第12話 意外な助け人?
あれ、ここどこ?
目が醒めると一番最初に感じた事が
「寒!」
気づけば石肌の地面で寝ているし、服装は怪盗姿からマントとマスク、それに色んな道具を詰めたポーチがなくなっている。
(うん、これは捕まっちゃってるね。)
目の前にある鉄の柵を見れば誰でも理解できるだろう、これで見える先が牢屋の中で、ここが牢屋の外なら嬉しいのだが、生憎見渡す限りでは扉らしい出口は目の前の鉄の柵しか見当たらない。
ただ確かなのが、ここは街の詰所ではなく、父が所有する屋敷の何処かだろうという事だけは分かる。
何故かって? そんなの私以外に人の気配はないし、牢屋に入れられてまで手足を縛っておくのも不自然だろう。
そう、今の私は足首と両腕を後ろでご丁寧にも縛られており、起き上がる事も出きない。
どうにか縄を解けないかゴソゴソするも、余程上手く縛られているのか緩みすらしない。
しばらく縄と格闘していると、誰かがやってくる足音が聞こえてきた。
「まさかお前が怪盗の正体だったとはな」
転がった私を牢の外から見下ろしながら、義兄が声をかけてくる。
「知っていたから、お母さんを使って私を罠に嵌めたんでしょ!」
「知らなかったさ、あの怪盗は俺たちが奪い取った物を取り返しにきていたから、それを利用しただけだ。
先日お前から奪った腕輪を取り返されたからな、何らかの接点はあると思っていたが、まさか等の本人だったとは思ってもいなかったよ」
「だったら何でお母さんを連れ去ったのよ!」
「別に連れ去ってなどいないさ、ただ適当な理由をつけて家から出かけてもらっただけだ。今頃どこかの町で温泉でも楽しんでるんじゃないか?」
まんまと嵌められた。おかしいとは思っていたのだ、いかに理不尽なことであれ私との取引でお母さんには手を出さないと約束をしている。もしどちらかが先に約束を破ればそれなりの報復ができる状態だったのだ。
「お前との取引があったからな、下手に母親に手を出して伯爵家との関係を絶ちたくなかったし、余計なことを言いふらされるのも困るからな。
だから適当な人間を使って不確定な情報を伝えたのだ、後はお前の母親に似た女性をこの屋敷に連れ込んだという目撃情報を作れば、何らかの行動を起こすんじゃないかと思ってな。まさかこんなにも上手くいくとは正直思ってもいなかったよ」
それじゃマーサさんは義兄に頼まれて嘘の情報を私に……
「心配しなくても警備隊に突き出したりはしない、ただ二度と逆らえないようお前の母親はこちらで預からせてもらうがな。」
先に手を出したのは私だから責められても仕方がない、だけどお母さんまでも巻き込んでしまった。この先私は何一つ逆らうことが出来なくなるだろう、こんな事なら警備隊に突き出された方がどれだけマシか。
「さて、どうやってあれの在り処を突き止めたかしらないが、お前が盗んだ金庫を返してもらおうか。どうせ中身を取り出せていないんだろう? あれは特殊な方法でないと決して開ける事は出来ないからな」
ん? あぁそうか、リゼット義姉様があっさり開錠しちゃった事を知らないんだ。それじゃ金庫を取りに行っている間に逃げ出せばまだチャンスはあるよね。
ここを抜け出して警備隊に全てを話し自首すれば、お母さんの安全を確保してくれるだろうし、父や義兄に一泡吹かせる事もできる。フィル様や義父母様達に迷惑をかける事になっちゃうけど、父に脅されて無理やり結婚させられたとか言っておけば、フランシスカのお屋敷は私を見捨てても、周りからの目はそれほど厳しくもないだろう。
「わかったわよ、金庫はある場所に隠してあるわ」
隠したというより見つからない場所に捨てたんだけど別にいいわよね。
「どこに隠した」
「王都の西にある大きな公園の森の中よ」
「いいだろう、金庫が見つかるまで暫くそこで反省しているんだな」
そう言い残すと義兄は立ち去り、私は再び一人になった。
***************
「クリスが帰って来てない?」
