第28話 パーティ
ユキとフィーリアがシロと別れて数分後、二人はアッシュたちと一緒に街の東門付近に来ていた。《ガウス街》には東西南北に門があり、門の前にある広場には巨大なポータルが建っている。そこからフィールドに向かうことが出来る。しかし、開拓されたフィールドにあるポータルに自身を登録しなければ街からフィールドに行くことは出来ない。
だから、最初はみんな門から外に出て徐々に活動範囲を広げていくのだ。
10mくらいあるだろう巨大な結晶を前にアッシュの号令によって話し合いが行われていた。
「よしっ、それじゃ改めて自己紹介といこうか。僕はこのパーティのリーダーをやっているアッシュ、武器はロングソードと盾だ。よろしくねフィーリアちゃん」
「は、はい! よ、よろしくお願いします」
緊張した面持ちで頭を下げるフィーリア。ここ最近、ユキとシロ以外に話をする人がいなかったためか、リアルみたいに小声になっている。その様子を心配そうに眺めるユキだったが自己紹介が次へと移った。
「じゃあ次は僕だね。僕はベンって言います、武器は杖で魔法は土、火、水、それから支援魔法も使えるよ。よろしくね」
人あたりがよさそうな笑顔で挨拶をするベン。魔法職と思われる彼の右手には1mくらいある杖が握られていた。
「次は私ね、私はクルミよ。武器はエストックで中衛を務めているわ、分からないことがあったらウチの男どもじゃなく私に言ってね役に立つから」
「おいおい、それじゃ俺等が役立たずみたいじゃないか」
「あら? そうじゃないと思ってたのびっくりだわ」
「ひっでー」
気の強そうな目つきの反面、気さくにフィーリアに話しかけるクルミ。アッシュとのやり取りを見ている限り、男女仲がいいのが伺えた。続いて、この中で一番大柄な男子が自己紹介をした。
「カザミだ、武器はツヴァイヘンダー、前衛をやっている。よろしく」
不愛想な顔に淡々とした口調で話すカザミにフィーリアは少したじろいでしまったが何とか顔を合わせ続けた。
「おいおい、カザミ、顔が怖くてフィーリアちゃんがビビッてるだろうが。もっと笑顔で話せないのかよ」
「ごめんね。こいつこういう顔しかできないの、でも決して怒ってるわけじゃないから気にしないでね」
「あ、はい、全然大丈夫です……」
言いながら苦笑いを作るフィーリア。しかし、言われると目が怒ってないように見えてので大丈夫だろうと判断した。
続いて、ユキたちの番になった。
「じゃあ、次私ね。ユキです、魔法職で使える魔法は火と水と支援系魔法です。よろしくね!」
「えっと、フィーリアです。ぶ、武器は弓矢で、は、始めたばかりなので、め、迷惑かけると思いますが、よ、よろしくお願いします」
元気いっぱいのユキとは対照的に緊張で噛み噛みであったが最後まで言い切ったフィーリア。二人の挨拶が終えると本格的に話し合いが行われた。
「それじゃ、今回の目的はフィーリアちゃんのレベリングなんだけど、どこに行こうか?」
「東門に来ておいてそれを言うかね」
アッシュの無計画性にツッコミを入れるクルミ。考えなしに東門まで来ていたアッシュは苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「ここからだと、《ドゥームゾ森林帯》とかは?」
「おぉ、いいね! んじゃそこに行こう!」
「えっと、大丈夫なの? フィーリア、始めたの昨日なんだけど……」
「大丈夫大丈夫! 俺がいるから危ないことは決してないよ。安心してついて来なよ」
意気揚々と言ってのけるアッシュに他三人は苦笑いを浮かべる。対するユキとフィーリアは不安げな表情をする。結局流される形でユキたちは《ドゥームゾ森林帯》へ行くことになった。
「じゃ、はい、二人にはこれを渡しとくね」
二人はアッシュにそう言われて透明な青い結晶を渡された。フィーリアはその結晶を興味深そうに手に持って眺めた。
「これは【転移石】と言って、転移って唱えると街に戻ることが出来るんだ。一種の緊急脱出装置みたいなもんさ」
「えっ、いいのアッシュ君? これ結構貴重なものでしょ」
