第44話 番外編 ラブレター?



 とある日、和樹はいつものように登校していた。学校へと続く坂道を登りながら和樹は欠伸をかみ殺し、首を動かすとコキッ、コキッと骨が鳴る。どうも最近、肩が凝っているようで和樹は数回肩を回し、軽くストレッチする。


(これも柊と絡みだしたせいか?)


 和樹は自分の通う高校のアイドルの顔を思い出す。屈託のない笑顔を見せる彼女、そのファン多き彼女が近頃、和樹と関わりが多くなっているため降りかかる奇異の視線はどうも慣れない。


「おはよう、和樹君」


 不意に後ろから声が聞こえ振り返るとおさげの髪に眼鏡をかけた少女が立っていた。


「桜香か、おはよう」


 和樹は見知った顔を見つけると挨拶を交わした。パッと見て地味目な彼女、姫野桜香。しかし、その正体は今人気の女性声優の三倉芳である。しかし、それを知っているのは和樹と雪だけである。

 和樹が挨拶すると桜香は嬉しそうにニコッと笑い、トコトコと歩いて和樹の横に並んだ。他から見て仲良さげな二人であるが桜香は和樹以外の男子に対してここまで打ち解けていない。その原因は彼女が和樹たちの学校に転校してきた訳でもあるのだが、今回は割愛させてもらう。

 桜香が和樹に懐いているのはひとえに彼が桜香の幼馴染であるのが大きい。まぁ、幼馴染と言っても彼が小学生の時一年間同じクラスだっただけであるがやはり知り合いがいるのといないのとでは違いがあるのだろうと和樹は判断した。


 歩きながら他愛のない話をする二人。そして、校舎が視界に映り始めたところで後方から元気な声が聞こえてきた。


「ヤッホー! 二人ともおはよう!」

「おはよう、雪ちゃん」

「うっす」


 二人が振り返ると手を振りながら駆け寄ってくる美少女がいた。少女の登場に和樹たちと同じように登校していた生徒たちの視線が集まる。彼女こそ和樹の悩みの種である柊雪だ。

 容姿端麗、成績は優秀とはいかないが和樹の通う進学校に受かっているくらいだから並みより出来るだろう、綺麗な顔立ちとは裏腹に性格は人懐っこく男女分け隔てなく人気がある、まさにヒロイン気質溢れる人物である。しかし、和樹は彼女にどうにも苦手意識を持っていた。


「? 白井君、どうしたの?」


 和樹が思案顔をしていると心配そうな声色を発しながら顔を覗きこんでくる雪。


(だから、近いっての)


 和樹が彼女に苦手意識を持っている所以がこの”人の領域に無自覚に入ってくる”所である。人のパーソナルスペースに一気に入ってくるのにも関わらずそれが嫌に感じさせないのが彼女のすごい所であるが和樹はどうにもまだこの感覚に慣れなかった。


「何でもない、んじゃ先行くから……」


 和樹はとにかくその場から立ち去ろうと短く言うと止めていた足を動かし、歩き出そうとした。しかし、歩き出した途端、さも当たり前のように雪と桜香が並んできた。


「……何でついてくるんだ?」

「え、だって行先同じじゃん」

「そういう問題じゃねぇっての……」


 雪が和樹の言っていることが分からないという顔を向ける。無垢な疑問顔をする雪を見てこれ以上言うのも面倒くさいと感じ和樹は代わりに嘆息した。

 さっ、と周囲に視線をやるとやはりというべきか周りから敵意や奇異の眼差しが和樹に降りかかる。特段気にしていないが学校という狭い世界で生きていくためにも騒がれるようなことは極力避けたい和樹であるが横の雪を見るとそれもばかばかしく思えてきた。

 結果、三人並んで校舎へと向かうこと数分、和樹たちは学校の昇降口に辿り着いた。いつものように和樹は靴を靴箱にいれ上履きを取り出そうと自分の靴箱を開けた。


「ん? なんだこれ」


 すると、和樹の靴箱に一枚の薄いピンク色のまるでラブレターのような手紙が置いてあった。


「…………」


 一旦、靴箱を閉める和樹。目を閉じ、深く息を吸い込み、そして吐いてから再び靴箱を開けた。

 中には以前として手紙が置かれてあった。


「……はぁ」


 思わずため息を吐く和樹。とりあえず、上履きの上に置かれている手紙を手に取り、上履きをはく。そして、再度手紙をまじまじと観察した。差出人不明、しかし表には『白井和樹様へ』とはっきり書かれている、これでまず誰かと間違えたという疑念が和樹のなかから消えた。


