重力圏から抜けだして

 宇宙物の近未来小説に多々登場するのが「無重力」だが、過去の大御所のSF作家の小説の中でもおかしな「無重力」空間が描写されてたりする。


 無重力は厄介だ。

 何故なら我々一般人は無重力を体験したことはないからだ。

「無重力状態」ですら長時間体感したことが無い。

 現在、ISS(国際宇宙ステーション)で多くの科学者や研究者が「無重力状態」を経験しているが、「無重力状態」と「無重力空間」は全く違う。

 IFFの人達は「自由落下軌道」で「無重力状態」を体験しているだけで、彼らがいるのは地球の重力圏内だ。


 つまり、彼らでも重力の影響は受けているのだ。

 いつか人間が地球やその他の天体からの重力から開放されるほど遠い宇宙に進出できたら、「重力」というものがどんなものかハッキリするのではないだろうか。

 地上とも自由落下軌道とも違う感覚を味わうことができたら、重力とは何なのか分かるような気がする。


 人間は空気や重力など「当たり前」の事を検証得するのが難しい。

 言葉や数式では簡単に理解できるが、体感するのと聞くとは大違いであることは想像するまでもない。

 そこまで遠くに行かないと重力の秘密は決してわからないような気がする。


 閑話休題それはさておき、小説を書く場合は、無重力状態を描写するのには苦労させられる。


 上と下がない世界というのは想像しづらい。

 歩くことは困難だし、長い髪の毛は縛っていないと、メデューサのごとく四方八方に広がってしまう。スカートはめくり上がり、長くなればなる程、頭に絡みついたりするので厄介だろう。

 宇宙船内でフェミニンなファッションにしたいなら、スパッツにミニスカートがいいところなのだろう。

 他にも、メガネをかけていたら、すぐに空中に浮遊しようとするし、ネクタイピンが取れたらネクタイは顔に絡みついて大変なことになるだろう。

 宇宙での「制服」は当然ガンダムファーストのような詰め襟タイプになるでしょうね。


 食事なんかも大変だ。

 最近は地上とあまり変わらない食事の開発が進んでいるようだが、未だにウイダーinゼリータイプの食事がメインみたいだ。

 あっちこっちに食べ滓が飛び散ったら大変なことになるのだろう。


 個人的には宇宙食にはおにぎりがオススメだ。

 具は何を入れてもいいから、レパートリーは無限大だし、散らばらない。

 サンドイッチやハンバーガーもあるが、パンカスやソースが飛び散りそうなので、おにぎりの方がはるかに食べやすいだろう。

 操縦桿を片手にジャポニカ米のおにぎりを頬張るスペースシップの船長なんて絵にならないだろうか?

 今度書いてみよう。


 またもや話がずれてしまった。


 我々はよくIFFからのテレビ回線映像を目にするが、画面上のアストロノーツ達は実に快適そうに無重力状態を楽しんでいるように見えるが、アレは大変なことだと思う。

 そもそも、彼らは地上で何ヶ月も訓練して合格した者たちで、運動神経も元々いい人たちである。

 大して運動神経のない我々がIFFに行ったら、タンコブと痣だらけになるのではないだろうか。

 腕を振っただけで、反動で身体が回転してしまう世界だ。回転の制御に失敗してもがけばもがくほど、回転は複雑になり、早くなる。

 歩くどころか、動くだけでも気が抜けないのではないだろうか?

 アメリカ人小説家はよく無重力船内で「熱いコーヒー」を飲みたがるが、そんなことをしたら口の中が火傷しまくってしまうのではないだろうか?


 体験したことのない事は、兎角、想像するのも描写することも難しい。


 宇宙物を書くのなら、「重力発生装置」などで1G環境にするのをオススメする。

 どんな理屈でどう機能しているのかなんて、どうでもいい。

 ぶ厚くゴテゴテしたブラウン管のテレビが数十年で薄型液晶テレビになるのが我々の科学力だ。リノリウムタイルのように薄くて軽くてエネルギーを使わない重力を発生させるモノが出来ても不思議はない。


 そんな訳で、「リアル」に拘って無重力空間を描写してアラを出すより、どうにかして1G空間を作り出すことをお勧めします。無重力の不思議な世界を描写したいなら、その限りではありませんが…


因みにタイトルは、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」のパクリです。その真意も含めて…

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