ユキの言う通り、【転移石】は一個の値段がそこそこする品物である。それをホイホイ、と自分たちに渡していいのだろうか。
「大丈夫、まだ在庫あるし。まぁ、一応の用心だと思ってよ」
そう言って笑うアッシュに他三人はやれやれ首を振る。揃って呆れ顔だった。
カッコつけたいという煩悩が手に取るように分かる。
「それじゃ、行こうか」
それを合図にアッシュは東門へと歩き出す。フィーリアがまだ始めたばかりということで転移出来ないため、一個ずつフィールドをめぐっていかなければならない。
アッシュが歩き出したのを合図に他の三人も慣れたように足を進めた。フィーリアも皆を見て歩き出そうとするが、自分の知らないフィールドに行くことへの恐怖と、シロがいないという不安からか顔が自然と強張らせた。
そんなフィーリアの不安を察したのか隣のユキが空いている片手を彼女の手に絡めて来た。ユキの手の感触を感じたフィーリアは隣に顔を向ける。
ユキは不安な子供を安心させるような笑みを浮かべて、握っている手に少し力を加える。その手の暖かさと彼女の顔に不安な気持ちは水に溶けるように消えていった。
フィーリアは、左手に力を僅かに加えて首を縦に振る。
「行こうか」
「はい」
ユキの言葉にフィーリアは小さく返事した。
☆☆☆☆☆☆
時間をかけてようやく訪れた《ドゥームゾ森林帯》。
目の前に広がるのはまるでジャングルのように生い茂る木々であった。そして、さらに振り返ると周りの木々とは比べ物にならないくらい大きな大木が佇んでいた。
フィーリアはここがセーフティエリアだとすぐに思い出す。周りを見渡すとセーフティエリアは大木を中心に開けた場所となっており、フィーリアの目の前にある大木しか草木は生えていなかった。
アッシュたちは自分らの装備を点検する。プレイヤーの多くはこうやってフィールドに入る前に自分の持ち物を点検するのが癖となっている。フィーリアも場の空気に促されて、自分も弓矢を腰に装備した。
点検を終えたアッシュたちは各々、装備をいつでも取り出せる位置に置いてセーフティエリアの出口へと向かった。
「それじゃあ、ここからフィールドに出るけど隊列を組んで進もう。先頭は俺とクルミ、最後尾をカザミとベン、その間にユキさん、フィーリアちゃん、という順番で行こうと思う」
アッシュの考えに三人は問題なく頷く。
先頭に壁役のアッシュと中衛のクルミで先頭からモンスターが出た場合に応戦、隙を見てフィーリアも参戦し、三人の支援にユキがすぐに入れるようになっている。また、後ろからモンスターが出てきたら、カザミが壁となって時間を稼ぎ、クルミとアッシュがすぐに援護に向かえる布陣となっている。
フィーリアとユキはパーティでの動きに詳しくないため、大人しくアッシュたちの言う事に従った。
「よしっ! それじゃあ、行こう!!」
方針も決まったところでアッシュはセーフティエリアの出口を勢いよく飛び出した。
「たくっ、少しは落ち着きなさいよね」
「はは、まっ、二人とも楽しんでいこう」
「…………」
飛び出して行ったアッシュと裏腹に冷静に三人はセーフティエリアから出て行った。ユキとフィーリアも緊張しながらも三人の後ろをついて行った。
セーフティエリアから出た五人は足場の悪い道を進んでいると、先頭を歩いていたアッシュが突然足を止めた。
前には、黒い毛皮に鋭い牙を生やした狼……【ブラックウルフ】がアッシュたちを睨みつけていた。モンスターを見るとすぐにアッシュは腰からロングソードを構える。他のメンバーも武器を取り出し、臨戦態勢を整える。
「来るぞ!!」
アッシュの声を合図にブラックウルフが唸り声を上げながら駆け出した。
ブラックウルフがアッシュ目がけて牙を見せる。アッシュはそれを盾で防ぐと盾を前に押した。反動で後ろに飛ばされたブラックウルフは体勢を立て直しながら着地、間髪入れずに飛び出す。
それを見てアッシュの右後ろにいたクルミがエストックを構えて走り出した。伸びた爪を突き出し、クルミに向かって行く。クルミはブラックウルフの爪を首を傾けて避け、カウンターにエストックを突き出す。突き出されたエストックは大きく開いた口に刺さった。