こちらの準備が全て整ったので、様子と報告を兼ねてフランシスカのお屋敷を尋ねたら、あの子の専属メイドというフィオナから聞かされたのが、昨夜怪盗として出かけたっきり戻らないという話しだった。
今は急に体調を崩した母親の所に戻っていると誤魔化しているそうだが、そんなに時間は掛けられないだろう。
「すみません、奥様もリゼット様に言われ二度と怪盗はしないとおっしゃっていたのですが、お母様が連れさらわれたという話しがあり、仕方がなく……」
迂闊だった、あの子の弱点でもある母親を持ち出されれば直ぐにでも飛び出すはずだ。だけどこれは罠の匂いが濃い、きっと今頃何処かに囚われているだろう。
「多分クリスに危害を加えるつもりはないと思うわ。伯爵家の婦人が行方不明となると大騒ぎになるし、早ければ今日中にも解放されるんじゃないかしら? ただ何かしら逆らえないよう条件を突きつけられるでしょうけど」
「それだと今は何もせず待っていた方がいいのでしょうか?」
「それがそうもいかないのよ。実は今日、ロズワード商会と私のお屋敷、そしてその実家である義父のお屋敷に騎士団が入る事になっているのよ」
「そ、それって!」
「彼らの罪状が確定したから逮捕状が出ているわ、それで今日一斉の摘発が行われる予定なのよ。それまでにクリスをた助けださないと、どうせ怪盗姿のまま捕まっているだろうから、そんな状態で騎士団に見つかればどうなるかわかるでしょ?」
リミットは公爵様とフィルが王都に戻るまでの間、表面上は他領の視察となっているが、私が差し出した書類の裏ずけをする為、隣国の協力を得て武器商人の摘発に向かったのだ。
報告では無事摘発は完了し、ロズワード商会との取引が行われた証拠も見つかっているという。
それまでに何とかして助けださないと、騎士団の面々にクリスの姿を見られてしまえば言い訳のしようがない。せめて事前に知らせておけば何とかなったかもしれないが。
コンコン
フィオナとどうやってクリスを助け出すかを話し合っていると、誰かが部屋の扉をノックしてきた。
「ちょっといいかしら?」
「大奥様! どうなされたのでしょうか?」
部屋に入ってきたのはフィルの母親である元伯爵婦人、フィオナが慌てて対応にあたる。
「貴方達、クリスの事を探しているのでしょ?」
「「!!」」
「隠さなくてもいいわ、公爵家の情報網を使えば大体の事は入ってくるのよ」
そうだった……この人の母親であるエリス様と元ハルジオン公爵家のご令嬢ユミナ様は、知る人ぞ知る超一流の諜報員。お二人の手にかかれば明日の野菜の値段から、今着ている下着の色まで何一つ隠せる事がないと言われるほど恐ろしい人だった。
「心配しなくても大丈夫よ。クリスの事は任せておいて、すでに信頼のできる子に向かってもらっているわ。」
「クリスが何処に囚われているのかご存知なんですか?」
「ええ、そろそろ出会っている頃じゃないかしら、きっと今頃驚いているわね。ふふふ」
「「??」」
驚く? それほど考え付かない人が助けにいったのだろうか? どちらにせよこの人が大丈夫だというのなら安心してもいいのだろう。全くこんなにも周りから愛されているんだから、もっと私たちを頼ってほしいわね。
***************
うぅ、外せない。
物語のように壁か何かに擦り付けたらローブが切れたりするけど、あれって嘘ね。さっきからずっと試しているけど一向に切れる気配はない。
このままでは金庫を見つけ出されて戻って来ちゃうじゃない。
ぐぅー
「おなかへったよー」
今が何時頃かわからないけど、さっきらお腹の虫が鳴りっぱなしだ。
こんな所をフィル様に見られでもしたら、恥ずかしくて二度と顔を見せられない。そんなどうでもいい事を考えていた時だった。
この場にそぐわない可愛らしい鳴き声が聞こえてきたのだ。
「みぁゃー」
「みぁゃー? ってシロ!?」
目の前に現れたのはフランシスカのお屋敷でお馴染みの白い子猫、以前から進出鬼没だったけど流石にこの状況で現れるのはおかしいでしょ!
