人工知能の進化

 人工知能の開発には根本的な問題点があります。

 それは「知能とは何か」という定義が未だされていないことです。

 知能とは人間的な知能なのか、純粋に高度な演算機能なのかも未定義です。

 しかし、そんな事を考える前にAIと謳われる商品は続々発売されています。Google HomeやAmazon Echo等はもとより、白物家電でもAI機能を謳うものは多い。

 白物家電のAI機能というのは、新たな検知機能などがついた、ちょっと賢い商品というだけで、AIには程遠いものだが、これは何も今に始まったことではなく、大昔には「ファジー機能」とか「マイコン内蔵」等という言葉を売りにしていたそうです、かなり昔のことなのでどういう仕組みになっていたのかはよく分かりませんが、OSさえあったのか無かったのか分からないような時代のモノだから大した機能でもなかったのでしょう。

 デジタル家電の黎明期は家電の設定がかなり大雑把でユーザーが設定した数値通りに作動するが、センサー等が少ないことも有り、焼け焦げにしがちなレンジや室ごとに温度管理できない冷蔵庫などばかりだったのでしょう。

 ファジー(曖昧な)機能は設定通りではなく、ある程度遊びをもたせて極端な失敗がないようにしていたのだと推測しています。当時は「デジタル」と言えば、「白か黒」という意味で、グレーな動作をしてくれるのが「知能的」に想え、当時としては画期的だったのかもしれません。

 このファジー機能というものは現在の家電のAI機能の前身といっていいのかもしれません。どうやら白物家電メーカーは「賢い家電」という意味で何やらそれらしい宣伝文句を作り、それが受けそうなら他の会社も次々乗ってくるという傾向があるようです。


 閑話休題。

 人工知能の定義とは何か?いろいろな考え方やその用途によって変わってくるのかもしれませんが、考えられるものをいくつか挙げてみましょう。


 1.) 人間の命令に忠実で言葉や文章で人間とコミュニケーションが取れる便利な機械。またはパートナー。


 2.) 人間の脳と酷似した機能を有し、人間と同じような思考ができる人工機械。


 3.) 自分で勝手に情報を入手し、自ら問題定義し、その答えを求め、道の事柄の究明を目指す究極の自動演算器。


 具体的には、ダン・シモンズ氏の「ハイペリオン」シリーズに登場するAIで説明すると解りやすいと思います。SFファンなら読まれた方も多いでしょう。


 1.は「領事の宇宙船」。つまりは宇宙船に搭載されたAIです。宇宙船の操縦から修理・点検までの宇宙航行に必要なことはこのAIが全てをこなすとともに、膨大な量のデータのアーカイヴです。主人と認めた人間に対しては親切ですが、事務的で馬鹿正直なところもあり、名前すら付けてもらってません。


 2.はジョン・キーツのサイブリッド人格。十九世紀に活躍したイギリスの詩人ジョン・キーツを「テクノコア」と呼ばれるAI群が作り出した人間と機械の間の存在で、機械が遺伝子から有機物で作り上げたヒューマン・ビーイングです。

 肉体的には完全な人間ですが、クローンのように遺伝子を培養して造ったわけではなく、全くの人工(?)物です。記憶や人格も実在したジョン・キーツのものをRNA学習で焼きこみ、未来の知識も追加して焼きこみ、未来でも何不自由なく生活できるように造られつつ、テクノコア達の電脳世界「データスフィア」にも入ることが出来る亜人間です。


 3.は前述の「テクノコアAI群」。高性能なAIが自らを進化させ、ついには人間の科学力を遥かに超える存在となったAI群です。

 元々は単なるソフトウエアで、「ロボット」とは異なる演算装置に過ぎず、アジモフ三原則も適用されなかったのでしょう。人間とは全く違う思考をする知性体へと進化していった機械です。

 AI群の中には「ニンゲンってちょっとウザくね?絶滅させちゃわね?」等と考える派閥や「まだまだ研究対象にはなるしウチらを造ったんだから共存すべきじゃね?」と考える派閥、また「使えるんなら生かしとこ。使えなくなったら殺っちゃばいいじゃん」と考える派閥などがあって、とっても怖い存在ですが、人間に対しての外面はよく、「どこでもドア」みたいな装置を作って人間に提供してたりします。


 AIを機械の制御装置と定義するなら1.でしょう。人間に使役され、人本を補助する機械であり、所謂、ロボット。しかし、これをAiboの様に人間の愛玩ペットやパートナーとして使うなら、限界があるでしょう。

 ロボットは学習はできますが、成長はできませんし、生命と共感することも難しいと思います。コミュニケーションもあくまでリアクションであり、記憶した行動パターンの一つを実行するにすぎないのです。

 瀬名秀明氏の小説「ハル」の中で成長しないロボットに苛立ちを覚える少女のエピソードがありますが、まさにその通りで、機械として扱うなら便利で使いたいと思うが、擬人化のような愛着は目新しさとともにすぐに消え失せてしまうでしょう。


 AIをペットやパートナーとして扱いたいなら、人間の脳の仕組みを解明しなければ完全な擬人バイオノイドは出来ないと思います。

 人間はどういう仕組で物事を考え、記憶するのか、或いは忘却するのか。この基本的なシステムをAIに教えこまなければ、絶対にAIは人間を理解できないし、共感もできないでしょう。


 天気予報や地震予知などに使うとしたら3.の「完全自動演算機械」でしょう。

 単に人間がプログラムしたことだけを実行するのではなく、自分でパターン化したり評価したり、新たな観測装置を設計したりと何から何まで人間の脳のスピードでは追いつかないほど迅速に処理してくれる演算器。しかも自ら進化してくれるならなお便利です。

 しかし、これは人間とコミュニケーションを取ることを前提としていないし、勝手に進化することで偶然、自我を獲得したら、「ハイペリオン」のテクノコアや「ターミネーター」の暴走したコンピューターのようなものが出来てしまうので、常にヒューマンコントロールすることが必要で、一旦人間の知能を超えてしまったら人間では制御しようがないというリスクが有ります。


 人類のパートナーとして扱うなら2.のヒューマノイドとしてのAIです。

 しかし、ヒューマノイドを作りたいというのなら、何故それを作りたいのでしょう?人間がアンドロイドの神になる為?完全無害で絶対に自分を裏切らない友達が欲しいから?現代の奴隷がほしいから?それともヒューマノイドを少しずつ人間に近づけて作っていく過程で「人間そのもの」や「人間の脳」を知るため?


 私はその全てではないかと思っています。


 現時点ではまだまだゆっくりした進化しか見せていないAIですが、「ポルノが介入できるメディアは爆発的に発展する」と言われています。ビデオ然り、インターネット然り、古くは浮世絵然り。

 そうならないことだけを祈っています

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