第69話 決闘2
『GO FIGHT!!』
今度は合図が鳴ったというのに互いに一歩も動かないシロとファング。真剣な表情でお互いに相手を凝視していた。その傍から見たら異様な光景、しかし近くで見るとその緊張した空間にユキとフィーリアは顔を強張らせていた。
鋭い目で睨むファングに対してシロも負けずと視線を送る。相手の一挙一動にも反応を示せるようにしていた。
対人戦において重要なのは広い視野と冷静な判断、そして相手の行動を読むことである。
シロとファングは今、まさに互いに相手の行動を読みあっていた。刻一刻と過ぎる時間、シロたちはなおも動かない。
残り一分を切った。その時、シロの足がピクリと動かすと飛び出した。それを見てファングも対抗するように動いた。正面から殴りかかるファングの拳をシロは最低限の動きだけでかわす。かわした所でシロはファングの横腹に向けて刀を抜刀させた。が、ファングはいち早く刀に反応するとバックステップで後ろに飛んだ。
「くっ」
「……」
二度も同じ手は食わないか、と悔しそうに顔を歪ますシロに対してファングは構えを直して仕切り直しを求めた。
シロも刃先をファングに向けて構える。そして、再び
やったか、とファングが思った瞬間、シロの刀が顔の前に出てパンチを受け止めた。
「……ほんと、どんな反射神経だか」
パンチを防がれたファングはシロの異様な動きにおかしそうに呟いた。そんなファングに対してシロは政宗で斬りかかる。
「っ!」
横一線に振られた刀はファング目がけて襲い掛かかった。体重が前にかかったファングに後ろへ飛ぶことは出来なかった。
(とった!)
シロが刀を理想の軌道上に乗せた時、勝利を確信した。が、次の瞬間背中がゾクリ、と冷たいものが触れたかのような感触に陥った。
脊髄反射というべき速度でシロは刀を振りながら頭を下げた。
ガキンッ!
ブンッ!
シロが頭を下げたコンマ何秒か後に頭上に何かが通る音がした。それと同時にシロの振った刀が何かに防がれる。見ると、ファングは膝を上げ【ウラヌス】で政宗を受け止めていた。
慌ててファングと距離を取るシロはまず何が起こったのか整理する。
(見た感じ、脚で刀を止めて空いた手で殴りかかった、ってところだろうな。にしても、あの一瞬で回避できないと判断して、その対策を実行、攻撃に移るまでを行動できるってホント異常だよな)
(まさか、パンチする前に回避を取るなんて。読まれてた? いいや、あれは多分直感だろう。なんて鋭い勘なんだ、異常だ)
互いに互いを褒めてるのか貶しているのか分からない感想を心の内で述べる。そうこうしている内に残り時間がわずかとなってくる。シロは残り時間を確認すると重心を落として刀を構える。ファングもそれに応えるようにファイティングポーズを取る。
残り時間三十秒、シロとファングは何度目かになる接近戦へと入った。
(攻撃は最大の防御!)
ファングより先に攻撃を繰り出すシロ。その攻撃をファングは体を逸らして躱しシロとの距離を詰めるとパンチの構えをする。だが、シロはほんの一瞬、脚のほうがピクリッ、と動くのを見た。
(パンチはフェイクか!)
