第23話 スキル



 それからはひたすらモンスターを狩っては褒め、狩っては褒めを続けてレベルを10まで上げることに成功した。実際、フィーリアは弓矢の扱いが上手かったのもあってか思ったよりもスムーズにレベリングが出来た。


「KYUUUUUU!!」


 また一匹、フォレットラビットを倒したフィーリアは自分の視界にある文字が出て来たのを確認した。


「シロ君、なんか文字が出て来ましたよ」

「なんて書いてる?」

「武器スキル【弓矢】が取得可能になりました、って書いてありますけど、これなんですか?」

「あぁ、【弓矢】は文字通り弓矢に関するスキルで、スキルポイントを使って取得することが出来るよ」


 スキルは言ってみれば必殺技みたいなものでMPを消費して使うものである。取得するには色々と条件があって、今回の【弓矢】はおそらく弓矢でモンスターを何匹倒す、というのが条件だったのだろう。

 スキルはスキル習熟度を上げることによってまた新しいスキルが取得可能となる。また、そこから派生が生まれるがスキルポイントはレベルを上げないと獲得できないので全てのスキルを習得することは実質不可能だ。ちなみに、レベルが5上がるとスキルポイントが1上がる仕様になっている。


「……ということだ。分かった?」

「はい、わかりました。じゃ、さっそく……」


 フィーリアはメニューを開き、スキルポイントを使って【弓矢】スキルを取得した。これでフィーリアもスキルを使用可能となった。


「取りました」

「よし、んじゃ、試し撃ちするか」


 シロはユキの姿を探したがまだドレインしてくる気配はない。すると、運良くシロの近くでモンスターがポップした。シロに見覚えがある熊、ビックベアーがシロとフィーリアを睨みながら唸り声を上げていた。


「ひっ!」

「大丈夫大丈夫、それじゃ、構えて」

「は、はい……」


 一瞬、ビックベアーの迫力で怯むフィーリアであったがシロの一言で怖がりながらも弓を引く。


「力いっぱい弦を引いて、矢に力を注ぐイメージをして」

「……」


 言われた通り力を矢に込めるイメージをする。すると、矢から光が放たれ、やがてそれは、どんどんと輝きを増して矢全体を包み込んだ。


「そして、スキル名を言いながら放つ」

「【パワーショット】!」


 フィーリアの放った矢はビックベアー目がけて一直線に向かう。その威力は今までの攻撃よりも力強く、飛んでいく。


 

 ズドンッ!!



「BYOOOOOO!!」


 矢はビックベアーの胴体に風穴を開け、ビックベアーは雄たけびを上げながら絶命した。


「ま、こんなもんだろ」

「……」


 よしよし、と頷くシロとは対照的にフィーリアはポカンとした表情をしていた。いきなりあんな威力のある矢を放てたのが結構衝撃的だったのだろう。


「今の【パワーショット】は消費MPが20だからな。自分の使うスキルがどれだけMP食うか確認しておいたほうがいいよ」

「……は、はい」

「んじゃ、ユキの帰りを待って一旦街に帰るか」


 シロがそう言うと丁度ユキが奥から出て来た。だが、心なしか切羽詰まった顔をしている。

 どうしてか、鳥肌が立つ。


「シ、シロ君、大変!」

「……どうした?」


 嫌な予感をしながらシロはユキに訊いた。フィーリアは何が起きたのかという顔をする。


「あ、あれ!」


 ユキが指差す方を見ると、ビックベアーが奥から現れた。うん、そこまでは別にいい。

 しかし、暗闇の奥から一匹、また一匹と同じような個体が続々と出現してきた。

 その数はおよそ30、フィーリアもビックベアーの数に顔を強張せる。シロも思わず大声を上げてしまった。


「何であんなに連れて来た!」

「一匹だけかと思って範囲魔法放ったら周りにいたらしくて!!」

「バカじゃないのか! 一匹だけに範囲魔法使う必要あったのかよ!?」

「うぅ~、スキルレベル上げようと思って……」

「いいから、もう一回範囲魔法かけろよ、お前魔職なんだろ!!」


 ユキは生粋の魔法職でスキルも【火魔法】【水魔法】【支援魔法】を取っていた。シロの怒号にユキは申し訳なさそうな顔をして、一言。


「MP切れです」

「バカ野郎がっ!」


 マナポーションを飲んでも範囲魔法を使うには足りず、物理攻撃の手段を持たないユキがこうなってしまったらもう役に立たない。フィーリアにこの数を相手させるのもきつい。シロはその絶望的な状況にため息を隠せない。


「ハァ~、もういいよ、二人は下がってろ」


 シロはそう言うと背中に背負っている両手剣を構える。これはいつか【双銃ダブルガン】の試し撃ちにされたモンスターからドロップした装備品だ。性能は悪いがいつか武器を買う予定だったのでそれまでのつなぎである。ちなみにフィーリアのいる手前【双銃ダブルガン】は使えない。

