第68話 決闘
「ここが決闘場、初めてきた」
「まるでボクシングのリングみたいですね」
ファングに連れられて決闘場へとやって来たシロたち、決闘場の外観を見てユキとフィーリアは感想を言い合っていた。
決闘場は《ガウス街》にいくつか点在し、プレイヤーたちが普通に決闘を行いたい時によく利用されている。しかし、正直この施設がなくても決闘はどこにいても行えるのだが、むやみやたらと決闘を行われても街にいるプレイヤーたちの邪魔となる恐れがあるため通常、街中で決闘を行う場合は決闘場を使うのである。
決闘場の外観はフィーリアが言ったようにボクシングなどで見るようなリングとなっているがロープとなる部分が鉄網となっており、それが上へといくにつれてリング全体を覆うようになっている。どちらかと言えばアメリカで行われる格闘技と言ったような姿をしていた。広さは正方形で一辺が10mとなっており、PvP大会などで使われる闘技場と比べれば何倍も狭いが、そもそも決闘などはそうそうスペースを使わず戦うことのほうが多いためこのくらいの広さで十分なのだ。
「……誰も使っていないみたいだから、入っていいだろう」
「分かりました。じゃ、二人はちょっとここで見ててくれ」
「はい、シロ君頑張ってください」
「……」
素直にシロに応援の言葉を投げるフィーリアに対してユキはどこか浮かない顔をしていた。まだ、不安な心が晴れないようである。それを見て、シロは何か言ったほうがいいだろかと考えるが、そこまでコミュ力がないため断念する。まぁ、さっさと終わらせてしまえばいいだけだとシロは特にユキに何も言わずにリングに入ろうとした。
「シロ君」
すると、後方からユキの声が聞こえた。反射的に振り返ると、まだどこか不安そうな顔をしているがそれでも精一杯、ユキは笑顔を向けながら口を動かした。
「……頑張って」
「……おう」
ユキの言葉に手短に答えるとシロはゲートをくぐりリングへと足を踏み入れた。中央には既にファングが佇んでおり、シロを待っている。
「お待たせしました」
「……別にいい、勝手な頼みを聞いてくれて感謝する」
「いいえ、このくらいなんてことないですよ」
特に気にしていないという態度を取るシロ。ファングは自分の我儘に付き合ってもらっているのに嫌な顔しない彼に対して申し訳なさが増した。しかし、この決闘はどうしてもファングは行いたかったのだ。
「始める前に一ついいですか?」
「……なんだ?」
「どうして俺なんかに決闘を申し込んだんですか?」
当然と言えば当然の疑問をシロは口にする。たかがクエストを一つ一緒にやっただけの見た目からして大したことなさそうな自分にどうして決闘なんかしようと思ったのか、シロは甚だ疑問なのであった。もしかしたら、既にファングはシロに対してどこか不審な点を見つけたのではという懸念があった。が、ファングの出した答えはシロの想像していたことではなかった。
「………鬼王と戦っている時、凄いと思った」
「【
「……それと同時に戦ってみたい、とも感じた。強い奴を見ると戦いたくなるのは昔から癖みたいなものだ。だから決闘を申し込んだ」
「そう、ですか」
質問に答えるファングをシロはじっと観察していたがそこに嘘や隠し事がないように感じた。彼は本心から、というよりも本能からシロと戦ってみたいと感じたようである。その事実を知るとシロはファングに悟られないように安堵した。どうやら、正体についてはバレていないようである。これで心置きなくファングと戦える。
ファングはメニュー画面を開いて慣れた手つきで操作していくとシロの目の前に文字が現れる。
『ファングがシロに決闘を申し込みました。受理しますか? YES/NO』
シロはYESをタッチすると今度はいくつか項目が現れた。ルールを決める画面に変わったようだ。決闘にはいくつかルールがあり、相手のHPを完全になくしたほうが勝ちだったり、相手より多く攻撃を当てたほうが勝ちだったりとパターンはいくつか存在する。そして、決闘を申し込まれたほうがそのルールの設定権を得られるようになっていた。
「……ルールは?」
「ファーストアタックモード、3ポイント制で制限時間は二分でどうですか?」
「……了解した」
ファングに自分の提示するルールを聞かせるとファングは異議を唱えることなく頷いた。それを確認するとシロはさくさくとルールを設定していく。
今回シロが設定した、ファーストアタックモードは勝負が開始してどちらかが先に相手に攻撃を与えるかで勝敗が決まるモードとなっている。今回の場合は、制限時間2分の間でどちらかが相手に攻撃を与えたらそちらに1ポイント、それを三回繰り返しポイントが多いほうの勝ちとなる。ちなみに制限時間が終了したら引き分けとなる。
だが、移動速度が高いとされているファングにその勝負はいささか不利なのではないか。シロたちの会話を外から聞いていたユキはそう思った。だが、そんなユキの心情を他所に二人は互いに距離を取り合う。
ルールを設定し終わるとシロとファングの頭上に開始までのカウントダウンが始まる。
5……
両者が自身の武器を手に取る。
4……