「和樹君、どうかしましたか?」


 一向に靴箱から離れようとしない和樹を不審に思ったのだろう、桜香が和樹に近寄って来た。すると、桜香につられるように雪も和樹のほうへ歩み寄る。


「いや、大したことない」

「そう? 何だかすごくしかめっ面していたように見えたけど」


 雪の指摘に口元に手をあて、軽く表情筋を動かす和樹。自分では感じなかったがどうも露骨に顔に出ていたようだ。反省反省。


「ほんとになんでもない」


 そう言って和樹は階段に向けて歩き出そうとすると不意に桜香が何かに気づいたように口を開いた。


「和樹君、それなんですか?」


 桜香が指差したのは和樹が手に持っている手紙である。桜香の言葉に和樹は内心舌打ちをした。さすが人気声優、観察力も伊達じゃないというわけか。

 桜香の指し示したものを見て雪は目を見開かせた。何故なら和樹が手に持っているのはどこからどう見てもラブレターと言う類のものだったからだ。微かに唇が震える雪。

 そんな雪に気づいていない様子の和樹は諦めたように手紙を二人に見えるように掲げた。


「靴箱開けたら入っていた」

「そ、それって……ラブレター?」

「っぽいな」

「「……」」

「おい、大丈夫か!? お前ら顔真っ青だぞ!」


 和樹がラブレターというのも認めると二人はカタカタと肩を震わせ、「「ハハハ」」と乾いた笑い声を出していた。さすがにさっきまで普通に話していた人間のいきなりな変化に和樹は戸惑った。しかし、そんな和樹にお構いなく震える声で雪と桜香は言及を始める。


「そそそそ、それで、ああ、相手は?」

「さぁ、何も書かれていなから分からん」

「かか、和樹君、そ、その戸惑ってないみたいですけど、こ、こういうの慣れてるんですか?」

「慣れてるってわけじゃないけど、まぁ、高校入ってこれで三回目くらいかな?」

「「……はははは」」

「おい、本当に大丈夫か? 壊れたレコーダーみたな声出てるけど」

「「だ、ダイジョウブダイジョウブ」」

「まずい、これ大丈夫じゃないパターンだ。おい、二人とも戻って来い!!」


 和樹は二人の肩をぐらんぐらん、と揺らす。数回そうすると二人の目に生気が返って来て元に戻った。突然のことに驚いたがどうやら尊き人命が救われたようである。

 正気に戻った二人が今度は前のめりに訊いてきた。


「そ、それで中身は?」

「まだ見てないけど……」


 と言って和樹はおもむろにその場で開封し始める。その大胆な行動にギョッとする二人であるが和樹は気にせず手紙の中身を確認した。


『白井和樹さまへ

 突然の手紙で驚いているかと思いますが、あなたにどうしても伝えたいことがあります。

 放課後、体育館裏で待っています』


 内容は女の子っぽい可愛らしい字で短く書かれていた。和樹はチラッと二人を見ると明らかに内容が気になるらしくソワソワしていた。


(やっぱり女子ってこういう恋愛話が大好物なんだなぁ)


 と二人の様子を見て思う和樹。


「見たいか?」

「「…………」」


 和樹に言われ二人は互いの顔を見合わせる。見てもいいものなのか迷っているようである。しかし、最後には好奇心が勝り、和樹から手紙を受け取ると二人は中身を読み始めた。


「「…………」」


 読み終わると二人は呆然とした表情を浮かべ、手紙を和樹へと返した。


「そ、それで和樹君、ど、どうするんですか?」

「一応、放課後行くつもりだけど」


 当たり前じゃないかという顔をする和樹を見て桜香はあからさまにしょんぼりとする。その様子に和樹は首を傾げて、桜香に声を掛けようとしたがその前に雪の言葉が飛んできた。