 二人は心配そうな顔を浮かべるが素直に後ろに下がった。


「さて、行くぞ熊共」


 二本足で立ちシロを見下ろす熊の集団に向かってシロは駆け出した。


「「「「BROOOOOO!!」」」」


 駆け出したシロをビックベアーたちの咆哮が出迎える。いくつもの咆哮は重なり合い、その振動で木々が揺れた。

 シロはまず目の前にいる一匹を斬りつける。斬られた一匹はおかまいなしとばかりに剛腕な右腕をたたきつける。が、シロはとっさに上に飛び上がるとビックベアーの脳天に剣を降ろした。脳天を割られた熊はHPバーを0にして消える。

 

「まず一匹と……」


 集中を切らすことなく次の獲物を定める。後ろから気配を感じ、振り返ると長く鋭い爪が眼前まで迫っていた。回避、するかと思いきやシロは迫る爪を片手で受け止めるとそのまま自身の背後に投げ飛ばした。


「おらよっと!」


 投げ飛ばされたビックベアーは仲間を巻き込みながら地面へと落ちる。すかさずシロは落ちた熊に剣を突き立て、絶命させた。消えるエフェクトを傍にシロは周りを見渡す。その彼の表情に熊たちは自然と足が退く、まるでこの状況を脅威と感じていない瞳、ピンチというのに楽しそうに笑う顔はまるで悪魔のようであった。


「どうした? 来ないならこっちから行くぞ!!」


 次の瞬間、シロは地面を蹴り突撃する。



 その後、シロは残りのビックベアーの攻撃を避けては斬り、受けとめては投げ、来なかったら斬り、と大立ち回りを見せ見事に全てのビックベアーを全滅させた。

 戦闘が終わったシロは両手剣を背中に収め、ほぐすように肩を回した。


「「……」」


 シロの戦闘を見ていたユキとフィーリアは呆然とした表情をしていた。数分前まで自分らを取り囲んでいたビックベアーがたった一人に全滅させられたのだから、驚きもするだろう。そんな二人の心意を知らないシロはスッキリした表情で振り返る。


「よしっ、全部片付いたことだし、街に戻るぞ」

「お、おー……」

「は、はい……」


 今だ先程の戦闘の余韻に浸っている二人を後ろにシロは街へと戻った。



☆☆☆☆☆☆



 街へと戻った三人はホックの店で今後の話し合いを行っていた。


「さて、基本的な戦闘の仕方は教えたわけだけど、他に何か聞きたいこととかってある?」


 ボックス席に座っているシロは前にいるフィーリアに尋ねる。フィーリアはナップルジュースをストローで飲みながら悩み素振りを見せ、口を開いた。


「えっと、このゲームって何すればいいんですか?」

「それって、最前線で戦いたいってこと?」

「?? ……え、と、最前線?」


 シロの言葉に首を傾げるフィーリア。その反応を見てシロはまずこのゲームのことについて教えることにした。


「まず、このBreake Ground Online、通称BGOはプレイヤーたちが未知なる世界を目指して未開拓エリアを開拓する。というのが基本設定なんだけど」


 今シロたちがいる《ガウス街》を中心に東西南北に広がる未開拓の土地を見つけ、そこにるモンスターやフィールドボスを倒してまた新しい土地への道を切り拓いていく。開拓されたエリアにはポータルが設置され、自由にプレイヤーは行き来できる。そして、誰よりも先に未開拓エリアにいるボスを倒して、マップを完成させた者は『先駆者ファーストブレイカー』と呼ばれるのだ。


「というのが簡単なBGOの説明になるかな。で、話を戻すとフィーリアは最前線で『先駆者ファーストブレイカー』になりたいの?」

「……いいえ、そこまでは考えていなかったです。何を目的にゲームを楽しめばいいのか分からなかったから」

「楽しみ方は人それぞれだよ。戦闘を楽しむのもよし、生産で大儲けするのもよし、のんびりするのもよし、とプレイヤーの数だけ楽しみ方はあるわけだからね」

「……」

「まぁ、その辺はゆっくり考えればいいよ。他に何か質問は?」


 シロは空になったコップを見て、ホックにおかわりを注文する。ユキはちゃっかり、デザートも頼んでいた。

 こいつ、説明する気あるのか。


「スキルって他にどんなのがあるんですか?」

「スキルには大きく分けて三つ、戦闘を優位に進める【武器スキル】、生産職のための【生産スキル】、趣味を楽しむための【趣味スキル】って言ったところかな。細かく分けるともっと多いけどこれが中心かな?」


 ホックが注文したジュースと何やらパンケーキのようなものをテーブルに置いた。シロは軽く会釈、ユキは注文が来た途端、食べ始めた。味は満面の笑みを浮かべれば想像がつく。

