼの圧倒的なスペックを生かし『エタロット』は切り裂いていった。

 そしてリネーゼから降りた春を、シャーロットはこういう。

「フカザキシュン……君のことをこう呼ぼう。『スピリット』、と」

「ああ。その名に恥じないよう、強く潔く美しく戦うことを誓うよ」

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