「何でこんな所にいるのよ」
シロは何事もないかのように鉄格子の隙間から中に入り、私の後ろに回ると。
「みぁゃー」
「へ? 縄がはずれた?」
何をどうやったかは知らないが、手足を縛られていた縄が自然と外れる。
「今何をしたの?」
尋ねても当然答えてくれるはずもなく、そのまま牢屋の外に出てしまう。
「ちょ、ちょっとまってよ。せめて鍵だけでも……って開いてる!?」
なんなのよ一体、普通の子猫だとは思ってなかったけどこの不思議な力は説明がつかない。もしこれが魔法ならなんらかの言葉が必要になるのだ、それなのにシロは『みぁゃー』としか言っていない。
「おい、なんの騒ぎだ!」
いけない、余りの常識はずれに大きな声を出してしまった。
誰かがこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
「どうしよう、牢屋に戻るにしても鍵が開いている事は誤魔化せないし、出口なんて他にないよね?」
シロに尋ねても答えてくれることは……
「(そこでジッとしていろ)」
「って、えぇーーー!!! シロがしゃべった!?」
「何を騒いでいる!」
「おい、貴様どうやって牢屋から出た!」
私の驚きはやってきた二人の男性によってかき消されてしまった。
何なのよもう、お義母はシロが喋れるなんて言ってなかったわよ。
「みぁゃー」
「なんだこの猫? どこから入った」
「みぁゃーああーーがーガルゥー」
…………
………………
……………………はぃーー!!??
可愛い鳴き声が次第に獣の鳴き声に変わったかと思うと、私の背丈と同じぐらいに大きくなったシロ。
「ば、ば、化け猫!?」
「(誰が化け猫だ、我は聖獣、悪いがしばらく眠っていてもらうぞ)」
シロが一鳴きすると、その場で崩れるように倒れ込む二人の男性。胸が上下に動いている事から気を失っているだけだと思うけど。
「シロなのよね?」
見た目はすっかり変わってしまったけど、変身する姿を目の当たりにしたのだから間違えようがない。
「(我が名は
「か、」
「(か?)」
「かわいくねぇーーー!!」
「(をい)」
「いやだって、あの可愛いシロの正体がこんなゴツい猫だったなんて」
「(猫ではない、トラだ)」
そこは訂正するんだ。
それにしてもあの可愛かったシロはどこへいったのよ。しくしく
――――――――――
「おい何だお前ら」
「貴様ら動くな! 王国騎士団だ」
「くそ、なんてこんな所に」
何だか上の方が急に騒がしくなってきた。
今王国騎士団って聞こえなかった?
――――――――――
「(来たようだな、奴らに見つかるとマズイ、とにかくここから出るぞ)」
「出るってどうやって? 見つかるとマズイんだよね?」
多分ここは地下だと思うけど、出るにしても一つしかない階段を登らなければならないだろう、そうするとどうやったとしても見つかるのは必然と言うものだろう。
「(我の背中に乗れ)」
「背中? 乗っても大丈夫なの?」
「(問題ない、急げ)」
心配しながら背中に跨ると以外と安定していて乗りやすい。
「(行くぞ、しっかりつかまっておけ)」
再びシロ……
「って、きゃぁーーー、そら、空ぁーーっ!」
一瞬目の前はボヤけたかと思うと、次に目に入ったのが辺り一面の青。そして足元には小さく見える街並みって、ここ空中じゃない!!
「(落ち着け、こら毛を引っ張るな)」
「いやぁーおちるぅーー、高いのこわいーー!」
「(心配するな、ってこら抱きつくな)」
この後余りの怖さに気を失ってしまったので、何がどうなったのかは分からないが、気づけばフランシスカのお屋敷の庭園でシロをキツく抱きしめて眠っていたところを、メイドさん達に助けられたそうです。
私の服装にメイドさんたちが驚かなかったのかって? なぜか何事もな無かったようにベットに運ばれてましたけど?
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