 シロは再度、フィーリアの顔を見て話しを続けた。


「ちなみにユキは魔法使いを意識しているから【火魔法】と【水魔法】、それから【支援魔法】を持ってる。そうだろユキ」

「んぐ? しょーりゃよ」

「ちゃんと飲み込んでから言えよ」

「ゴクリ、うん、そうだよ。まだSP《スキルポイント》はあるから新しい属性魔法取ろうかなって考えてる」


 この世界にある属性魔法には火、水、土、風、光、闇がある。

 相性は水→火、火→土、土→風、風→水、となっている。光と闇は相対しているのだ。説明を終えるとユキはまたパンケーキに食らいついた。その食べっぷりにホックは遠くから嬉しそうな視線を送っていた。


「へぇ、シロ君は?」


 ナップルジュースを飲むシロに話を振るフィーリア。訊ねられたシロはコップを静かに置くと答えた。


「俺? 俺は何も取ってないぞ」

「「……は?」」


 シロのその一言にフィーリアだけでなくユキも食べる手を止めて目を見開きながらジッと隣を見た。


「はぁ~~~~!!?」


 そして、いきなり大きな声を上げると思いっきり椅子から立ち上がった。その声にまわりにいた他の客が何事かとシロたちのいる方に視線が集まった。その視線にシロは慌ててユキを座らせる。


「ちょっ、いきなり大声出すなよ。まわりの迷惑だろ」

「これが出さずにいられる!? え、何、シロ君本当に何もスキル取ってないの?」

「お、おお……」

「そ、それであの強さ……」


 衝撃の真実にユキはポカーンと視線を宙に向けて、放心状態となった。


「あのシロ君、それって結構珍しいことなんですか?」

「さぁ? 探せばいるんじゃないか」

「いるわけなでしょう!」

「おっ、戻ってきた」

「いいフィーリア? このゲームでスキルを取らないってことは素の状態で戦闘しないといけないの」

「は、はい……」

「それはステータス差が勝敗を分けることになる。それって、つまりその差を補うほど異常なまでのプレイヤースキルが必要ってことよ」

「そんな大袈裟な。やろうと思えば誰だって出来るだろ」

「出来るわけないでしょう!! 人が素手で猛獣に勝てるとでも? そんなの漫画やアニメの世界だけよ!」


 一息でまくしたてたユキはジュースを飲んで喉を潤す。冷たいジュースが興奮した彼女の体温を少しだけ下げさせた。


「で、シロ君今まで取得可能になったスキルは?」

「【片手剣】スキル、【両手剣】スキル、それから今日で【察知】と【危険回避】、あとこの前の騒動で【番狂わせ《キリングジャイアント》】が取得可能だったかな?」


 【察知】は自分のまわりにモンスター及びプレイヤーがいたら分かるスキルでこれがあればいちいちマップを見なくてもいいので需要が高いスキルだ。

 【危険回避】は相手からの攻撃を知らせるスキルだ。


 

 そして、『シルバー』騒動で【番狂わせ《キリングジャイアント》】を得た。これは、自分よりレベルが高い相手がいた場合、自身の全ステータスを倍に上昇させるスキルだ。これは滅多にないスキルで、その理由が取得条件が《自分よりレベルが50以上高い敵を倒すこと》だからだ。シンバがレベルは80以上あったというほうがシロは驚きであったが。


「全部使えるスキルなのに何で取らないのかが私には不思議だよ」

「いや、だって、俺のスタイルこんな感じだったし」 

「つまり、シルバーはスキルを用いることなく戦っていたってことなの…?」


 なんとなくシルバーが【大罪チーター】と呼ばれていた理由が分かったユキ。二人の話についていけてないフィーリアはただ黙ってジュースを飲んでいた。


「……シロ君、悪いこと言わないからスキル取って。お願い」

「な、何でそんな潤んだ目で見て来るだユキ?」

「だってさ、そんなプレイスタイル貫いていたらきっと騒がれるよ周りから」

「……」


 ユキの言い分に黙り込むシロ。彼女が少し大袈裟だと思うが騒がれるのはシロとしても好ましくない。それに例の《神様》相手にスキルなしで挑むのも難しい。また、ひょっとしたら元【六芒星】の誰かが気づく恐れもある。そういったことを考慮するとシロはスキルを取ってもいいような気がしてきた。あと単純にスキルを使ってみたいというのもあった。


「そうだな、ユキがそう言うなら取ってみるか」

「ほんと! よしじゃあ、今すぐに取ろう!」

「お、おお……」


 今まで見たことのないテンションで迫るユキに若干引きながらシロはメニューを開く。スキルの欄を眺めながらシロはSPを使ってスキルを習得した。


『スキル【察知】を取得しました、スキル【危険回避】を取得しました、スキル【番狂わせ《キリングジャイアント》】を取得しました』


「ま、こんなとこだろ」

「これで戦闘が有利になるね」


 取ったスキルを見ながらシロはため息を吐く。スキルを使うと自分の体が違う人の体のような感覚になるからあまり使いたくないのだが、仕方ないだろう。ちなみに武器スキルは取りたいものがあるのでまた後日となった。






 しかし、シロとユキのやり取りを黙って見ていたフィーリアがジュースを三杯おかわりしていたのには二人とも気が付いていなかった。







 




 

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