シロの予想通り、ファングの拳は途中で止まり下のほうからファングの蹴りが放たれた。
「っら!」
「っ!?」
首を狙って放たれたファングの蹴りをシロはギリギリの所で避けて、体勢が不利なファングに刀を振った。さっきとは違い、片足が上がった状態での回避行動は不可能。シロの刀がファングを捉える……予定だった。
「【雷速】」
「なっ!?」
シロは捉えるはずだったファングの姿を見失って驚愕する。【雷速】でシロの背後へとまわったファングに三秒の硬直タイムが行われていた。
3
その三秒を見逃すほどシロも甘くない。驚きから立ち直ったシロはすぐに刀を引っ込める。
2
【察知】で見失ったファングの姿を探し当てるとそこ目がけて刀を振った。狙うはファングの顔面、当てれば勝ちだが体が自然に急所を狙っていた。
1
シロの刀がファングの顔面に飛んでくる。ファングはそれを焦ることなく軌道を読む。政宗がファングの顔に当たりそうなったその時。
0
硬直タイムが終了したのを理解したファングは勢いよくしゃがみ込んだ。
シロの刀が空を斬る。
「ウソだろ」
刀が避けられたシロは呆然とした口調で呟く。しかし、完全に自分の世界に入り込んでいるファングにはその声は届かない。彼の頭にはもはや“勝利”の文字しか浮かび上がっていなかった。
シロの下に潜り込んだファングは拳を固め、脚から地面に向かって力を放出させた。
「ふんっ!!」
下から飛び出すファング、その勢いを止める術をシロは持ち合わせいなかった。
突き出された拳はシロの顎を捉え、そのまま振り切られた。ボクシングでそれをガゼルパンチと呼ばれる技を放ったファングはシロの体を宙に浮かし、吹き飛ばした。
シロにはそれがまるでスローモーションのように映し出され、抵抗する間もなく空中に投げ出された。シロはそのまま弧を描いて地面に倒れる。
『HIT! WINNERファング!』
勝利のコールがリング状に鳴り響いた。
☆☆☆☆☆☆
ファングの勝利を告げるアナウンスをシロは呆然と仮想世界の空を眺めながら聞いていた。
『DUEL WINNERファング!!』
決闘の結果を告げるアナウンスとともに二人を囲っていたリングのゲートが開き、そこからユキとフィーリアが飛び出して来た。
「シロ君!?」
「大丈夫ですか!?」
さっきシロが喰らったファングの攻撃、あれは決闘で見せる攻撃力ではなかった。それを証明するようにファングの攻撃を喰らったシロはいまだに倒れたままである。そんなシロの元へ血相を変えて走ってくるユキとフィーリアを見てファングは顔を青くした。
「騒ぐな。別にダメージを与えられたわけじゃないんだから」
なおも倒れたままのシロは空に向かって言った。それを見て、ユキとフィーリアはとりあえず安堵する。どうやら、何ともないようである。
「……本当に大丈夫か?」
シロの傍まで来て顔を覗きこみながらファングは訊ねる。その声がどこか焦りを孕んでいて、顔は無表情なのにとシロは可笑しかった。
体を起こしてファングと向きあうとシロは軽い口調で言った。
「はい、ほら何ともないでしょ」
そう言って体を少し動かすシロ。どこも異常がないようでホッ、と胸を撫で下ろすファング。正直、最後のガゼルパンチは過剰に力を入れてしまっていた、それをファングは決闘が終わったところで倒れているシロを見てようやく理解したのだ。それほど集中していたということだろう。
シロが無事なのが分かったファングは再びシロと顔を向き合わせる。
「……決闘、受けてくれてありがとう」
「いいえ、俺もいい経験が出来ました。ありがとうございます、ファングさんと戦えてよかったです」
シロがファングに対して逆にお礼を述べるとファングは困ったように頭をかいた。実際、ファングと戦えたことはシロにとってラッキーである。《神様》との会話から《ドリーム杯》に出場するシロは今の自分がどのくらいファングたちトッププレイヤーと渡り合えるのか確かめておきたかった。
シロの感謝の言葉に照れるような仕草をするファングがぽつり、と呟く。
「……ファング」
「え?」
「………名前、ファングでいい。それと敬語も使わなくていい」
ほんの少し、シロはポカンとした。が、すぐに我に返ると言葉を並べる。