武器を構え、相手を観察する。
3……
足腰に力を蓄え、いつでも動けるように準備する。
2……
息を吸い込み、意識を集中させる。
1……
息を吐き、頭をクリアにし目つきを変える両者。
0
『GO FIGHT!!』
カウントがゼロになった瞬間、シロとファングの頭上で決闘の合図がなった。
人知れず、元【六芒星】同士の決闘が幕を上げた。
☆☆☆☆☆☆
決闘の開始の合図が出た瞬間、ファングはシロ目がけて一気に加速した。目に見えないその速度でシロの背後をとる。行動速度だけだったらBGO一と呼ばれるファングの動きを完全に捉えることは困難を極める。シロの背後に回ったファングは自分の拳を背中に振るった。
「っ!」
しかし、【危険回避】と【察知】のコンボで自分の背後を取られたことを知ったシロは飛んできた拳に頭を下げて回避した。そして、同時にファングに対して正宗を振る。
キンッ
しかし、シロの攻撃はファングのグローブに防がれる。刀を止められ動きを止めたシロにもう一度拳を叩き込むファング。
「はっ!」
シロもそのパンチを無理やりな体勢で何とかかわす。【立体機動】を持ってなかったらできない身のこなしだろう。ファングの拳をかわしたシロは距離を取ろうと後ろに飛んだ。だが、後ろに体重をかけた瞬間、シロは考えの甘さを認識した。
「……」
シロが後ろのほうに重心を移したその瞬間、ファングは再び地面を蹴った。今度もシロの背後に移動する。歯を食いしばりながらシロは自分の失敗を悔やむ。この体勢で背後から来る攻撃をかわすことも防御する手立てをシロは持ち合わせていない。シロの背後に移動したファングはがら空きの背中に拳を叩き込んだ。今度こそ、ファングのパンチがヒットする。
『HIT! WINNERファング』
ファングの攻撃がシロに直撃したところで文字が浮かび上がる。まずは1ポイント、ファングが制した。次の戦いまでのカウントダウンがシロたちの上で刻々と進んでいた。
「やっぱり強いなぁ」
「……二発目は避けられるとは思えなかった」
初戦が終了するとシロとファングは互いに称えあった。何気にレベルの高い一瞬の攻防に外から観戦していたユキとフィーリアは茫然と眺めていた。
「じゃ、二戦目いきますか」
「……あぁ」
上に表示されている数字を見るともう残り時間は少なくなっていた。リングの中央に立つとシロとファングは二戦目の合図を待つ。
次、ファングが勝てば2ポイント先取したことで決闘はファングの勝利となる。あとがもうないシロ、その光景をユキとフィーリアは緊張の面持ちで見ていた。対照的にシロは余裕そうな顔で再び意識を集中させる。そして、二戦目の合図が鳴った。
『GO FIGHT!!』
「「っ!!」」
合図とともに同時に動きだすシロとファング、シロは鞘に納めている刀に手を添えてファングに突っ込む。ファングもシロの正面から対峙する形となった。【危険回避】と【察知】によってファングの位置を特定したシロはギリギリのところまでファングを引き付ける。AGIの高さからしてファングがシロの所にくるのが早い、一気にシロの眼前まで来たファングは例のごとく右ストレートを繰り出した。
「っ!」
シロはその右ストレートに憶することなく突き進む。そして、ファングの拳を寸前の所まで引き付けたシロは顔をほんの僅か、横に逸らした。
「なっ!?」
完全に直撃すると思ったファングは驚愕する。ステータスの差から言ってシロがファングの攻撃を完全に見切るのは不可能に近い。だというのにシロは紙一重でファングの攻撃を避けたのである。驚くファングをよそにシロはファングの懐に飛び込むと抜刀した。
「はっ!」
抜刀された刀はファングの脇腹を掠めるように斬った。シロとファングはそのまますれ違ったかのように互いに背を向ける。
『HIT! WINNERシロ』
勝者のコールが鳴るとシロとファングは振り返り、視線を交差させた。
「やったー!」
「シロ君凄いです!」
シロの勝利に外野が沸く。嬉しそうに飛び上がるユキたちを横目で見ながらシロはファングに笑いかけた。
「……やられた」
「いえ、ギリギリでしたよ」
これで1対1、イーブンにまで持ち込んだ。静かにシロの高いプレイヤースキルに感心するファング。本人は自覚していないだろうが通常、シロとファングほどにレベル差があるプレイヤー同士が決闘した場合、これほどまで勝負が拮抗するものではない。それも相手はBGOでも指折りの実力者であるファングだ、そんな人物といい勝負しているシロが異常なのだ。そのことにまるで気が付いていないシロにファングはますます興味が尽きなかった。そうこうしているうちに最後の勝負の時間が迫ってくる。
「最後やりますか」
「……あぁ」
にこやかに言うシロにファングは頷くと再びリングの中央に行く二人。
最後の勝負に自然と空気が張り詰める。その空気を固唾を飲んで見守るユキとフィーリア。
武器を構えて準備をする両者。
『GO FIGHT!!』
最後の勝負の合図がシロたちの頭上で鳴り響いた。
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