うたたね。

藍沢篠

うたたね。

「……『どこかずっととおくには きっとキミがいる』っと。いちばん、できあがり!」

 コトはえんぴつをにぎりしめ、あたらしいノートのまっしろなページに、おもいついたばかりのあたらしいおうたをかいていた。

 おひるごはんに、ママのつくってくれた、おいしいチャーハンをたべたあとだったこともあったけれど、きょうはなんだかいつもよりぽんぽんとおうたがおもいつく。もっとおおきくなったら、がっきもれんしゅうして、つくったおうたに、おとをつけてみたいな。

「コト、またおうたをつくっていたの?」

 ママがコトにきいた。コトはすぐさま、

「うんっ。きょうはじょうずにかけたよ!」

 ママにむかって、げんきよくはなした。

「もしかしたら、コトは『おんがくか』にむいているのかもしれないわね。もうすこしおおきくなったら、ピアノをならってみる?」

 わらいながらそういうママに、コトは、

「いいの!? コト、いっぱいれんしゅうして、いつかママにおうたをつくるからね!」

 って、やくそくした。ママはにっこりし、

「ええ。たのしみにしているわよ、コト」

 そういってから、おひるごはんのおかたづけにもどっていった。コトはまたえんぴつをにぎり、あたらしいおうたをかきはじめる。

「つづき、どんなふうにしようかなぁ?」

 ちょっとだけひとりごとをいいながら、コトはおうたをかんがえる。かんがえて、かいて、ときどきけして、またあたらしくかく。

 おひるすぎのおひさまのヒカリがあたたかくて、しばらくえんぴつをうごかしていたコトは、ちょっとずつ、うとうとしはじめた。

「……むにゃむにゃ……」

 だんだん、めのまえがくらくなっていく。


「うーん……あれ、ここはいったいどこ?」

 コトがめをあけると、いつのまにか、コトのしらない、でもなんだかみたようなきもする、ちいさなこうえんのなかにたっていた。まわりをみてみると、コトとおなじくらいちいさなおとこのこが、ひとりだけベンチにすわったまま、しずかにうたたねをしていた。コトはそのおとこのこにちかづいてみる。

「……ラーラーララ……ラララーラー……」

 おとこのこは、うとうとしたままなのに、おうたをうたっていた。そのこえが、おとこのこのものなのに、おんなのこのコトよりもきれいで、コトはおうたをききつづけた。

(このこも、おうたがすきなのかなあ?)

 コトがそうおもった、そのときだった。

「……ラララララー……ラ……うーん……」

 おとこのこが、ゆっくりとめをあける。おとこのこのすぐちかくにいたコトをみて、そのこは、ほんとうにびっくりしたみたいに、

「うわ! おまえ、いったいだれだよ!?」

 そうさけんだ。コトはにっこりわらって、

「コトだよ。ねえ、キミのおなまえは?」

 おとこのこにそういう。すると、おとこのこはちょっといきをすってから、こたえた。

「……オレは、ヒビキっていうんだけど」

 ねながらおうたをうたっていたくらいだから、とてもよくにあうと、コトはおもった。

「ヒビキくん。いまうたっていたおうたは、なんていうなまえのおうたなの? コト、はじめてきいたから、わからなくって……」

 コトがそうきくと、ヒビキくんはいう。

「なまえはまだないよ。オレがつくったうただけど、おとしかかんがえていないから」

 コトは、まだおとをかんがえられない。だから、ヒビキくんにむかって、いってみた。

「じゃあ、コトがおうたをつけてあげる!」

 コトは、さっきまでかんがえていたおうたを、ヒビキくんにおしえてあげた。すると、ヒビキくんはきれいなこえで、うたいだす。

「……『いまはあえないけど だいすきなキミにあいたい』……『にじがかかったおそらをみて そうおもったんだ』……『どこかずっととおくには きっとキミがいる』……」

 やっぱり、ヒビキくんのこえはすごくきれいで、おうたもじょうずだった。コトは、

「ありがとう、ヒビキくん! おうたにもかいたとおり、いつかキミにあいたいな!」

 そういって、ヒビキくんにむかってにっこりとわらった。ヒビキくんはコトにむけて、

「わかった! やくそくだからな、コト!」

 コトとおなじように、わらってくれた。

 そのとき、めのまえがとつぜん、しろくなりだす。ヒビキくんがみえなくなっていく。それでも、さいごにすこしだけ、ヒビキくんがコトをみながら、てをふってくれていた。


「……ふわーぁ……ってあれ……ゆめ?」

 コトがめをひらいたら、そこはおうちのおへやだった。うたたねをしていたんだってきがつくまでに、じかんはかからなかった。

 なんとなく、わかったきがする。うたたねでみるゆめは「うたのたね」なんだって。

 コトはおうたのはじめになまえをかいた。

「キミがいる」って、しんじてみたいから。


<了>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うたたね。 藍沢篠 @shinoa40

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