「し、白井君、そ、それで、へ、返事は……」


 どうするの? と訊こうとして雪は言葉を詰まらせた。どうしてか、その先を言いたくないと感じてしまった。訊いたら答えが返ってくるからだ、雪は直感的にその答えを聞きたくないと判断した。


「……」

「?? どうした柊」


 雪が急に黙り込むのを不思議に感じた和樹が雪の顔を覗き込む。しかし、顔を覗く寸前で雪が突如、くるっと後ろを向く。


「そ、そろそろ教室に行こうか。早くしないとHR始まっちゃうよ」

「お、そういえばそうだな。行くか、桜香」

「……はい」


 雪の言葉に和樹は時計を見て、歩き出した。桜香も和樹の言葉に控えめに頷くとついて行った。

 教室へ向かうまでのほんの数分、和樹はどこか居心地の悪さを感じたがそれを口にすることはなかった。



☆☆☆☆☆☆



 カタカタ、とチョークを黒板に叩く音が教室に響き、先生が教科書に目を落として説明を始める。しかし、その説明がどうも眠気を誘うらしく視線を彷徨わせればウトウトと首を落とす生徒がちらほらといる午後の授業、さらに現国の老教師であるのも眠気を誘う要因なのだろう。

 しかし、雪はウトウトと眠気と戦うことなく、視線をチラッと斜め前にいる少年の背に向けた。少年は黒板を見て、ノートになにやら書き込んでいる。それと同時に老教師の話にちゃんと耳を傾けて真面目に聞いている。


「……はぁ」


 思わずため息をついてしまう雪。理由は分からない、でも原因は恐らく今朝の和樹宛に届けられたラブレターであろう。しかし、それで何故自分がこんなに心が乱れているのかは分からなかった。


「はぁ……」


 再び、ため息をつく。


(白井君、返事どうするんだろう?)


 ふと、そんなことを考える雪。いや、自分が和樹の恋路についてとやかく言う資格も権利もないわけだが……どこか心にしこりを残したまま、ただ時間だけが過ぎていった。



☆☆☆☆☆☆



 そうしてやって来た放課後。和樹はさっせと慌てることなく帰り支度を済ませると席を立った。


「あの、和樹君。行くんですか?」

「あぁ、ま、一応な」


 立ち上がった和樹を見上げるように桜香が声を掛ける。和樹としては、あれが男子による悪戯の可能性が頭にあったが本当に体育館裏で誰か待っているのなら無視するのは酷だろう。


「そう、ですか……」


 和樹が自らの意志を伝えるとどこか悲し気な顔をして桜香は俯いた。その反応の意味が分からず和樹は首を傾げる。


「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」

「はい、いってらっしゃい……」


 軽く桜香に挨拶すると和樹は教室から出ていった。どこかもの言いたげな様子でその背中を見続けた桜香であったがそんな桜香に雪の元気な声が当たった。


「桜香ちゃん、一緒に帰ろっ」

「あ、はい。そうですね……」


 雪の声に桜香は教室の扉から雪へと視線を変え、努めて笑顔を見せた。


「ねぇねぇ、どうせならこの後お茶していこうよ」

「うん、いいよ」


 二人が和樹のことを頭から離そうと話題を変える。が、やはり和樹が気になるのか桜香はしきりに和樹が出ていった方をチラチラと視線がいっていた。

 しかし、自分らどうこう出来る問題ではないのは理解している。このまま教室にいても和樹のことが頭のなかにこびりつくので二人は教室から出ていこうと立ち上がった。

 


 二人が他愛のない話をしながら昇降口へとつくと上履きから履き替えるため靴箱を開けた。すると、雪の耳に三人ほどの女子生徒の話声が聞こえてきた。


「そろそろ行った頃かなぁ?」

「そうでしょ、カノンからさっき体育館向かうってメールあったし~」

「うわ~、ドキドキする~」


 周りの迷惑などお構いなく話す三人の声が雪の正面、靴箱の向こう側から漏れてくる。いつの間にか雪はその話に聞き耳を立てていた。雪が一向に上履きを履き替えようとしないのを見て桜香も何事かと近づくと靴箱の向こう側から大きな話声がするのを確認する。なぜか嫌な予感がする二人。