「GYOUUU!!」
口に鋭い刃先を刺されて、ブラックウルフはどこから出しているのか分からない悲鳴を上げて消えた。
「ふぅ、こんなもんね」
「っておい、お前が倒したらフィーリアちゃんのレベリングにならないだろ」
達成感に浸るクルミにアッシュが注意する。
「あ、ごめん。ついいつもの癖で……」
「いえ、全然大丈夫です」
苦笑いを浮かべながらフィーリアに謝るクルミに答える。今度はフィーリアに一撃を入れさせるということを約束し、アッシュたちは先を進んだ。
☆☆☆☆☆☆
「よっと、よし今だ! フィーリアちゃん」
「は、はい」
アッシュの合図でフィーリアは弓を引くとブラックウルフの横腹に命中する。矢が当たったことで
「クルミ!」
「分かってるわよ! 【ハードスピア】!」
フィーリアに襲い掛かるブラックウルフの前に立ち、自身のエストックに赤いエフェクトがかかりブラックウルフに向かって走り出す。ブラックウルフと交差するようにエストックを突き出して互いに通過した。ブラックウルフはフィーリアの前で停止して、地面に倒れた。
危な気なく戦闘を終わらせたクルミはエストックを腰に収め、一息吐いた。
「はぁ、だいぶ倒したわね」
「そうだな、2、30体くらいいったか?」
「あ、あの後ろの二人はいいんですか?」
のんびり会話をするアッシュとクルミにフィーリアは後ろのほうでもう一体のブラックウルフと戦っているカザミとベンを指しながら尋ねる。二人の後ろでユキも援護している。
「あぁ、あの二人ならほっといても大丈夫だよ」
アッシュはそう言うが不安なフィーリアは戦闘を行っている光景を見る。丁度、カザミがツヴァイヘンダーを大きく振りかぶってブラックウルフをかっ飛ばしていた。
飛ばされたブラックウルフは体勢を崩して地面に落ちる。そこにユキとベンが魔法で追撃する。
「【ファイヤーボール】!」
「【ウォーターボール】!」
サッカーボールくらいの火の玉と水の玉がブラックウルフに直撃した。二人の魔法が直撃したブラックウルフがさらに後ろに飛ばされて絶命した。
「ほっ、倒せた」
「ユキさん、ナイスアシストです」
「…………」
戦闘が終了して安心してホッとするユキにベンが声を掛ける。カザミは無言のまま武器を背中にしまった。三人の様子を見てフィーリアも胸を撫で下ろす。
「終わったか? んじゃ、もっと先に進むぞ」
「えぇ、いいの? この辺でモンスター狩っていたほうがいいんじゃないの?」
「僕もクルミの意見に賛成だね。ここから先は僕らも行ったことないエリアだよ、フィーリアさんやユキさんには厳しいよ」
先に進もうとするアッシュにクルミとベンが異論を唱える。ユキとフィーリアは三人の話を黙って聞いていた。
「大丈夫大丈夫! いきなりモンスターが強くなるわけじゃないし何とかなるさ」
安全案を出す二人に楽観的に言ってのけるアッシュ。その能天気さに二人は不安げな顔を浮かべるが、最終的にアッシュの意見に押され、奥へ進むことになった。ユキとフィーリアもアッシュの提案に頷いた。
さらに奥へと進むことになった五人は隊列を組みながら道なき道をどんどん歩いて行く。
歩くこと数分、腰くらいに生えている草をかき分けながら歩いてると突然人が通ったような道が現れた。
「ん? これは……」
「どうもここからさきはこれを辿って行くみたいね」
ジャングルのようなフィールドに不自然なくらいにそこだけ植物が生えていなかった。先頭のアッシュが後ろにいるメンバーに注意を促し、道の上に足を乗せた。
その不可解なほどに真っすぐな道にユキは悪い予感がした。根拠は特にないが何かこの先に良くないものがいる気がした。だが、引き返そうにも後ろにはベンとカザミがいる。
アッシュたちとは何回か一緒にクエストや素材集めに行ったことがあり彼らの強さはよく知っていたし自分の今持っている
その恩が後で仇になるとはこの時のユキは想像もしていなかった。
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