その一連の会話をどこか懐かしく感じながら。
「あ、あぁ、はい、いいですよ。今日はどうもありがとうファング」
「……あぁ、オレのほうこそありがとうシロ」
ファングはそう言って手を差し伸べる。ユキとフィーリアが見守るなか、シロはゆっくりとその手を握った。その時、シロたちは初めてファングが心の底から嬉しそうに微笑んだのを目撃したのであった。
アバター名『shiro』 所持金80500E
レベル:65 HP:2350 MP:1090
STR:172.5 INT:100 VIT:140 AGI:182.5 DEX:90 LUK:60 TEC:50 MID:100 CHR:30
装備:名刀政宗、ジョウの防具、アサシンメイム、コキョウの花飾り
控え装備:【
保持スキル:【察知】Lv28 【危険回避】Lv27 【
控えスキル:、【片手剣】 【両手剣】 【体術】 【立体機動】 【影分身】
スキルポイント10
☆☆☆☆☆☆
「あれ? ファングじゃねぇか」
シロたちと別れたオレが久々の街を歩いていると後ろから懐かしい声が聞こえた。
「……レオンか、久々だな」
「おう、お前街に戻ってたのか。珍しいな、いつもはフィールドを駆け巡っているのに」
「……今日はちょっと色々あってな」
「ふ~ん、そうか」
レオンはそれ以上なにも聞かず、オレの横を並んだ。今やトップギルドと呼ばれる【
「……お前は、今日は何してたんだ?」
「うん? あぁ、攻略。まだ全然進んでないけどな」
オレが訊ねるとレオンはどこか遠い目をして言った。今でも、偶に一緒にレイドボスに挑む機会はあるが【六芒星】にいた頃に比べれば、頻度はだいぶ減っている。しかし、それについては特にどうとも思っていない、自分らが決めたことだから。
「お前は? 今日は何してたんだ?」
オレが街にいるのがやはり珍しいのか、レオンは訊ねてきた。特に隠すことなくオレは答える。
「……ちょっと、あるクエストをな」
「へぇ、また一人でか?」
彼はオレが一人でいることをあまり良しとしていないように見えた。レオンがギルドを設立した当初はよくギルドに誘われた。しかし、オレはその誘いを断り続けた。理由は簡単、オレにとって
今は、オレの考えを尊重してくれているようで誘いは減った。当のオレは一人でフィールドを駆け巡る毎日を送っていた。多分、心のどこかであいつがその辺にいると思っているのかもしれない。
「……いや、そのクエストがパーティでしか受けられない奴だったから一組のパーティに入れてもらった」
「はぁ? お前が、他人のパーティに?」
オレが発した言葉に心底胡散臭そうな顔をするレオン。そんなにオレが他人とパーティを組むのが珍しいのか?
「……本当だぞ。それにその中の一人が凄い手練れだった」
「へぇ、お前がそこまで言うとは相当な実力者だったんだろうな」
「……あぁ、あれは強かった。もっと装備とかレベルが上がれば上級を越える逸材だった」
「ファングがここまでべた褒めする奴だとはそいつ一体何者だ?」
オレがあまりに褒めるからだろうか、レオンも興味を持ち始めたようだ。オレはその後も彼らとやったクエストの内容やボス戦での彼の動きをレオンに説明した。レオンは最初黙って聞いていたのだが、途中から何やら口角を上げているのが目に映った。
「……どうかしたか?」
「いや? 話してるお前が楽しそうだったからな」
「……そういう風に見えたか?」
自慢じゃないがオレは感情表現が苦手だ、それが原因でよく問題になるケースがあるがもはや慣れてしまった。そんなオレが楽しそうにしていた?
「あぁ、昔みたいな感じだったぞ」
「……そうか」
レオンに言われて思い返す。確かに彼らとクエストをやっている時は、ワクワクしていた。特に、彼と決闘していた時は胸が躍るように高鳴っていた。人に言われてようやく自覚した、オレは楽しんでいたのだと。
「お前がそこまで入れ込むなんてなぁ、そいつ名前は?」
レオンが興味津々といった様子で訊ねて来る。それに対してオレは嬉々として答えた。
「シロだ」
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