「でも実際、どうなるかな? 相手の男子がもしオッケーしたらマジ面白いよね」

「それはそれで困る、でも罰ゲームは罰ゲームだし」

「だよね~、カラオケでビリが男子に告白するって約束だし~」


 信じられない話に雪と桜香は顔を突き合わせる。どうも、話を全て理解出来たわけじゃないがどうやら彼女たちは何かカラオケで勝負をして負けた方つまりビリになった人が誰かに告白をするという話らしい。別に誰が誰に告白するかなんて雪や桜香に関係ない。三人の話が続く。


「そいえば、相手の男子って誰にしたの?」

「あぁ、いかにもモテなさそうな男子にしておいたよ」

「うわっ、あんたヒドッ、それで相手が本気になったらどうするの?」

「それはそれで携帯で撮ってくれるらしいから後で見ようよ」

「おっ、いいねぇ」


 雪と桜香の顔が歪む。聞いていて気分が悪くなる話である。しかし、そんな二人を知らない彼女たちの一人から二人の知っている名前が発せられた。


「どうせ、白井なんて告白されたことなんて……」


 それを聞いた瞬間、雪と桜香は無意識に体育館へと走っていた。



☆☆☆☆☆☆



 教室から出た和樹は指定された体育館裏に来ていた。だが、そこには誰もおらず、和樹は嘆息する。


(はぁ、後五分して誰も来なかったら帰ろう)


 そう心のなかで決めると体育館の壁に背を預けて携帯をいじり始めた。しかし、携帯をいじり出すとすぐに一人の女子生徒が現れた。

 見た目は軽くウェーブさせた髪に制服を着くずして今時の女子って感じである。客観的に見て十分可愛い部類に入るであろう。女子生徒は緊張した面持ちで体育館の角から顔を出し、視線を彷徨わせ和樹の姿を確認すると安心したのかホッと安堵の色をうかがわせた。

 

「あ、あの……」

「あ、どうも。手紙くれたの君?」


 携帯をポケットにしまって和樹は相手と向きあう。和樹の目線を受けて頬を染め、もじもじと体が落ち着かない様子の女子生徒。とりあえず、会話の開始として和樹が手紙の送り主か尋ねた。


「あ、はい。初めまして、私、カノンって言います」

「…………」


 カノンと名乗る女子生徒を再び女子生徒の顔を眺める。うん、雪とは違うジャンルの可愛さを持っている。普通の男子ならこんな女子から手紙貰ったら飛んで喜ぶ所だろう。しかし……


(あぁ、やっぱりか)


 なんでだろうか、和樹は急激に落ち着いた気がした。しばらく黙ってカノンの様子を見ているとカノンが口を開き始めた。


「そ、そのぅ、手紙読んでくれましたか?」

「あぁ、はい。読みました、で伝えたいことって?」

「はい、そ、その……」


 もじもじと体を動かし少し顔を俯かせて、しかし上目遣いで和樹を見るカノンは意を決したかのように顔を上げた。


「し、白井君の事が、す、好きです!」


 言い切ったカノンの顔はほんの少しだけ赤くなっているように見えた。しかし、目線は外さずちゃんと和樹を見つめるカノン。しばらく見つめ合う両者、カノンは黙って和樹の返事を待つ。相手の無言な返事の催促を受けて、和樹はやがて口を開いた。


「カノンさんさぁ……」

「はい」


 緊張した面持ちをしたカノンが和樹の次の言葉を待った。


「……演劇部とかに入ってる?」

「……え?」


 全く予想していなかった言葉にカノンはポカーンとする。よく分からないが和樹の質問に答える。


「いえ、入ってませんけど。その、今その話関係あります?」


 当然の疑問をぶつけるカノン。仮にも告白してきた相手に演劇部に入っているかなんて質問をする意図が分からなかった。和樹はその問いに「だって…」と前置きをしてから唇を動かした。


「随分と演技が上手いなぁって思って」

「……は?」


 言われてカノンは今度こそ素っ頓狂な声を出した。しかし、そんなカノンにお構いなく和樹は続ける。


「大方、カラオケで勝負して負けたからその罰ゲームで自分に告白する羽目になったんでしょ?」

「え、そ、そんなこと……」


 否定しようと口を開きかけるが何と言えばいいのか、言葉が詰まった。


「はぁ、全く、そういうことはあまりお勧めしないな。勘違いする男子だっているんだぞ」

「だ、だから、さっきから何言って」

「もうそういうのいいから」


 やっと否定の言葉が出た相手に被せるように和樹はぴしゃりと鋭い口調で言った。すると、カノンは「はぁ~」とやけくそ気味な大きなため息を吐いた。それを見て和樹はやっと素が出てきたかと観察した。


「な~んだ、バレちゃったんだ。はあ~あ、つまんないの~」

「面白く出来なくてすみませんでしたね」

「ほんとだよ。何、白井君ってエスパーとか?」

「……そういう事にしておこう」

「うわっ、何それきもっ」

「辛辣だな。さっきまでとはまるで別人だ。役者とか向いてるんじゃないか?」

「ふんっ、これくらい女子なら皆出来るわよ」

「こわっ、女子こわっ!」


 意外な女子の裏事情に背筋が凍る和樹。女子の恐ろしい生態が分かった所でカノンが尋ねた。


「用は済んだし、もう帰っていい?」

「いや、呼んだのそっちでしょ。俺が早く帰りたいくらいだよ」

「ふんっ、何よガリ勉が。じゃ、私帰るから」


 最後まで悪態をつきながら和樹に背を向けて去っていくカノン。和樹はその背が角を曲がって消えるのを確認すると嘆息した。


「つっかれた~。さっさと帰って寝よう」


 背筋を伸ばしてストレッチする和樹。どうにも最近体が硬い、BGOばっかりやっているせいだろうか? 何はともあれ鞄を持ち直して帰ろうとした所で和樹は口を開いた。


「終わったから出てくれば? 柊、それから桜香も」

「「!!??」」


 ビクンと和樹の後ろにある体育館の角から様子を窺っていた雪と桜香が肩を跳ねたのを感じた。やがて、隠れても無駄だと判断したのかソロ~りと建物の陰から雪と桜香が出てきた。


「えぇと、いつから気づいていたの?」

「お前らが何か慌てた様子で来た時から」

「最初からじゃないですか……」


 しょんぼりとした顔を見せる雪と桜香。どうやら怒られるのではと思っているようであったが和樹は特に気にする素振りを見せなかった。


「ところで、何でお前ら来たんだ? なんか用でもあったのか」

「いや、それが昇降口で、その、話聞いちゃって」

「あぁ、なるほど」


 雪の説明であらかたの把握が出来た和樹。どうやら二人はカノンの友達が偽告白の計画について話していたのを聞いたのだろう。そして、それを知った二人は急いでこっちに来たと。

 和樹が雪たちが来た事情をそう考察していると桜香の視線が気になった。


「どうかしたか桜香?」

「い、いえ! そ、その……」


 まるでさっきのカノンのように言いにくそうに前に組んでいる手を絡ませていると代わりに雪が和樹に訊いた。


「白井君、どうしてさっきのが嘘だって分かったの?」


 桜香を見ると同じ疑問だったようで頷く。特に隠すことでもないので和樹は正直に喋った。


「まぁ、一言で言えば”目”だな」

「目、ですか?」

「あぁ、あの手の悪戯をする奴らの目は悪意に染まってるんだよ。俺はそれがなんとなく分かる」

「……超能力?」

「はは、そんなもんじゃない。ただ、そういう目に慣れてるってだけだ、今朝言っただろう、高校入ってこれで三度目だった」


 和樹の言葉に二人は呆然とした。和樹は高校に入って三回もあのような悪質な悪戯にあっていたというのか。二人はどう言えばいいのか分からず困っていたが和樹はそんな二人を見て言った。


「別に全部、引っかかってないから安心しろ。そこまで俺はバカじゃない」

「で、でも……」

「それに」


 和樹が一呼吸おいてから自信満々とした。


「俺みたいなやつ好きになる奴なんて相当なもの好きだぜ」

「「…………」」


 その和樹の発言にどう反応していいか分らず二人は「ハハハ」と固い笑い声を上げるだけであった。






 


 



 


 


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